投稿日:2025年10月21日

靴の中敷がズレない接着剤塗布パターンとプレス圧力制御

靴の中敷がズレない接着剤塗布パターンとプレス圧力制御

はじめに:アナログとデジタルの狭間で揺れる製靴業界

靴の中敷(インソール)の固定は、靴製造工程のなかでも見落とされがちですが、歩行時の快適さや製品寿命を大きく左右する重要なプロセスです。
しかし、国内の多くの靴工場では未だ昭和時代からほぼ変化のない手作業や勘に頼った接着とプレス工程が根強く残っています。
一方で、最近では省人化や品質のバラつき低減、再現性向上のためにデジタル技術や自動化機器への投資も増え始めています。

本記事では、靴業界における中敷の「ズレ」を如何に防ぐか、そのキモとなる接着剤の塗布パターンとプレス圧力制御について、現場経験を踏まえて詳しく解説します。
また、バイヤーやサプライヤー視点からも品質要求と現場のギャップ、今後求められる在り方について考察します。

なぜ中敷がズレるのか ― 基本要因を知る

中敷ズレの物理的要因

靴の中敷がズレる主な原因は下記の3つです。

1. 接着面の接合力不足
2. 加圧不良による未圧着箇所の発生
3. 接着剤の塗布ムラや適性外使用(厚塗り・薄塗り)

これらに加え、「塗布→組み立て→加圧プレス」の工程間タイミングのズレや、工場内環境(温度・湿度)の変動も影響します。
従って、単に「手順通りやる」「良い接着剤を使う」だけでは、本質的な不良防止策にはなりません。

中敷ズレの品質リスク

中敷のズレや浮き上がりは、クレーム発生のみならず、歩行時のバランス崩壊や足の怪我を引き起こすリスクにも直結します。
「たかがインソール」と軽視せず、グローバルで通用する高い品質を追求する上では、本工程を侮れません。

最適な接着剤塗布パターンとは何か

業界の常識「全面塗布」は本当に最適か

長らく靴業界では「中敷の形状に沿って全面塗布」が常識とされてきましたが、実は全面ベタ塗りは「塗布ムラ」「乾燥遅延」「圧締時の気泡混入」など多くのデメリットを孕んでいます。
東南アジアの一部大手ファクトリーでは早くからパターン塗布やポイント塗布へと移行し、結果的にズレ防止と量産効率の両立を実現しています。

現場視点の塗布パターン例

1. エッジ重点塗布パターン
中敷の外周(エッジ)に沿って1cm幅程度の帯状に塗布。
中心部はストライプ状または格子状に塗り分けて、必要最小限の接着面積で高い保持力を実現します。

2. 要点ピンポイント塗布
踏まずやかかと部など、ズレ荷重が集中するポイントのみ強固に塗布。
それ以外は薄く均一塗布で材料コストを抑制します。

3. スパイラル(螺旋)塗布
極薄~薄塗りでスパイラル状に間隔を開けて塗布し、圧着時に全体へ均一に広がる現象を活用します。

どのパターンも、耐久試験や実使用テストとセットで検証することが不可欠です。
闇雲な「全面塗布」主義から脱却し、個々の靴モデルや材料特性に合ったパターン選定が競争力向上の第一歩です。

自動塗布装置の活用と課題

省人化と安定品質の観点から、最近はディスペンサーや自動ノズルを導入するケースが増えています。
特に1点1点パターンを変えられる多関節ロボットでの応用は、バイヤー各社からも高く評価されています。
一方、塗布パターン設計や粘度管理には熟練技術者のノウハウが不可欠であり、「全自動=失敗ゼロ」とならない点に注意が必要です。

プレス圧力制御の最適化 ― 日本工場の課題と解決法

昭和的「手押しプレス」からの脱却

中敷の圧着には専門プレス機が用いられますが、多くの国内工場では今も1台ずつ職人が手でセットし、レバーや足踏みで力加減を調整する方式が一般的です。
この場合、作業者ごとの差異が大きく、「ある日はガチガチ、ある日は緩い」という品質バラつきが起きがちです。
また、熱プレス方式で高温によるブリスター(空洞形成)のリスクや、押しムラによる中敷変形も課題です。

現場の声:理想的な圧力と保持時間

弊社現場で数百件の工程データ・不具合検証を積み重ねた結果、下記の点が重要と判明しています。

・加圧圧力は部材・接着剤特性ごとに10~20N/cm2を目安に調整
・加圧タイマーは「最短安定」値(通常30~60秒)を必ず現場で検証
・圧力制御はエアシリンダー式自動加圧機を推奨
・不可逆変形や接着剤流出を招かぬよう、ロール巾・ローラー形状にも配慮

特に「手動で最後ギュッと押す」「急いで外す」などの”職人技”的省略は、本来の接着力を大きく損ないます。

デジタル管理への移行が道を開く

最新設備では、PLCやタッチパネルで圧力・温度・時間を記録管理し、銘柄やサイズごとに自動切替する方式が普及しつつあります。
これにより、作業者ごとの品質バラつきや「現場の勘」に頼る体質からの脱却が実現します。
また、AI画像認識で圧着不良を検知する仕組みも欧米系ファクトリーで導入実績が増えています。

バイヤー/サプライヤーの立場から考える品質要求

バイヤーの真のニーズを知る

靴メーカーや商社のバイヤーがサプライヤーに強く求めるのは、「輸出時にクレームの起きない最低限の品質保証」と「再現性ある量産体制」です。
インソールのズレや浮きは、「箱を開けてすぐ分かる」初期不良であり、出荷段階で落とされやすいポイントであるため、発生ゼロへの努力が必須です。

バイヤーが重視するチェックポイントは下記です。

・全数量でのズレや浮き発生率(合格率99.9%以上が当たり前の世界)
・原価へのインパクト(接着剤や工数削減も要求される)
・ロット間・月間の品質安定性(データ記録と長期追跡への対応)

サプライヤーとして競争力を高めるには

単に「指示された通り」作るだけはアジア新興国との価格競争で埋没します。
塗布パターン提案や加圧装置の改良など、現場改善の積極性を見せることが強い信頼につながります。
また、バイヤーと仕様協議を行い「どこまで、どのレベルを担保します」と宣言できる体制作りも差別化要素の1つです。

工場現場の改善活動と連動させて、トヨタ生産方式等の”標準作業”や”見える化”を積極的に導入し、不良の未然防止体制をアピールできれば、価格以外の競争軸で評価されやすくなります。

アナログから抜け出せない工場現場の次の一歩

現場が抱える「意識の昭和」問題

中敷のズレ対策に限らず、国内靴工場では「昔からこれでやってきた」「手の感覚で微調整すればいい」というマインドが今なお根強く残っています。
高度な技能継承も大切ですが、”勘と経験”一辺倒では食品や自動車部品並みの品質競争を戦うことはできません。

全国の製造現場でよく見かける「手間はかかるが、これしか知らない」「新人に教えるのが面倒」などの消極的要素を、いかに打破していくかが未来の鍵です。

ラテラルシンキングで現場課題を捉え直す

「塗布量の安定化」なら、材料の粘度や塗布方法だけでなく、検査システムの強化や現品ラベルへの工程追記など、多面的なアプローチが有効です。
「プレスムラの低減」なら、自動圧力記録+IoT連携で不良傾向の早期警告を仕込むことも可能です。

また、既存設備の活用でも、エア抜き用小孔の試験導入や「可変圧力プログラム」のアドオンなど、ラテラルな着眼点が次世代の現場力を高めます。
現場のボトルネックやムダの本質に深く斬り込み、枠組みに囚われぬ”異業種転用”的思考が、製造業を次の高みへと導きます。

まとめ―「ズレないインソール」は現場の未来を変える

靴の中敷がズレないための接着剤塗布パターンとプレス圧力制御は、細かな現場作業の積み重ねに見えて、実は工場力や企業競争力の根幹を成す重要テーマです。
「ザ・アナログ」な現場であっても、パターン設計や圧力制御の自動化、ラテラル発想による微差改善が集積すれば、安定品質の突破口となります。

バイヤーやサプライヤーにとって今この瞬間、現場で何が行われているのか、何を変えるべきなのかを深く考え、知恵と実践を融合する動きが何より大切です。
月並みな改善に留まらず、「ズレない」「ムダがない」「働き手にもやさしい」現場づくりに挑戦し続けましょう。

そして製造業に従事する皆様が、インソールの品質管理を通じて日本のものづくり、ひいては世界の靴づくりを変革していく――そんな未来を切り開く一歩となることを心より願っています。

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