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アース部材の断面不足がトラブルを引き起こす理由

アース部材の断面不足がトラブルを引き起こす理由
はじめに
製造業の現場において、電気設備のアース(接地)は安全性・信頼性の根幹を支える非常に重要な要素です。
その中でも、アース部材の「断面積」の確保は、現場で見落とされがちなものの、重大なトラブルへ繋がるリスクをはらんでいます。
私は20年以上、大手製造業の現場で調達や生産管理、品質管理を経験し、工程設計や現場改善も数多く行ってきました。
その中で、アース部材の断面不足が引き起こした数々のヒヤリハットや実際の事故にも遭遇しています。
この記事では、なぜアース部材の断面不足がトラブル発生要因になるのか、現場目線でリアルに掘り下げ、バイヤーや現場担当者、サプライヤーにも役立つ知識をお届けします。
アース部材の「断面」とは?
まず、「断面」とは導体の太さ、すなわち導線(銅線など)の断面積を意味します。アース部材において断面が不十分だと、電流容量不足や発熱過多といった問題につながります。
JIS規格や各種電気関連法令でも、アース用導体の太さに厳格な規定があります。それは「十分な電流を瞬時に、かつ安全に流す」ことができなければ、感電事故や火災のみならず、設備損傷・生産停止などを引き起こすリスクがあるからです。
なぜ断面積が足りないと問題なのか
断面不足はさまざまなトラブルを引き起こします。そのメカニズムを具体的に整理します。
1.発熱による設備損傷・火災リスク
アース部材に流れる電流が設計値より多い場合、導体が耐えきれず異常発熱します。
十分な断面積があれば熱損失も抑えられますが、細いケーブルでは急激に温度が上昇し、絶縁体の劣化や最悪の場合、発火事故も起こります。
製造現場でよく見かける「焦げ臭い」・「絶縁被膜の溶け」が起きたら要注意です。
2.電圧降下による機器誤動作
断面が不足していると、アースへの電流が流れる際に大きな電圧降下を生じます。
その結果、接地電位が基準からズレてしまい、PLCや制御盤といった電子機器が正常に動作しなくなるなどの誤動作を誘発します。
特にデジタル制御機器が増えた昨今、アース不備による一次側・二次側の誤作動は深刻な生産ロスを招きます。
3.落雷・静電放電時のリスク増大
雷などの高電圧が瞬間的に流れると、大容量を瞬時に大地へ流す必要があります。
断面不足のままだと雷サージを十分に逃がせず、設備機器に多大なダメージを与えます。
また、近年課題となっている微細電子機器へのESD(静電気放電)も、アース断面不足が感電や機器損傷の温床になります。
4.溶接や接続不良による信頼性低下
アース部材を現場で溶接・圧着する際、断面が小さいと信頼性も低くなります。
振動や熱膨張で端子が緩みやすく、結果的に接地抵抗値が狂い、長期運用でのトラブルリスクが増します。
現場で起きた断面不足の事例
私が実際に経験した現場事例から、断面不足のリスクを具体的にご紹介します。
ボンディング不良でライン停止
某自動車部品工場で、アース線のボンディング(筐体間接続)に細めのケーブルが一部使われていました。
工程改善で新しく制御盤を追加する際、設計値未満のアース線が使われていたことから溶接部に過熱が生じ、絶縁体の溶断とともにライン全体が停止。
生産復旧まで数時間、数百万円単位のダウンタイムとなりました。
問題は「取付場所が見えにくい」「誰もが“細いほうがコストダウン”と信じていた」ことでした。
経験の浅い購買バイヤーや現場担当が、現物を見ずに判断していたことが事故要因です。
定期点検での温度異常発見
年次の保守点検時、制御盤脇のアース線をサーモグラフィで点検したところ、他の箇所に比べて局所的に高温を示す部分が判明。
調べると、断面積が最低基準未満だったことがわかりました。
早期の交換で事なきを得ましたが、万一生産ピーク時に電流が増えた場合は火災リスクも否定できない状況でした。
現場レベルでは「今まで大丈夫だった」という慢心がトラブルの温床になりえます。
アナログ現場の限界と、これからの対策
昭和から続くアナログなものづくり現場では、「長年こうしてきたから大丈夫」「規格表を見ればOK」という考えが根付いています。
しかし、高密度化・IoT化が進む今、従来規格だけでは対応しきれないケースも増えています。
バイヤー・調達の役割進化
バイヤーの方には、単純なコストや納期だけでなく、現場の運用や最新設備の情報もアップデートして判断する能力が求められます。
例えば「同じ設備に対しても、将来的なデジタル化や、設備増設で流れる電流が増えるかもしれない」という視点も必要です。サプライヤーへの選定基準にも、その目線が不可欠です。
現場担当者・エンジニアへの提言
設計図面通りのケーブル手配や、仕様変更なしのまま既存部材を流用するのではなく、「現場の変化=消費電流増加、温度変化」などを丁寧に観察し、小まめな現場点検・追加測定を習慣とすることが重要です。
“見えないから大丈夫”ではなく、“見えない所こそ危ない”を意識しましょう。
サプライヤーの視点
アース部材・電設資材を供給するサプライヤーは、バイヤーの要求図面を鵜呑みにせず、現場の利用環境や使用機器の特性をヒアリングし、本当に必要な断面積や材質、設置方法の提案力を持つべきです。
また、納入後の運用状況やトラブル事例にも興味を持ち、共に改善策を検討するパートナーとしての関係づくりが今後の信頼構築に直結します。
デジタル変革で変わるアース部材運用
近年、製造業現場でもIoTセンサーやデジタル温度計、サーモグラフィなどを活用し、アース部材の温度管理や電流監視が容易になりました。
AI・IoTによる「見える化」
例えば、盤ごとにIoT温度センサーを取り付け、異常発熱時は自動アラーム・メール通知を行うシステムも実用化が進んでいます。
定期点検の省力化・精度向上のみならず、断面不足の予兆発見にも役立てられます。
DB管理でトレーサビリティ実現
アース部材の納入ロット・型式・ケーブル径などをデータベース化し、現場改善やトラブル時の履歴追跡が容易になるため、再発防止・継続的な品質向上にも貢献します。
まとめ:アース部材の断面を軽視しない現場力を
アース部材の「断面不足」は、安全・生産・品質すべてに直結するクリティカルなリスクです。
昭和流の経験則だけで工程を回したり、コストや調達納期を最優先したりする姿勢は、もはや通用しません。
これからの現場では、「断面」=「安全への投資」であり、見えない部分へのこだわりや、見える化+予知予防保全の視点が必要とされます。
バイヤーも現場担当者も、サプライヤーも、単なる部材選定に終始せず、現場トラブルの本質とリスクを理解し、対策を一歩進めていくことこそ、これからのものづくりに求められる現場力だと私は考えます。
製造業の未来を切り拓く一人ひとりの現場目線に、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。