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物流システムのマスタ整備が不十分で人手フォローが増える現実

目次
物流システムとマスタ整備の現状
物流システムは、製造業の根幹を支える業務基盤です。
しかし実際の現場を見てみると、最新のシステムが導入されたとしても、その運用実態では「人手によるフォロー」が当たり前になっているケースが非常に多いです。
その根本的な要因の一つが、「マスタ整備の甘さ」にあります。
マスタ整備とは、品目マスタ、取引先マスタ、仕入先マスタ、物流拠点マスタなど、システムで扱う基礎データを正確かつ、鮮度高く維持管理することです。
マスタが正しく整備されていないと、物流システムはいくら優秀でも本来のパフォーマンスを発揮できません。
この記事では、なぜマスタ整備が進まないのか、その結果どのような問題が生まれているのか、そして現場でどう対応しているかを解説し、製造業の発展に向けた考察を深掘りします。
なぜマスタ整備は後回しにされるのか
IT化は進んでいるはずなのに…
DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれ、製造業でも物流システムの刷新やERP導入が相次いでいます。
それにもかかわらず「マスタ整備」は、現場から見ると、導入プロジェクトの末尾あたりに形式的に扱われてしまいがちなテーマです。
理由の一つは、マスタ整備は地道な作業で即効性や成功体験を見えにくいこと。
現場のオペレーションに直接的なインパクトを与える工程変更やレイアウト改善と比較すると、優先順位が下がりがちです。
業務部門・情報システム部門の壁
多くの組織で問題なのは、マスタの維持管理責任があいまいになっていることです。
「データは情報システム部門でしょ」「品目は購買部門が担当でしょ」と押し付け合いが発生し、最終的には誰も真剣に整備しません。
特に昭和的なアナログ文化が根強く、「現場が回っていれば良い」という意識が根底にあるため、抜本的なデータクレンジングやメンテナンスが後回しになります。
属人化によるブラックボックス化
物流部門や購買部門の古参社員が、頭の中にマスタ情報(在庫のクセや過去の調達トラブルなど)を抱え込みがちです。
システムの指示やマスタの登録ミスに気づくと、ベテランが「これは手入力で修正しよう」と即座に対応してしまう。
こうした属人的な運用が続くと、正しいマスタの必要性そのものが、現場から見えにくくなります。
マスタ整備不足がもたらす実際の現場問題
目視・手入力の手間がエスカレートする
例えば、物流システムに登録されている商品コードや取引先コードが実態とズレていると、現場ではピッキングや配車業務で常に「例外処理」が生まれます。
「この取引先は、システムでは東京支店だけど、実際は大阪に直送」「この品番は去年モデルだけど在庫分混載」など、毎回現場がマスタのエラーを人手で埋め合わせしています。
中には「人手で直すこと前提」で業務フローが組まれてしまい、かえってシステム活用が進まない悪循環に陥っています。
品質・トラブル対応コストの増大
誤ったマスタ情報をもとにピッキングや出荷を実施すれば、納品先違いや異品混入リスクが高まります。
そのリカバリーのための調査やお詫び対応は、実は現場の負担になっています。
品質管理部門も「ヒューマンエラーが多発している」と問題視しますが、根底には“マスタ整備不足”が横たわっています。
IT投資の効果が半減する
せっかく何千万、何億円のシステムを導入しても、マスタがぐちゃぐちゃだとシステムの本来機能がフル活用できません。
逆に現場では「やっぱり使えないじゃないか」とシステム不信が蔓延し、本来の業務改革や生産性向上が停滞してしまいます。
現場の知恵がサイロ化し、属人性が拡大
マスタ不備が起こるたびに、ベテラン社員が自分流に手直しをして問題を場当たり的に解決し続けるため、ブラックボックス化が進みます。
これが人材の流動化や世代交代を阻む要因となり、次世代が育ちません。
業界特有の「昭和的」アナログ体質との絡み
「帳票主義」とデータ連携の断絶
昭和世代に強い帳票主義が根強く残っています。
なのでシステム導入時にも「とりあえず今の紙を画面にしただけ」の運用になりがちです。
マスタデータベースとの本格的な連携やデータ一元化の重要性よりも、「いかに現場紙帳票に寄せるか」が優先されてしまい、いつまでも古い業務フローが再生産されます。
スモールスタート志向の落とし穴
「まずは一部現場でテスト」「使いながら徐々にマスタ化」と小規模スタートを好む企業文化も、逆にマスタ整備の遅れを生みがちです。
全社最適よりも個別最適に目が行き、全体としてデータの非整合・不一致が放置されやすい傾向にあります。
設備更新サイクルに依存した意識
設備投資の大半が、現場の更新設備や物流機器に優先され、IT系の基幹インフラへの投資は後回しというのもアナログ体質の表れです。
「物流設備を刷新したから一安心」と思い込みがちになり、根本のデータ品質や情報ガバナンスへの意識が追いついていません。
現場で実践してきたマスタ整備のアプローチ
業務担当者を主役にした「マスタ責任者制度」
実際、私が工場長や管理職として現場を率いた際、マスタ整備の肝と感じたのは、「現場担当者自らマスタ設計と維持管理に主体的に関わる」ことです。
購買担当・在庫管理担当・物流担当それぞれが、自部署で使うデータの意味・活用シーン・ミス時の影響までを理解し、マスタ登録や更新作業を“自分ごと”にできる体制を作りました。
「情報システム部門まかせ」にしないため、現場担当の全件チェック会議や、定期的なマスタ洗い出しをルーティン化。
現場が「この属性は業務の何に効いてくるか」を理解し、不一致・重複登録などの具体的な不具合例を目にしてもらうことで、マスタ精度向上へのモチベーションが高まりました。
マスタ管理を業務フローに埋め込む
現場の日々の活動の中に「マスタチェック」「データのメンテナンス」「改善提案」を組み込みました。
たとえば定例会議に「直近1週間のマスタミス報告・改善」の時間を設け、小さな改善でも褒め合う文化を根付かせます。
これにより、現場主導でのマスタ品質が目に見えて向上しました。
システム部門との二人三脚
情報システム部門とは「センサーとアクチュエータ」の関係に近いイメージを共有しました。
マスタのズレ情報を定期的に現場からフィードバックし、システム部門が「改善案」や「自動修正ツール」を開発。
この双方向性が、マスタ整備への現場参加を促しました。
マスタ整備の「攻め」の効果と今後へのチャレンジ
属人化からの脱却とデータ基盤強化
しっかりマスタを整備すると、ブラックボックス化や属人性が解消され、業務標準化が一気に進みます。
とくに若手や異動者が現場に入っても、「この業務はこのコードで処理」「例外処理はこう対応」と明文化されているため、引き継ぎがスムーズです。
また、正確なデータが手元にあれば、BIツールやAI活用へも一気に道が拓けます。
調達・供給・生産管理それぞれのKPI分析や、プロアクティブな需給調整が可能となり、バイヤーやサプライヤーも客観的なデータで意思決定できるようになります。
業界の壁を越えたデータ連携の可能性
今後、製造業全体として「データ連携」「プラットフォーム化」が加速すると予想されます。
その際、各社・各拠点のマスタ精度が信頼性や競争力に直結します。
特に多層構造のサプライチェーンや、顧客も巻き込んだSCM領域では、「どこまでマスタ品質を高めきれるか」がDX時代の勝敗を分けるポイントです。
“アナログ文化”だからこそマスタの本質を見直す
昭和世代が支えてきた現場知見と、データの論理性を高い次元で統合できれば、アナログ発想とデジタル実践の「いいとこ取り」が可能になります。
だからこそ今、現場目線で地に足の着いたマスタ整備と、“人手ありき”の例外処理の撲滅を真正面から取り組むべきです。
まとめ:マスタ整備は現場DXの真の起点
物流システムのマスタ整備が甘いままでは、どんなシステム投資も“名ばかりDX”に終わります。
現場・情報システム・経営の三位一体で「データ品質の担保」に本気で向き合うことが、これからの製造業発展の起点になるはずです。
バイヤーを志す方も、サプライヤーとしてバイヤー目線を知りたい方も、ぜひ日々の業務フローや会議の中で「本当にこのマスタ合ってる?」と問いかける一歩から、現場改革をスタートしてください。
根っこから変わるチャンスは、いつも小さな気づきと実践から生まれます。
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