投稿日:2025年8月25日

試作段階での検証不足が量産不良につながる仕入先課題

はじめに〜現場感覚で考える「試作」と「量産」のギャップ

製造業において試作開発は、量産体制へとスムーズに移行するために非常に重要なプロセスです。

しかし、長年業界に身を置いていると、「試作はうまくいったのに、量産では不良が激増した」という事例を何度も見てきました。

特にアナログ的な昭和体質が色濃く残る業界ほど、試作段階の検証がおざなりになりがちです。

その背景には、現場の納期プレッシャーや「もうこの辺でいいだろう」とする妥協文化、コミュニケーションの断絶、そして過去の成功体験への固執など、複雑な課題が絡んでいます。

本記事では、バイヤー(調達購買担当者)や仕入先(サプライヤー)が直面する「試作~量産」間の落とし穴を、現場に根ざした目線で解きほぐします。

そして、その実例や失敗要因、解決策、さらには求められるマインドチェンジまで掘り下げ、今後の製造業の現場力向上に役立つヒントを提示します。

試作と量産、なぜ「同じもの」が作れないのか

仕様書通りでも起こる“品質の崩壊”

多くの場合、試作段階で提出される製品は、原材料や加工条件、作業者が限定的で、一品一様の手作り感覚で仕上げられています。

この時点では「仕様書通り」「要求性能OK」という認定でGOサインが出ることが多いですが、量産に入ると生産ラインの人員や工程、設備が変わり、供給体制の規模が大きく増します。

結果、一見して同じ設計・仕様であっても、現場のちょっとした癖や作業バラツキ、設備間の微妙な違い、材料ロット変更による品質影響が一気に顕在化し、不良品が急増するのです。

試作検証が陥りがちな“抜け”と“甘さ”

現場をよく知る者として強調したいのは、試作段階での検証手順の「思い込み」や「見落とし」です。

例えば
– 量産ラインとは違う装置で作ってしまった
– 担当ベテラン作業者が特殊対応してしまった
– 生産速度や歩留まりの確認を軽視した
などは頻発する典型例です。

書類や会議で“出来た気”になってしまい、実際の現場環境を十分シミュレーションしていないために、「検証が抜けていた」ことが量産で表面化するのです。

「昭和から抜け出せないアナログ体質」と失敗事例

属人的品質管理〜ベテラン依存は危険信号

現場では技術伝承やベテラン技能への絶対的な信頼が根付いています。

確かに経験値は貴重ですが、それに頼りきって仕組み化・標準化を怠ると、大量生産に移行した際に技能バラツキや人的エラーが一挙に顕在化します。

「○○さんなら出来たけど、新人には無理」「小ロット生産までは何とかできたが、大量になると精度が落ちる」といった現象は、人頼みの試作検証の典型的な末路です。

“口約束”の落とし穴〜試作OKだが量産NG

もうひとつ、昭和型アナログ現場の風土として、「今回は大丈夫だろう」「次から改善する」といった口約束や現場ノリで進めてしまう傾向があります。

その結果、調達担当者が「サンプルは良かったのに…」と頭を抱える状況に陥ります。

実際の失敗事例としては、「サンプル品は手仕上げだったが量産時は自動機でやってみたらばらつきが大きかった」「本番材料を使用せず試作し、量産後に不良連発」というケースがあります。

バイヤー視点で見る「試作検証の勘所」

図面・仕様から一歩踏み込む交渉力

バイヤーに求められるのは、単なる見積取得や納期調整のみに終始しない“現場を見る目”です。

具体的には
– 試作時に「本番設備・材料を使っているか」
– 量産手順や検査フローを想定しているか
– 過去に量産切替でトラブルがなかったか
など、開発・現場担当と密にコミュニケーションを取りながら“一歩踏み込んだ質問力・交渉力”を持つことです。

仕入先(サプライヤー)の現場力・改善力評価

調達先が多数ある時代、価格競争だけでなく「現場で問題が起きた時の対応力」「継続的な提案・改善力」「不良発生時の真因究明力」なども仕入先管理の大きな評価ポイントです。

安価な海外調達や新興企業との取引拡大が進んでいる今こそ、購買担当者は“現場対応力(トラブル・改善のマネジメント力)”に着目し、試作検証段階からしっかり仕入先と握るべきです。

サプライヤー視点で知っておくべき「バイヤーの本音と期待」

「見積」だけでなく「現場課題」への寄り添い

一流のサプライヤーは単なる見積提出・納期遵守で終わりません。

バイヤーが本当に求めているのは、「量産での潜在リスクまで先回りして潰す」「不良要因の予兆を現場から拾い上げてフィードバックする」など、あたかも一緒に製品を作っている“現場パートナー”としての提案力です。

特に最近は、「異常発生を未然に防ぎ、顧客への影響を最小限に抑えられるサプライヤー」を重視する傾向が強まっています。

情報の透明化・報連相のタイミングが勝負を分ける

事前に
– 「今回の試作は○○が量産時の課題になるかもしれない」
– 「この設備対応の場合、歩留まりに△△の影響が考えられる」
といった“現場の気づき”を積極的にバイヤー側に開示できるか否かが、サプライヤーの評価を大きく分けます。

不良発生の報告・連絡が後手に回ると信頼が一気に損なわれ、ひいてはリピート受注やサプライヤーランクダウンにも繋がります。

試作から量産へのスムーズな移行のために必要なこと

「現場検証の実践チェックリスト」を導入する

アナログ体質から脱却するためには、形式的な書類や会議ではなく“現場での見える化・標準化”が不可欠です。

例えば、試作時に
– 使用材料、設備、治具、作業員が量産時と同一か
– 量産工程・歩留まり再現性の確認
– 工程FMEA(故障モード解析)によるリスク洗い出し
– 作業標準化マニュアルの現場落とし込み
– トレーサビリティ(追跡)体制の構築
などを、抜け漏れなくリスト化し、現場チェックを徹底することが大切です。

コミュニケーションと責任範囲の明確化

「不良が出たらサプライヤーの責任」「設計に問題があったらバイヤーが悪い」など、責任転嫁型の意識では、本質的な課題解決はできません。

開発~調達~サプライヤーが一体となり、疑問点や懸念事項を早期に出し合い、現場を巻き込んだPDCA活動を回すことが肝要です。

「あれ?これでいいのか?」と気づいたことは遠慮せず共有し、組織横断で課題解決にあたる文化醸成が、失敗防止の鍵を握ります。

まとめ〜未来志向の現場力強化と“ラテラルシンキング”

今やグローバル競争や人材不足、サプライチェーンの高度化など、製造業を取り巻く環境は激変しています。

こうした変化を生き抜くためには、目先の納期や価格だけでない「現場目線の本質的な課題解決力」と、状況を横断的かつ革新的に捉える“ラテラルシンキング”が必須です。

試作段階での検証不足は単なる現場の怠慢ではなく、背景には構造的な問題やコミュニケーション断絶も潜んでいます。

現場・調達・サプライヤー、それぞれが従来の慣習や思い込みから一歩踏み出し、失敗から学びを得て、常に現場力をアップデートし続けること——。

それこそが、“試作~量産”の壁を乗り越え、不良品ゼロ・モノづくり日本の復権を果たすための、新しい地平線だと考えています。

今こそ、現場全体での知恵と連携、挑戦を通じて、次なる成長ストーリーを描いていきましょう。

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