投稿日:2025年11月30日

OEMアウターの保温性を上げるための中綿配置とキルトパターン設計

はじめに:OEMアウター開発における保温性の重要性

製造業において、OEMアウターの保温性向上は製品価値を大きく左右する要素の一つです。

現代の市場ではコスト重視から品質・機能重視へのシフトが進む中、ユーザー目線での「暖かさ」の実現は製品競争力につながります。

本記事では、現場経験を基に、中綿選定や配置・パターン設計の考え方を踏まえて、OEMアウターの保温性を最大化するための実践的なノウハウをお伝えします。

OEM生産を担当する調達購買、生産管理、品質管理、そしてサプライヤーの皆様にも役立つ内容となっています。

なぜ中綿配置とキルトパターンがアウターの保温性を左右するのか

中綿入りアウターの多くは、一見似た外観をしていますが、実際の「暖かさ」は内部構造、すなわち中綿の種類と“どこに・どれだけ・どう配置されているか”で大きな差が生まれます。

また、キルトパターン(表生地と裏生地&中綿を縫い合わせるステッチの形・配置)は、見た目以上に保温性に直結します。

原理として、
– 空気層の大きさ=断熱力の高さ
– キルティングの縫い目からの熱逃げ(コールドスポット)
– 動きやすさとのバランス

という物理特性を最適化するデザインが売れるアウターには必要です。

ユーザーが感じる“暖かさ”の本質

昭和的な「詰め物たくさん=暖かい」という考え方から、現代では
– 軽さ
– ムレにくさ
– 動きやすさ
– 洗濯・メンテナンス性
– ファッション性

も求められています。

単純な詰め込みや厚みに依存した設計はもはや時代遅れです。

バイヤーやサプライヤーは技術だけでなく、ユーザー体験まで逆算した発想が重要です。

OEMアウター開発における中綿素材の選定ポイント

OEMアウターでよく使われる中綿素材には、主に以下のようなものがあります。

ポリエステル(ダウンライク中綿)

取扱いが容易であり、コスト・保温性・メンテナンスのトータル性能が高い素材です。

近年はダウンの膨らみや軽さに近づけた立体構造のポリエステル中綿が登場しており、OEM用途でも人気です。

天然ダウン

圧倒的な断熱性能と軽さが特徴ですが、アレルギーや獣臭、メンテナンス課題、コスト高なども考慮が必要です。

ラグジュアリーOEMや高級アウトドア向けでは重要な選択肢となります。

その他(機能性中綿、リサイクル中綿など)

吸湿発熱、抗菌、防臭、持続撥水、リサイクル繊維など多機能・SDGs対応素材が近年増加。

差別化要素としてOEMでの導入が進んでいます。

バイヤーが真に重視するのは、単にブランド力や価格だけではなく、ユーザーの使用実態に最適化される「総合的なバリュー」です。

最適な中綿配置とは何か

暖かいアウターをつくるためには、中綿素材の性能だけでなく、「どこに・どれだけ・どのように」中綿を配置するかが極めて重要です。

部位別の保温重要度

動物の生理現象と同じく、“胴体中心”の温度維持が最重要です。

肩・背中・胸・腹部・腰回りは、中綿の厚みと密度を高めて断熱層を強化することで最も効果が大きくなります。

逆に、袖・脇下・脛付近などは動きやすさやムレ防止のために、中綿量を減らす・薄くする・抜きを入れる等の工夫が求められます。

立体構造設計の重要性

昭和的なフラットな一枚中綿から、現代ではアウターの動きに合わせた立体構成・ブロッキングが主流になっています。

例:
– 背面:二重中綿&大型キルトで断熱強化
– 脇下〜袖:通気部・可動部で薄型または中綿抜き
– ウエスト:風の侵入を防ぐため、中綿密度を上げる&リブ追加

ラテラルシンキングの観点からも、「定石からいかにズラすか」が保温性&着心地を両立する鍵です。

キルトパターン設計の基礎と最新潮流

キルトパターンは、中綿の偏り防止やインナー構造のデザインだけでなく、保温性・ブランド個性までを左右する非常に重要な要素です。

キルトによる熱損失の抑止

キルト(ステッチ)部分はどうしても中綿が薄くなり“コールドスポット”が発生します。

この点を最小化する設計が重要です。

具体的な工夫例:
– キルトの間隔・ピッチを狭くしすぎない
– キルトをジグザグ、バッフル構造(立体縫製)で配置
– 外側生地と内側生地のステッチ位置をズラす「オフセットダブルキルト」

メーカーごとに独自のパターン設計技術で差別化が発生しています。

ブランド価値を高めるキルトデザイン

各社のアイコン的なキルト(例:菱形、波型、縦ライン等)は、単なるデザインではなく、
「見た目の印象と機能性」を両立する進化の結果です。

OEMにおいても、たとえ無地のシンプルなキルトであっても“量産・安価”だけを狙わず、
– ブランドイメージ
– ターゲットユーザーの着用シーン
– 他社製品との差別化

などの観点をラテラルに取り入れることが重要です。

現場目線での最適化ポイントと現実的な課題

理想論を述べるだけでは現場は動きません。

実際のOEMアウターの生産現場で、調達購買やサプライヤーからよく聞く課題と、プロの解決ポイントもご紹介します。

コスト・生産性と保温性の両立

高機能中綿はコスト高につながりがちです。

量産効率やサプライチェーン上の安定調達を意識し、中綿素材のグレード設定も段階別(Aグレード、Bグレードなど)に分けて契約する例が増えています。

また、キルト工程は自動化・省力化が進む一方で、難易度の高いキルトは手作業工賃増にもつながるため、
「見た目はシンプル・目立たない所に機能キルト」
「高機能中綿は胴体部だけ高品質なものを使用、袖はダウングレード中綿」

など、“割り切り”が現場では苦渋の選択肢となることもあります。

昭和的な「詰め込み」アウターと最新動向とのギャップ

日本の中堅OEMメーカーでは、過去の厚盛り文化や「重い=暖かい」というバイヤーニーズを根強く持つ層が依然居ます。

しかし、欧米や進化型ブランドの台頭、EC市場拡大によって“機能体験”の価値にユーザー感度が移っています。

調達側、設計側、営業側の「意識合わせ」も重要です。

– 売上や歩留まりだけでなく、本当に“消費者が求める暖かさ”および“付加価値”があるか
– 伝統的なやり方を継承しつつも、一歩先を行く設計者・バイヤーが現れ、サプライヤーもそれに追従できているか

このギャップが今後の業界競争力の分かれ目となります。

まとめ:バイヤーもサプライヤーも知っておきたい現場発の知恵

OEMアウターの保温性を上げる中綿配置とキルトパターン設計は、
– 中綿素材選び
– 配置の最適化(部位ごとの厚み調整)
– 先進的かつ量産性も担保したキルトパターン

という三要素が要となります。

そして、そのベースには
– コスト・納期・品質・機能性・ブランド個性というトレードオフ
– 「暖かい」「動きやすい」「見た目が良い」などのユーザー体験
– “一歩先を考える”現場目線のラテラル思考

が不可欠です。

昭和のやり方だからという思考停止や、安直な詰め込み設計から一歩抜け出し、製品開発と現場連携で「持続的価値」を生み出すOEMアウター作りを追求していきましょう。

それが今後の製造業界、さらには日本ブランドの底力を高める道です。

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