害獣忌避商品の開発における生態研究と環境配慮型ソリューションの融合

はじめに

害獣による農作物被害や設備破壊は、昭和の時代から今日に至るまで日本の一次産業や製造業、さらには住宅地でも深刻な問題となっています。

そのため、害獣忌避商品の需要が年々高まっています。

一方、持続可能な社会への転換が求められる現代では、単なる駆除だけではなく「環境への配慮」を組み合わせたソリューションが強く求められています。

また、忌避効果の最大化には、害獣の生態に関する深い理解が不可欠です。

本記事では、大手メーカーでの調達・開発・品質管理の現場経験を踏まえ、害獣忌避商品開発における生態研究と環境配慮型ソリューションの融合について、現場目線と業界動向を交えて詳しくお伝えします。

害獣忌避商品の市場動向と業界課題

昭和から現代にかけての業界動向

昭和後期までは、害獣対策といえば罠や毒剤、超音波機器など、忌避だけでなく「駆除」を目的としたものが主流でした。

工場では安全衛生管理の一環として物理的なバリアの設置、農業分野では農薬や捕獲器の使用が一般的でした。

2020年代に入ると、次のような動向が顕著です。

– 環境負荷低減や生物多様性維持の社会的要請が高まった
– 駆除ではなく、害獣が寄り付かなくなる「忌避」の技術に注目が集まっている
– IoT・AI技術の導入によるスマート忌避製品の登場
– 環境省ガイドラインの策定により、化学物質の使用規制や成分の明示義務などが強化された

一方、実際の現場では昭和的なアナログ手法が根強く残っているのも事実です。

とくに規模の小さい農家や古くからの工場では「慣習的な罠」「費用重視の手法」から脱却できていないケースも多いです。

こうした現状こそ、課題解決型で差別化された忌避商品、バイヤー視点のソリューションが強く求められる理由です。

害獣忌避商品開発でなぜ生態研究が重要なのか

害獣の「行動パターン」を知らずして忌避開発はできない

イノシシ・シカ・アライグマ・ハクビシン・野良猫・ネズミ・カラス——。

「害獣」のカテゴリーでひと括りにされがちですが、実はそれぞれ食性、行動時間、警戒心、繁殖パターン、移動経路、嫌うもの（視覚・嗅覚・聴覚）が異なります。

一例を挙げれば、同じニオイ成分であっても、シカは強烈に嫌がるがイノシシは全く動じない、逆のケースもあります。

ネズミ対策の超音波も周波数設定を誤ると全く効きません。

現状、多くの忌避商品が十把ひとからげで「害獣対策」と銘打たれていますが、効果のバラツキやイタチごっこの評価が多いのは、背後に生態研究の深掘りが不足している点が大きいのです。

現場主義の生態把握がヒット商品を生む

大手メーカーでは、現場の実地試験や生態観察を重視しています。

――なぜなら、実験室での成功と、リアルな環境下の再現性には往々にしてギャップがあるからです。

たとえば、畑や山林では害獣の移動経路や季節変化、近隣環境の変化（新たな道路や建造物の建設など）も製品の効果に直結します。

現場担当者や工場長の経験値、時には地元住民の声を反映して「忌避×生態理解」の二軸で商品開発することが、実装効果の高い忌避商品を世に出す最短ルートです。

環境配慮型ソリューションへのシフト

環境負荷の低さが選定基準に

近年、多くのバイヤー（調達担当者）は以下の点を重視した評価軸にシフトしています。

– 使用する忌避成分は自然由来か？
– 製品廃棄時に有害物質は出ないか？
– 他の非標的生物やペット、周辺作物への影響は？
– 再利用・リサイクルのしやすさは？
– CO2排出量やパッケージ材の簡素化などSDGsの観点

この背景には、企業コンプライアンス意識の高まり、ESG経営（環境・社会・ガバナンス）の加速、農業分野ではグローバルGAPやJGAPといった国際認証基準の普及があります。

また、調達購買部門では「価格」だけではなく、持続可能性データやRoHS、REACH、FSCなど各種エビデンスを添付できるサプライヤーが優先される時代になっています。

環境配慮×効果の両立〜メーカーを支える現場イノベーション

実際の工場・農場では「いかに化学物質を減らしてコストも納期も守るか」に頭を悩ませています。

– 天然由来成分（ハーブやエッセンシャルオイル、唐辛子エキス類など）の活用
– 物理的障壁＋嫌がる感覚刺激を複合化した忌避（例：光・音＋匂いの組み合わせ）
– 廃材や再生材（竹、麻袋など）を使ったエコ容器
– IoTセンサーと連動した「ピンポイント忌避装置」
– 生分解性素材の活用、不要になったら土壌改良材に再利用

こうした環境配慮型と現実的な忌避効果の両立こそ、バイヤーが“選びたくなるサプライヤー”のコア価値です。

バイヤー目線で見る「良い忌避商品」とは

現場運用の実態から逆算する

バイヤーは“現場ファースト”を突き詰めます。

調達購買の立場で忌避商品に求められるポイントを整理すると、以下の観点です。

– 忌避効果の根拠がエビデンスとして示されている（学術データ、実地試験例など）
– 継続的に使えるコストパフォーマンス
– 効果にバラツキがある場合の「現場カスタム」アドバイスが充実している
– 万一トラブルやアフターケアが必要な時のサポート体制・納期即応性
– サステナビリティや法令順守（RoHS、化審法など）の証明書付き

昨今、サプライヤーとのコミュニケーションで「御社の製品は○○害獣にも効きますか」「農薬基準には該当しませんよね」といった問い合わせが急増しています。

これは、商品選定の決定権が個人から組織（調達購買部門）へ移り、リスク低減や説明責任が重視される現代ならではの現象です。

サプライヤー側も“バイヤーが本当に困っている現場”、そこに着目した提案が不可欠です。

サプライヤー目線で知っておきたいバイヤーの「本音」

サプライヤーであるあなたにとって、バイヤーが何を求めているかを知ることは、受注チャンスを最大化する大きな武器となります。

– コスト削減や在庫圧縮、現場改善テーマに「環境技術」が紐づくと、上層部の通りが圧倒的に良くなる
– 現場の属人化（担当者の高齢化やノウハウ偏在）が深刻。サポートや操作性簡便さを訴求できる製品が選ばれやすい
– 「エビデンス」に対する要求レベルが年々高まっている。信頼できる試験データや事例、さらには“返金保証”なども喜ばれる
– 苦情対応や現地調査を含めたアフターサービス付きなら、多少価格が高くても選定上有利

昭和的な「技術自慢」「カタログだけ」の提案では選ばれません。

サプライヤーにも現場課題への当事者意識、柔軟なカスタマイズ対応（例：農業×製造のハイブリッド現場）などが今後ますます求められます。