投稿日:2025年8月31日

危険物IMDGコードの申告漏れで生じる罰金と載せ替え費を回避する社内フロー

はじめに

危険物を扱う製造業や物流の現場では、IMDGコード(International Maritime Dangerous Goods Code:国際海上危険物規則)への正確な申告が厳格に求められています。
しかし、現実には忙しい現場の事情や認識のズレから申告漏れがしばしば発生し、罰金や載せ替え費用といった思わぬ損失が会社を直撃します。
本記事では、20年以上の現場経験に基づき、IMDGコードの申告漏れによるリスクやその回避方法について、バイヤーやサプライヤー、そして製造業に務める現場担当者の視点も交えて、具体的かつ実践的な社内フローを解説します。

IMDGコード申告漏れがもたらすインパクト

罰金・ペナルティの金額と現実

世界の港湾や船会社では、危険物の申告漏れが発覚した場合に厳しい罰金や追加費用が科されます。
一般的には1件あたり数十万円から数百万円にものぼりますが、重大な事故に発展すればさらに高額な損害賠償や信用失墜を招きます。

また、船会社や貨物の仲介業者(フォワーダー)は、リスク回避の観点から申告漏れに対して極めて厳しい態度をとります。
そのため、「うっかり」や「思い込み」といったヒューマンエラーでも会社全体に多大な悪影響が及ぶのです。

載せ替え費用の現場的な実態

申告漏れが発覚した場合、多くのケースでは港で貨物の再積み替え(載せ替え)が必要になります。
この際、
・港湾作業スタッフの手配
・追加の危険物保管費用
・新規輸送手配
・作業時間の遅延ペナルティ
などが発生し、そのコストはあっという間に数十万円単位となります。

さらに製造業の顧客との納期遅延、お取引先との信用問題へと発展するため、目に見える金銭コスト以上のトータルコスト増につながるのが現場実感です。

申告漏れの主な発生原因と現場のリアル

技術資料やMSDS(SDS)の不十分な読み込み

多くの現場で、技術資料や安全データシート(SDS)に目を通しているものの、その詳細に対する理解不足からIMDG該当品かどうかの判断を誤ってしまう例が後を絶ちません。

特にアナログ業界では「これまで問題なかった」「慣習的にやってきた」という昭和的な意識が抜けず、新規品や組成変更品を深くチェックせず、気づかぬうちに申告漏れが起こるリスクがあります。

バイヤーとサプライヤー間の情報共有不足

バイヤーは購買や調達部門として製品の仕様確定には強いですが、危険物該当性の判断まで確認しきれない現実があります。
一方でサプライヤー側も「わかっているだろう」と情報を省略することが多く、両者間の情報の齟齬から申告漏れが発生しています。

教育・フローの属人化、現場任せ

「ベテランのAさんが担当しているから大丈夫」「このルートがいつもの流れだ」といった属人化は、担当者不在や引継ぎミスで脆さが露呈します。
マニュアルの最新化や点検サイクルが不十分だと、法令変更にキャッチアップできず“想定外”の申告漏れも起こります。

申告漏れによるペナルティ・載せ替えを根絶する社内フロー構築法

1.危険物申告の起点を設計開発段階に移行する

IMDG該当性は原材料や組成に依存するため、設計・開発段階での危険物該当性確認を絶対条件として組み込むべきです。
製品情報登録や新規原材料採用時にSDS確認→IMDG該当判定のチェック項目を設計・開発と品質部門、そして調達部門まで必ず連携させるフローにしましょう。

チェック内容例:
・全原材料のSDS最新版の取得
・該当カテゴリー(クラス・UN番号)の確認
・ラベル・梱包材の仕様決定
・海外輸送可否のレビュー記録

この設計段階からの明文化が、後工程の申告漏れリスク低減に圧倒的な威力を発揮します。

2.調達~出荷までの「2重チェック」体制を徹底

アナログ文化が色濃く残る企業でも実践できるシンプルな方法は、調達・生産・物流・品質の関係者による「2重チェック体制」です。
具体的には、バイヤー(調達担当)と現場(倉庫・生産管理)の双方が「IMDG該当性」「積載申告内容」「添付書類の正確性」をダブルで確認する運用です。

チェックリストを紙とデジタルの両面で運用し、SDSに記載されたUN番号やクラス情報、数量とラベル明示の有無を相互で見直します。

一人の目を信じず“現場⇔事務”の両目が入ることが、ヒューマンエラーの芽を摘む最短ルートです。

3.申告責任者と最終承認プロセスの明確化

昭和から続く曖昧な「みんなで管理」は、トラブル時に「誰の責任か曖昧」になりやすい傾向があります。
そこで、「危険物申告責任者」「最終承認者」など職制上の権限と責任者名を社内ルールやマニュアルに明記し、署名やハンコによる承認手続きを徹底します。

万が一トラブルが生じた場合も、誰がどこまで確認したのか履歴が追跡でき、個人任せにせず管理職のマネジメントを徹底できる仕組みが必要です。

4.教育・模擬演習と法令アップデートの仕組み

現場任せにせず、新規担当者や異動の都度、IMDGや関連規則の教育と、模擬申告演習を定期的に実施しましょう。
年に1回のコンプライアンス研修・危険物法令改訂点報告会など、アップデートの仕組みも不可欠です。

法的に必要な研修だけでなく、「過去の実際のヒヤリハット事例」や「最新のIMDG改訂ポイント」など、リアルな現場知識の共有が肝心です。
実際にトラブル現場に立ち会ったベテランのナレッジ共有は、紙のマニュアル以上に社内文化として根付かせることができます。

5.サプライヤー・バイヤー間の情報連携強化

業界の垣根を超えて安全・コンプライアンス意識を高めるためにも、社内だけでなくサプライヤーや物流業者とも積極的に情報共有する体制が必要です。

・新規原材料採用時、納入仕様書とSDSを必ず添付し、相互チェック
・定期的な物流業者との打ち合わせや現場パトロール
・危険物変更時は双方で証明書・新規ラベル・新梱包仕様のすり合わせ

「自社だけで完結する思考」から「サプライチェーン全体で守る文化」への転換が求められています。

バイヤー視点で気を付けたいポイント

・購買時のスペック確認だけでなく、法令・危険物該当性チェックも仕入れ判断基準に
・仕入先(サプライヤー)SDSだけでなく、用途によるIMDG該当性の自社側再確認
・危険物クラス/UN番号ごとの取り扱いガイドライン管理

この3点を押さえることで、購買/調達担当者ならではのリスクヘッジが可能となり、サプライヤーとの信頼関係も構築できます。

サプライヤー視点でバイヤーの本音を知るヒント

バイヤーが不安なのは、「思い込みで危険物が混入してしまうこと」「最終納品で問題になり納期遅延・罰金が発生すること」です。

サプライヤーとしては
・危険物該当性・非該当性の積極的な説明
・SDS改訂、仕様変更時の速やかな連絡
・バイヤーと一緒に現場確認・梱包仕様レビュー
こうした姿勢が、単なる納品業者から「信頼されるパートナー」へと評価を押し上げます。

アナログ業界がデジタルにできる「一歩先」の工夫

デジタル化が叫ばれて久しいものの、伝統的な製造業界ではいまだアナログ管理が色濃く残っています。
そこで、全面的なDXが難しい現場でも「一歩先の工夫」として、以下のようなアプローチをお勧めします。

・SDSや申告書類のスキャニングPDF化
・紙のチェックリスト→Excel台帳やGoogleフォーム活用
・過去トラブル事例やペナルティ情報の社内イントラ掲示

無理のない小さなデジタル化が現場の負担を減らし、透明性や追跡性の格段の向上に繋がります。

まとめ

IMDGコードの申告漏れで発生する罰金や載せ替え費用は、実は社内フローや意識改革によって大幅に低減できます。
設計・開発段階での危険物該当チェック、調達~出荷の二重確認、責任者明確化、教育とサプライチェーン全体の連携強化が、現場の安全と企業の信頼性を守ります。

昭和的な慣習から一歩踏み出して、危険物管理の“攻め”のフローを構築し、現場と購買双方の視点から製造業全体のレベルアップにつなげましょう。

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