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輸送中の温度管理が必須な製品の国際輸送リスク対策

目次
はじめに:グローバル化とともに高まる温度管理の重要性
グローバルなサプライチェーンが当たり前となった現代の製造業において、輸送中の温度管理の重要性は年々増しています。
医薬品、ワクチン、半導体材料、特殊化学品、精密電子部品、食品など、温度変化による品質への影響が顕著な製品が急増していることが背景にあります。
日本国内だけで完結する物流とは異なり、国際輸送では気候もインフラもバラバラです。
とくに海上輸送や航空輸送では、輸送時間が長くなり、温度管理が難しいポイントや予想外のリスクも多々発生します。
この記事では、そんな「温度管理が必須な製品の国際輸送におけるリスク対策」について、現場目線で深掘りします。
サプライヤーの方にとってはバイヤーの視点、バイヤーや若手購買担当者にも「現場で何が起きているか」を伝えたいと思います。
輸送中に発生する主な温度リスクと実態
海上輸送:コンテナ内のサウナ問題
船便は大量輸送ができコスト優位ですが、最大のネックはコンテナ内部の温度です。
日本から東南アジアや欧米向けの海上コンテナは、日中の甲板上で50度近くにまで上昇することも珍しくありません。
冬場は逆にマイナス近くにもなります。
この極端な温度変化は、恒温で保管すべき製品にとって大きな劣化・変質リスクです。
現場経験者の視点では、
・「冷蔵輸送(リーファー)の手配が適切か」
・「ドライコンテナ内で間違った積載をしていないか」
・「そもそも港で停滞時に荷物がどこにあるか把握できているか」
といった、現場でしか分からない「穴」も多いのが実態です。
航空輸送:地上での温度差が盲点
航空便はリードタイム短縮の救世主ですが、実は「搭載前の屋外解放」「貨物室の温度制御限界」など、地上滞留や搭載中の温度変動リスクがあります。
特に成田や関西など日本側だけでなく、現地空港の扱い(例:東南アジアや中東、アフリカなど常夏のエリア)は油断なりません。
日本での積み込みは万全でも、現地で数時間野ざらしになってしまうこともあるため、輸送ルートと現場事情の把握が要です。
陸上輸送:ラストワンマイルは意外にアナログ
港や空港から工場や物流センターまでのラストワンマイル。
都市部であればまだしも、途上国やインフラが未発達な地ではリーファー車両が手配困難だったり、道路事情が悪く想定外の遅延も起こり得ます。
また、日本国内でも真夏や真冬のトラック荷台温度問題はしばしば現場で顕在化し、ギリギリ管理温度帯を逸脱してしまう事例もあります。
温度逸脱が招く製品不良・損失リスク
品質不良による顧客クレーム・リコール
小さな温度逸脱が品質や性能低下をもたらし、
結果的に顧客からのクレームや、最悪全ロットのリコールといった重大な損失につながることがあります。
例えば
・ワクチン、有効成分の減少(8℃超過で有効期限が切れるなど)
・電子部品、ICや半導体樹脂部材の吸湿・劣化
・高機能フィルムや樹脂の寸法変化・物性低下
・特殊化学品の析出や分離
昭和時代であれば「しょうがない」で済むケースが多かったですが、今はグローバル顧客の規格・監査基準も厳格化。
原因調査時に「証拠がない」「管理がずさん」と判明したら、サプライヤーの信用失墜につながります。
バイヤー目線:リスクを許容できなくなった時代の取引継続条件
製造業のバイヤーは「万が一」のリスクさえも極度に忌避するようになっています。
国際サプライチェーンの寸断や不確実性、そしてSNSでの炎上・監査リスクを鑑み、「温度逸脱をゼロに近づける」仕組みへのニーズは激増しています。
サプライヤーも「納品したら終わり」ではなく、「輸送品質のトレーサビリティ」や「責任分界点の明確化」がマストとされる時代になったのです。
実践的な温度リスク対策
荷主とバイヤー間の実運用設計が命
教科書の正論ではなく、「現場で本当に機能する温度管理」の設計が大事です。
バイヤーがサプライヤーにただ冷蔵輸送を求めても、「どこからどこまで」「どの区間で」「温度逸脱時の判断基準は」など曖昧だと必ず事故が起こります。
たとえば
・工場出荷から港倉庫までの搬送は?(サプライヤー手配?バイヤー手配?)
・通関時&現地港引き取り時の温度監視はどうする?
・配送遅延時に保冷設備がない港や倉庫なら?
といった詳細を、契約やSOP(標準作業手順)レベルでしっかり詰めておく必要があります。
温度記録・ロガー活用:エビデンスの取得・管理が肝
「どこで温度逸脱が起きたのか」「誰が責任を持つのか」を可視化できなければ、
後の品質クレーム時に追及できず、責任なすり合いとなります。
過去は人的記録や目視確認が主流でしたが、最近はUSB型ロガー、遠隔通信式ロガー、温度タグなどを使い、“見える化”が定着しつつあります。
輸送経路ごとの複数ポイント(例:出荷、積込、通関、到着、納品先)で自動データ収集し、不備時は即アラートが出る仕組みが理想的です。
また、得られたデータの保管・解析・証跡提出までを一貫して「バイヤーとサプライヤーで合意」し、ルール化しておくことが重要です。
昭和型アナログ運用の限界と現場改革
今なお根強く残るアナログ運用──「夏場は氷を入れておけば安心」「トラック運転手の温度感覚に頼る」「シール貼り変えるだけの簡易チェック」。
こうした昭和的慣習に頼り切っていては、グローバルな品質要求から確実に取り残されます。
現場では
・保冷材による一時しのぎ→「冷えすぎ」による結露や凍結障害
・ドライバーの経験に依存した温度管理→「ヒューマンエラー」
・定点記録だけで“隙間時間”の逸脱が盲点に
など、アナログ運用の危険度は高まる一方です。
「うちは昔からこのやり方で大丈夫だった」という思考停止を打破し、
現代の製造業の“命”である品質・信頼維持に向け、抜本的な現場改革が求められています。
デジタル技術・AI・IoTの活用と今後の方向性
IoT温度センサー+AIデータ解析の時代へ
これからの輸送温度管理は、IoTとAIの活用がスタンダードになります。
温度センサーやロガーからクラウドへリアルタイム送信。
AIによる異常検知や傾向分析、輸送経路ごとのリスク予測…と高度な管理が可能です。
一括監視で「どこで」「何が」起きているかエンドツーエンドで把握できるので、アナログ時代に比べて早期の是正処置も取れます。
障害発生時の自動アラート発報⇒現場対応や再輸送手配も迅速に判断できるため「重大事故」を事前に回避することが可能です。
SaaS・クラウドサービスで属人化解消
記録データやトラブル情報もSaaS型サービスによる一元管理が主流になりつつあります。
担当者の交代や拠点異動があっても、全社・グローバルで標準運用を維持。
バイヤーとサプライヤーが同じデータにリアルタイムでアクセスできるため、トラブル時の責任分界や原因究明が格段に楽になりました。
「温度管理のノウハウが職人依存」「ベテラン社員しか分からない」アナログ体質から一気に脱却できます。
まとめ:サプライチェーン全体でリスク対策を進める
温度管理が必須となる製品の国際輸送においては、「現場のリアルなリスク」と「デジタルを活用した管理」の両立が不可欠です。
製造現場、物流、購買・バイヤー、サプライヤー──それぞれの立場を越え、サプライチェーン全体で「どう責任と役割を分担するか」「どんなエビデンスで管理するか」を合意・可視化することが競争力の源泉となります。
「昭和流のアナログ運用で安心しがち」な体質からの脱却が、日本の製造業が今後も世界と戦うための最低限の条件です。
経験豊富な現場リーダーも、若手バイヤーも、サプライヤーの現場担当も、一歩進んだ温度管理で国際的品質の担保を目指していきましょう。
最後に、「温度管理」は単なる物流課題ではなく、「顧客との信頼を守る最初の砦」となります。
一歩進んだ取り組みで、製品と信頼を未来へつなぎましょう。
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