投稿日:2025年7月2日

実験計画法直交表を活用した最適条件設定と分散分析入門

はじめに:製造現場の「最適化」はなぜ必要か

製造業にとって「最適化」という言葉には重みがあります。
品質向上、コスト削減、納期短縮、新技術導入…
現場での“日常”の積み重ねこそが、企業の未来を左右します。

一方で、昭和から続く多くの日本の製造現場は、今なおアナログ作業や経験則に頼る部分が少なくありません。
「今までこうやってきたから」「ベテラン作業者が言っているから」
こうした声も根強く残っています。

しかし、グローバル化・人手不足・多品種少量・コストプレッシャーなど、昭和のやり方では立ち行かない時代が到来しています。
本記事では、ものづくり現場の課題を解決する武器となる「実験計画法(DOE)」と「直交表」、さらには「分散分析」について、バイヤーや生産管理、サプライヤー担当者に向けて、現場視点で分かりやすく解説します。

実験計画法(DOE)の本質とは何か

思いつきによる試行錯誤からの脱却

現場改善や新製品開発で、「何を、どうすれば、良くなるのか?」と悩んだ経験はありませんか。
よくありがちなのが、“なんとなく”パラメータを変えてみて結果を見る、という俗人的なトライアル。
たしかに現場の勘も大事ですが、それだけでは「なぜ効いたのか」「本当に再現性があるのか」までは分かりません。

ここで登場するのが、「実験計画法(Design Of Experiments:DOE)」です。
DOEは、複数の要因が同時に作用する現場で、できる限り少ない回数のテストで“最も影響力の強い要素”や“最適な組み合わせ”をロジカルに探し出すための強力な手法です。

現場の限られたリソース(時間、人、材料費)で最大限の成果を出し、科学的な裏付けを得るための方法論といえます。

実験計画法が解決する「現場の課題」

・パラメータ(例:温度、圧力、時間など)が複数ある
・全部の組み合わせをテストするのは時間もコストも不足
・せっかく改善しても「なぜ効いたのか」根拠が示せない
・サプライヤー/バイヤー間で“感覚”ではなく“データ”で議論したい

こうしたジレンマを、合理的に、かつ再現性ある形で解決できるのが実験計画法なのです。

直交表(オルソゴナルアレイ)とは?

最小の実験で最大の情報を得る“秘密兵器”

実験計画法の中核ツールが「直交表」です。
日本では特に田口玄一博士がその普及をリードし「タグチメソッド」としても認知されています。

たとえば「3つの要因(A、B、C)」があり、それぞれ「3段階(低、中、高)」で試したい場合、全組み合わせ(フルファクター)なら 3×3×3=27回も実験が必要です。

しかし、直交表を使えば、影響の大きさ(主効果)や「どの要因が効いているか」に着目し、わずか9回(L9直交表など)でも要所をおさえた比較が可能です。
この「最小労力で最大の答えを得る」という効率の良さこそ、ものづくり現場の救世主といえるでしょう。

直交表の基本構造と使い方

直交表は以下の特徴を持っています。

・各行が一つの実験条件(例:A低B高C中 など)
・各列には、要因ごとの水準(level)を配置
・表内のバランスにより、各要因の主効果・交互作用が評価できる

設計上の“バラツキ”を抑えつつ、要所をついたサンプリングができるため、現場のリソース不足にも強い武器となります。

直交表の事例:射出成形の条件出し

例えば、射出成形における「型温度(A)」「射出圧力(B)」「冷却時間(C)」を最適化したい場合、全組み合わせをやるのは非現実的です。
直交表(例:L9)を使って9回のテストパターンを設定し、各パターンでの生産結果データ(寸法やバリ発生など)を記録します。

こうした実験記録を「分散分析」にかけて「どの因子が一番効いているか」「最適値はどこか」を客観的に求められるのです。

分散分析(ANOVA)を使った結果の見方

なぜ“ばらつき”を見るのか

分散分析(ANOVA)は、“得られたデータのばらつき(分散)”を要因ごとに分解・比率化し、「この要因が結果へ与える影響の大きさ」を評価します。
要因Aの水準差による変動が、全体のばらつきと比べて有意かどうかを導きます。

広義には「偶然によるバラつき」なのか「パラメータによるバラつき」なのかを数値で分け、何を変えれば結果も大きく変えられるか、を明らかにできる手法です。

分散分析の現場での手順(簡易ケース)

1. 実験計画:直交表でパターン設定
2. 実験:各パターンで結果データ収集
3. 計算:「水準ごとの平均値」を出す
4. 「要因ごとの平方和」「誤差の平方和」を出す
5. F値や寄与率から「どの要因が有意か」を判断

この流れによって、単なる感覚ではなく、「この要因を、この条件にすれば、歩留まり○%向上」という科学的根拠を社内外に説明できるのです。

バイヤーやサプライヤーに必要な“数字で語る交渉力”

発注側(バイヤー)からサプライヤーに「なんとか性能を上げてくれ」と要求しても、再現性や根拠がなければ単なる“お願い”です。
一方、サプライヤーも「この条件なら工程能力が上がります」「分散分析した結果、○○が主要因でした」と説明すれば、取引先の信頼も大きく変わります。

“数字で語る交渉力”は、取引の現場において極めて大きな意味を持ちます。
特に原材料や外注部品の安定調達では、「技術データ」と「論理的説明能力」が企業連携のバロメーターとなりつつあります。

昭和的アナログ現場からの脱却:実践的なコツ

なぜ現場は「実験計画法」に抵抗を持つのか

多くの現場、特に歴史のある工場ほど「経験則」や「勘どころ」に依存しがちです。
理由の一つは、「数字、計算、統計」といった言葉へのアレルギーです。
また、「一品一様生産」や「多品種変動」など、標準化しにくい状況もあるでしょう。

しかし、現代の“現場力”が目指すのは、「勘+ロジック=再現性」です。
ベテラン作業者から若手・多国籍・派遣スタッフまで、誰が再現しても“うまくいく”仕組みづくりが、企業競争力となるのです。

現場導入の小さな一歩:成功体験の積み重ねを

・手書きシートで「A、B、C の3要因×2水準」など、簡易な直交表から始める
・必ず現場の担当者が「実験→結果→分散分析」の流れに参加する
・「数値で根拠が示せる!」という体験を現場で共有する

こういった“小さな成功体験”が「うちの現場でもできる」と自信につながります。

業界全体でのデジタル推進との連携

最近はIoTやAIとも連動し、実験計画法のデータ収集や解析がどんどん自動化されています。
バイヤーもサプライヤーも「データをもとに話せる現場づくり」をどれだけスピーディに実施できるか、が“次の競争力”になります。

例:IoTセンサによるリアルタイムデータ収集
 →クラウド上で直交表条件の設定、分析自動化
 →関係者がどこからでも分析結果にアクセス・議論

このようにして、アナログとデジタルを融合することで、「誰もが現場改善に貢献できる」土台が築かれます。

現場でDOEを活用するためのチェックリスト

1. 実験対象の「複数要因(パラメータ)」を明確に区別する
2. 予算や日程に応じて、直交表や縮小ファクターを採用
3. 実施前に各実験の「目的」「期待値」を整理する
4. テスト結果は“必ず数値データ”で記録する
5. 分散分析で「寄与率」や「有意差」を“見える化”する
6. 成果は工程標準書やドキュメントとして蓄積する
7. 自分たちの業界や工程に合った最適化パターンを繰り返し学習する

これを現場担当・バイヤー・サプライヤーが共有することで、業界の垣根を越えた“質的向上”が期待できます。

まとめ:ものづくりの未来は「理詰め×現場力」にある

実験計画法や直交表、分散分析というと「現場向きじゃない統計?」と構えてしまうことが多いかもしれません。
しかし、むしろ現場こそ「最小の投資で最大の成果」を求められる場所です。

今後、ますますグローバルなコスト競争や、品質・納期・安定供給での要求が厳しくなります。
バイヤー、調達担当、サプライヤー、現場管理者が共通言語としてDOEや分散分析を活用できれば、従来の属人化・経験則に依存したモノづくりから脱却し、「再現性」「透明性」「交渉力」という強みを手にできます。

この「現場力の見える化」が、令和の製造業に不可欠な武器となることを確信しています。

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