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属人マクロのブラックボックスを可視化する棚卸しワーク

目次
はじめに:製造現場に根強く残る「属人マクロ」とは
製造業の現場では、長年にわたりExcelなどの業務用マクロが大きな役割を担ってきました。
しかし、その多くは現場担当者が独自に開発し、他の誰にも中身がわからない「ブラックボックス」と化しています。
これが属人化したマクロ、通称「属人マクロ」です。
現場を知る者として、この属人マクロは業務効率化や不正防止を推進したい管理職にとって、またDX化や働き方改革を進めたい企業にとって、大きな障害となり得ます。
この記事では、属人マクロの現状を棚卸しし、可視化(見える化)するための実践的なワークについて、現場のリアルな課題感も盛り込みながら解説していきます。
なぜ、属人マクロがブラックボックス化してしまうのか
業務の現場最適化が引き起こす属人化
属人マクロの発生源は、現場担当者による日々の業務改善です。
自分の扱うデータや作業を圧倒的に効率化するため、独自のノウハウやアイデアがつめ込まれたマクロが生まれます。
ところが、その担当者しか操作手順や記述意図が分からない設計になっていることがほとんどです。
転属や退職のたびに「このチェック用ファイルは誰がどう作ったんだ?」、「一体どこでどう計算している?」といった問題が必ず発生します。
アナログ体質・旧来の文化の壁
昭和から引き継がれてきた「ノウハウの継承=口伝」という意識も手伝い、マクロの仕様や運用ルールを資料として残す習慣がなかなか育ちませんでした。
結果、「大事なことはベテランしか知らない」「あの人がいなくなったら終わり」という危機的状況が、令和の今でも続いているのです。
属人マクロ放置によるリスクとは
事業継続性への脅威
最も重大なのは、ブラックボックス化によって重要業務が属人的に“人質”化され、事業継続性(BCP)が損なわれることです。
万が一、その担当者が休職・退職した場合、短期間での引き継ぎや復旧が極めて困難になります。
このような障害対応コストは経営トップの重大な関心事項です。
品質問題やコンプライアンス違反の温床
品質管理やトレーサビリティの観点でも、「どこでどう集計・判定しているか誰にも分からない」状態は大きなリスクとなります。
もしマクロの不備が不良品流出や数字の改ざん、情報漏洩などにつながれば、顧客信頼の失墜は計り知れません。
DX推進のブレーキ
昨今のDX(デジタルトランスフォーメーション)やIoT化推進プロジェクトでも、「既存のマクロ資産が邪魔をする」事態が多発しています。
全社レベルでのデータ統合を図ろうとしても、現場に分散し隠れたマクロが“データサイロ”となり、システム化の足かせとなります。
ブラックボックスを「見える化」する第一歩:マクロの棚卸し
なぜ今「棚卸し」なのか
かつての現場主義や熟練者の勘頼みが許された時代は終わり、今やノウハウや資産の形式知化こそが生き残りの鍵になっています。
その第一歩として、今ある属人マクロを「棚卸し=リストアップ」し、可視化することが極めて重要なのです。
棚卸しワークの主な流れ
1. 対象範囲の設定
まず、どの部門・工程・商品群のマクロを洗い出すか、目的を明確にします。
ここでは、定型業務や意思決定に重要な役割を持つファイルにフォーカスしましょう。
2. 実態調査の実施
各現場メンバーへのヒアリング、サーバ・個人PCのファイル検索、アンケート調査など、地道な“掘り起こし”作業が不可欠です。
マクロ名、作成者、利用目的、運用実態などを情報シートにまとめていきます。
3. 業務・重要度の棚卸し
リストアップしたマクロを、「業務プロセス上どの地点で使っているか」「使用頻度やインパクト」「代替手段の有無」などで分類します。
これによって、“重要だけど誰にも分からないブラックボックス”を重点ターゲットとして抽出できます。
4. ブラックボックス度の自己診断
作成者以外がマクロの内容を説明できるか、操作マニュアルが整備されているか、トラブル時の保守フローが明文化されているか、点数化していきましょう。
この結果が“見える化”の到達度合いの指標となります。
実践!棚卸しワークの現場ノウハウとコツ
現場を巻き込むためのポイント
業務効率化やペーパーレス化、DXといった正論をただ掲げるだけでは、現場は動きません。
「属人マクロが残る理由=慣れたツールを手放したくない」「引き継ぎで評価されるより、“自分がいないと困る”ことが無言の地位保証」という職場心理も根深いものです。
棚卸しワーク成功のカギは、「今動かないと、本当に困るのは現場自身である」と腹落ちしてもらうファシリテーションです。
例えば過去の属人化起因のトラブル事例を“自分ごと”として語る、工場長や部門長が旗振り役になる、現場目線での改善案を提案してもらう、など双方向のコミュニケーションが重要です。
ブラックボックス解消のための情報収集方法
属人マクロの本質は「記憶に頼った運用」と「口頭伝承」にあります。
棚卸しシートには、下記のような項目を含めると効果的です。
– ファイル名・格納場所
– 利用部門・担当者
– マクロの具体的な処理内容
– 入力データ・出力データと連動先
– 定期的なメンテナンスやエラー報告の有無
– 作成・改訂履歴
– トラブル発生時の対応事例
これらをヒアリングやグループワークで埋めていくことが、顕在化したブラックボックスを分解する第一歩となります。
現場リーダーによる推進体制の構築
担当者任せにせず、一定の権限を持ったリーダー(例:工場長、品質保証課長、システム担当)を中心に棚卸しプロジェクトチームを組織しましょう。
属人マクロの使用・管理ルール策定、定期棚卸し・進捗管理・啓発活動など、仕組みとして継続できるよう工夫が必要です。
棚卸しワークで得られる“副次効果”
棚卸しワークは単なる「マクロ洗い出し」作業にとどまりません。
本質的な効果は、現場の“気づき”を促し、業務フロー自体を見直す機会になることです。
「なぜこのマクロが生まれたのか」「手作業・エクセル依存が増えた理由」「本来の目的と今の運用状況のギャップ」など、現場の知恵が業務全体の生産性向上につながります。
また、棚卸し作業によって“お互いの業務内容・課題が見える”ため、部門間の対立ではなく「協力による全体最適化」への意識転換も期待できます。
今後のステップ:標準化・自動化・DX化への道筋
作業内容の標準化・マニュアル化
ブラックボックスの可視化が進んだら、次は業務内容・使用マクロの標準化です。
操作手順や設計意図を“誰でも分かる”形で文書化し、引き継ぎや教育の仕組みを作りましょう。
ルール・システムの整備と自動化
定形的な集計や判定処理は、IT部門と連携してワークフロー化やRPAによる自動化へ展開できるでしょう。
属人マクロの一元管理やバージョン管理、運用記録の仕組み化を図ることで、継続的な改善サイクルも回しやすくなります。
DX化へ向けた準備
個別最適から全体最適へ。
IoTやMES(製造実行システム)、ERPとの連携を見据え、現場で扱うデータの標準化と形式知化は、DX化の土台となります。
棚卸しワークは未来志向の生産体質づくりのスタートでもあります。
まとめ:製造業の未来をひらく棚卸しワークの重要性
属人マクロのブラックボックス化は、古くて新しい製造業の課題です。
現場の効率化とDX化、事業継続のためには、「見えない資産」を“見える化”し、共有財産へと昇華させる棚卸しワークが不可欠です。
現場に根ざした知恵と、管理・IT部門の技術力、そして全員の協働が合わさってこそ、製造業は次世代の競争力を取り戻せます。
現場の皆さん、属人マクロの見える化から未来への変革を始めてみませんか。
今こそ、昭和の知恵を令和の標準にアップデートする絶好のチャンスです。
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