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IoT遠隔監視が属人対応を助長する皮肉

目次
はじめに:IoT遠隔監視導入の現場感
製造業の現場において、「IoT遠隔監視」という言葉を耳にする機会が急増しました。
ラインの稼働状況から設備異常、品質データに至るまで、センサーとクラウドを駆使すれば“見える化”は一気に加速すると期待されています。
経営層は「属人化からの脱却」「効率化」「人件費削減」といったキーワードに熱視線を送り、現場へのIoT投資が相次いでいます。
しかし、現場のリアルな空気感は一枚岩ではありません。
確かにIoTの遠隔監視は、生産管理や品質保証体制を進化させる力を持ちます。
一方で、その導入過程や運用面で、思わぬ“皮肉”が発生していることをご存知でしょうか。
それが「IoTによる属人対応の助長」という逆説的な現象です。
本記事では、過去の自らの現場経験をもとに、IoT遠隔監視がもたらす“新しい属人化”の実態と、本質的な改善策について掘り下げます。
アナログ体質が根強く残る製造現場でこそ生じやすい、昭和時代の“名人芸”とは異なる新たな課題について、ラテラルシンキングの視点で解説していきます。
IoT遠隔監視 導入の期待と現場のリアリティ
IoT導入前:職人技と紙ベース管理の現実
かつて私が工場長をしていた頃、ラインの異常検知は熟練オペレーターの肌感覚が頼りでした。
「音が違う」「振動が大きい」「空調の効きが悪い」――そうした経験則によって不具合をいち早く察知するのが現場力でした。
品質記録や生産進捗は、手書きの帳票、黒板、ホワイトボードといったアナログ管理が主流です。
管理職としては“誰が見ても分かる仕組み化”を目指してはいたものの、口頭伝承によって伝わるノウハウや勘どころは、いっこうに絶える気配がありませんでした。
この“属人化”からの脱却こそがIoTによるデジタル化の大義名分だったのです。
現場の本音:「余計な仕事が増えるのでは?」
IoT遠隔監視の導入計画がスタートしたとき、現場には一種の警戒感が漂いました。
「また新しいシステムか」
「誰がトラブルの火消しをやるのか」
「本当に現場の負荷は減るのだろうか」
IT化による業務フロー変更は、現場の心理的・実務的ハードルが非常に高いものです。
ここに、現実とのギャップが生まれる土壌があるのです。
IoT遠隔監視が生む新たな“属人化”とは何か
データの“受け皿”が属人化する皮肉
IoT遠隔監視は、センシングデータや機器状態の“見える化”を確実に推進します。
ダッシュボードに大量のリアルタイムデータが表示され、「異常」や「傾向変化」を“誰でも見られる”環境が整います。
しかし、実際の運用現場では、
・アラートに誰がどう対応するのか
・異常値の判断基準はどのレベルか
・“本当に危ないサイン”の見極めは誰が行うのか
といった、「判断とアクション」の受け皿部分が新たに生まれています。
そして、多くの現場でこの“受け皿”役となるのは、一部の経験豊富な現場リーダーやシステム管理者です。
つまり、“情報の見える化”が進むほどに、「情報を活かす判断力」という属人的スキルの必要性が強まり、結局のところ“新たな属人化”が進行してしまうのです。
自動通知の罠 「見ている人だけが全部背負わされる」
IoTシステムが形だけ整えば、「異常値自動通知」「エラー時の自動メール連絡」の機能が充実します。
本来であればチームでアラート共有し、適切な担当者が迅速に対応できるはずですが、運用初期には通知先の設定や意思決定フローが曖昧です。
結果、「とにかく〇〇さんに通知を送っておこう」となりがちです。
この“万能受け”である担当者(往々にして現場の名物リーダーや、元・紙管理の達人)は、四六時中スマホにアラートが飛んできて、休日や夜間も対応に追われる事態となります。
こうして「属人化のデジタル版」が誕生し、精神的・物理的負担の分散ができず、むしろ負荷が集中する皮肉な現象が進行するのです。
アナログ体質がIoT運用をゆがめる根本原因
業務フロー未整備と“現場の名もなき仕事”の存在
本来、IoT導入は「プロセス・業務フローの標準化」とひと組で成り立つべき施策です。
しかし製造業、とりわけ昭和型運営が強く根付いた現場では、「今まで通りの仕事+新しいシステム操作」となってしまい、「IoT活用のための日々の面倒」が増えてしまいます。
現場の“名もなき仕事”――例えばデータの手修正、レポート用グラフ作成、アラートのダブルチェックなどが、IoT導入後も誰か一人(往々にしてベテラン)が担う構造は変わりません。
こうして属人対応が“アップデート”されるだけの状態となります。
ノウハウの明文化なき“ブラックボックス化”
設備ごとの“クセ”や、“数値変動の許容幅”など、現場自体が経験の積み重ねで成立してきた文化は、IoT上のデータだけでは把握しきれません。
「あの設備は1時間くらい高温アラートが出ても大丈夫」
「5日周期でドリフトが起きるが、手動リセットで正常化する」
こうした現場暗黙知はシステムに反映されづらく、IoT導入後も「分かる人だけが分かる」を生み出します。
結果、“IoT情報のブラックボックス化”=“新たな属人対応”の温床となるのです。
バイヤー・サプライヤーにも波及する属人リスク
サプライヤーから見るIoTの「バイヤー属人性」
部品メーカー、材料サプライヤーといった外部業者の目線では、IoTにより工程情報がシームレスに共有できることを期待しています。
しかし現実には、異常値検出や品質トラブルに対して「誰宛に、どんな内容で、どう連絡すれば良いのか」ルートが分からず、結局“経験豊富な担当バイヤー個人”に依存したやりとりが続きます。
結果、せっかくIoTで情報を連携できてもオペレーションは属人的になり、引き継ぎや仕組み改善がなかなか進みません。
これでは本来的なパートナーシップや協働改善の機会を損失してしまうのです。
バイヤー視点の属人化「問い合わせが増えて困る」
IoT遠隔監視によって一気に情報量が増えることで、バイヤー側には「トラブル発生時のクレームや調査依頼が一極集中する」という皮肉な問題も発生します。
「対処すべきなのは現場だけど、とりあえず“分かりそうなバイヤー”に問い合わせよう」
「この機種のIoTデータって、担当はAさん?Bさん?」
こうして、調達部門も業務範囲外の“情報ハブ”に振り回される環境が生まれるのです。
IoT遠隔監視が属人対応を脱却するための条件
1. 業務フローの見直しと“役割設計”の明確化
IoT化は「アナログオペレーションの電子化」にとどまっていては意味がありません。
現場ごとに「異常値が出たとき、どのレベルで誰が見て、誰がアクションするか」を細かく標準化・役割化し、組織としてのレベルアップを図る必要があります。
運用ルールをマニュアル化し、判断に迷うポイントを“会議ではなく現場のQ&A集”としてナレッジ化。
属人性の見える化・形式知化を進めることが不可欠です。
2. 現場とIT部門の“助け合い文化”づくり
「システムのことは分からない」「現場のことはIT専門職が知らない」――この分断を乗り越えるためには、現場×本社IT部門のハイブリッドチームで運用課題を定期チェック・改善していくしかありません。
属人業務が見つかったら、定期的なレビュー会議やアイデア共有を通じて“チーム化”していく仕掛けを作るとよいでしょう。
3. サプライヤー・バイヤー間のルール標準化・見える化
情報共有・ウォッチポイント・異常連絡など、“どこまで外部に開示し、誰にどう伝達するのか”。
サプライヤー側にも属人アクションを求めず、定量的・匿名的なやりとりにシフトさせる標準化が不可欠です。
また過去のトラブルケースやFAQのナレッジ基盤化も効果的です。
まとめ:IoTに“人間力”を乗せて未来を切りひらく
IoT遠隔監視は、一見すると“属人化からの脱却”という夢の技術のように喧伝されがちです。
実際には、「判断」「運用」「アクション」の設計が不十分なまま導入が進むと、“新たな属人化”を助長するという皮肉な現象が生まれるのです。
昭和型のアナログ管理が根強い工場ほど、IoT運用の設計時には現場対応者の心理や隠れたタスク、そして縦割り部門を越えたコミュニケーション設計が不可欠です。
IoT=機械任せ、ではなく、IoTで得られる大きな情報を“人間が判断しやすくする”仕組み作りを進めましょう。
属人スキルは形式知化し、人材の多様性と業務の標準化を両輪で進めること。
これがIoT時代における現場主義の真髄です。
“現場で培われた知恵”と“デジタル化の推進力”――。
この2つを掛け合わせて、製造業の未来に新たな地平線を切りひらくことこそ、私たちものづくりに携わる者の使命だと考えています。