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健康経営を推進する担当者が孤立する組織

目次
はじめに――「健康経営」推進担当の現実
健康経営という言葉が日本の製造業でも広く認知されるようになりました。
経営理念の一角をなす企業も増加し、人材確保や定着、良好な労働環境づくりの要ともなっています。
筆者自身、複数工場で管理職を歴任し、人事部門や現場の主任とともに健康経営の施策を立案・推進してきた経験があります。
一方、健康経営の推進者が社内で孤立しがちだという現実も、いまだ根強く残っています。
この記事では、「健康経営を推進する担当者がなぜ孤立しやすいのか」「どんな昭和的・アナログ的な業界慣習がハードルになるのか」そして「孤立を打破し、現場を巻き込むアプローチ」を、実践目線で深堀りします。
バイヤーを目指す方、あるいはサプライヤー視点でバイヤーが何を重視するかを知りたい方にも刺さる現場ノウハウをお伝えします。
健康経営の背景――求められる理由と現場へのギャップ
製造業の人材課題と「健康経営」導入のリアル
近年、製造業でも慢性的な人手不足が深刻です。
特に熟練工や管理職候補の確保と定着、さらには海外からの技能実習生の活用など、人材面の課題は山積みです。
ここで健康経営を推進する狙いは、以下のような目的が挙げられます。
・社員の健康維持・向上による定着率アップ
・プレゼンティズム(※出勤はしているが健康課題でパフォーマンスが落ちる状態)への対策
・労災リスク/休業リスクの低減
・企業イメージや採用競争力の強化
経営層は「これからの時代は従業員ファースト」「SDGs・ESGに応える企業に」という美辞麗句を掲げます。
ですが、昭和~平成にかけて成長してきた多くの現場にとって、「健康経営」というコンセプトは抽象的かつ外来語であり、表面的な流行りものにすぎないと受け止められがちです。
現場との乖離――「今さら健康?」という空気
実際の工場には「忙しいのに、余計な仕事を増やすな」「休むのは根性がないからだ」といった、無自覚な昭和型マインドが根強く残っています。
たとえば、以下のような声がしばしば聞かれます。
・「健康診断の結果?個人の自由だろ」
・「ウチは24時間三交替が当たり前。休憩や仮眠なんて許されない」
・「昔はもっときつかった。それに比べれば今はマシ」
こうした土壌のなかで健康経営推進担当者は、まるで異端児のような目で見られやすいのです。
健康経営担当者が孤立する5つの理由
1. 「本業」から外れた役割として見られやすい
健康経営担当者は、多くの場合、本来業務(生産管理、品質管理、調達購買など)の片手間で任される傾向があります。
それが専任ならまだしも、現場業務を抱えながらの兼任が多い実状です。
「安全衛生委員会」「健康イベント運営」「ストレスチェックの集計とフォロー」等、従来の“本業”と異なる仕事が重なり、チームのなかで浮きがちです。
2. 組織のボトムアップ文化が希薄
意見具申や新しい取り組み、その成果報告よりも「指示待ち」「ルールに従うこと」が根づいた組織では、健康経営のような“見えにくい効果”の活動は理解を得にくいものです。
例えば現場の提案に対し「やりたければ勝手にやれよ」という反応になりやすく、担い手の熱意が空回りします。
また、マネジメント層が「現場が望んでいない」などと消極的な空気を助長するケースもよく見かけます。
3. 成果の可視化が難しい
製造業に根強い「KPI・数字で語る文化」では、健康経営の“成果”は目に見えにくいという課題があります。
たとえば、
・健康診断の有所見率改善
・ストレスチェックのスコア向上
・労災・病欠の減少
といった数値は毎年劇的に改善するものではなく、また直接的に「売上」「生産性」と連動しづらいです。
「見えないものは評価されない」となり、担当者は達成感を持てずモチベーションが下がりやすくなります。
4. 社内の「しがらみストラクチャー」の壁
昭和体質の組織では、定年に近いベテラン現場リーダーが“ローカルルール”を守っており、彼らの了承なしには新施策が進みにくい傾向があります。
健康経営担当者が“本流から外れた”若手や女性の場合、なおさら意見が通りにくく孤立感を深めます。
交渉や説得が緩慢化する一方で、推進スピードが遅れ「どうせ社内行事」と軽視される悪循環が生まれやすいのです。
5. 厳しい日々の生産ノルマとの板挟み
そして何より、工場現場を預かる管理職や作業者にとって、納期・品質・歩留まりこそが至上命題です。
「健康経営施策のために時間を取る」こと自体が、“生産性低下”や“作業遅延”と結び付けられてしまいがちです。
健康経営担当者は「工場長や本部から言われてるから仕方なく」イベントや施策を形だけ回す状況に追い込まれがちです。
これが“孤独に陥る”典型的なパターンです。
アナログ業界でも成功する健康経営の取り組み方
孤立を乗り越えるには、まず現場に健康経営が“自分事”となるストーリーや具体的な意味付けを伝えることが重要です。
ここでは、筆者の現場経験から得た「実践的アプローチ」を紹介します。
現場の「困りごと」から逆算する
「健康経営」の抽象論や上層部の美辞麗句では、現場の共感は得られません。
むしろ現場作業員や班長が日々抱える「困ったこと」や「小さな不満」から逆算し、ともに解決するプロセスに寄り添うことです。
たとえば、
・三交替勤務で慢性的に眠気や疲労を感じている
・腰痛や熱中症が多発している
・多国籍化が進み、言葉や生活習慣に配慮が必要
など、目の前の課題に対して
「こういう施策をやれば現場のあなたたちがラクになる」
「生産性も上がるし、結果的に休みやすい環境を作れる」
という、自分ごとのフレームに落とし込むのです。
身近な成功体験を積み上げる
小規模でも身近で即効性のある取り組みを積むことが、現場の信頼獲得につながります。
・作業台や通路の滑り止め対策 → 転倒災害ゼロ
・塩分補給シートや冷やしタオルを設置 → 熱中症発生数が減少
・仮眠ブースやリラックススペース設置 → 三交替工の満足度上昇
これらは大きな設備投資や複雑な運用なしに始められるものばかりです。
「些細なことでも効果が出る」「自分たちの声で変化できる」体験を増やし、健康経営の“意味”を実感してもらいましょう。
調達購買やサプライヤー連携も「健康経営」視点で
バイヤーや調達購買担当、さらには協力会社やサプライヤーも巻き込んだ健康経営の推進も重要です。
たとえば
・安全認証や衛生管理がしっかりした原材料・部品サプライヤーの優先採用
・協力会社作業員の健康講習への参加呼びかけ
・「健康経営優良法人」認定取得企業同士の取引促進
こうした仕組みをバイヤー視点で導入すれば、健康経営担当者の業務価値がより組織内外で認められるようになります。
また、サプライヤーとしてもバイヤーの「健康起点」の調達基準を理解し、差別化要素とすることが可能です。
地道なコミュニケーションと、現場リーダーの巻き込み
工場の班長やラインリーダーなど現場のキーパーソンを「健康経営のサポーター」に育成することも推進の鍵です。
・定例会議や朝礼での啓発
・リーダー自身に小さな健康施策の企画運営を経験させる
・「現場代表」として健康経営委員会に参画してもらう
こうしたステップを積极的に設け、健康経営担当者=孤立無援ではなく、「現場現認」の支持者を増やしていきましょう。
今後の展望――健康経営で現場力を高め、産業を変える
健康経営推進とは単なる福利厚生強化ではありません。
現場の作業効率や定着予防、最終的には製造業の競争力アップのための「新たな武器」たりうるものです。
現場目線・バイヤー目線・サプライヤー目線を持つことで、
・健康経営の実効性を高め、組織内外で評価される
・調達購買活動に新たな付加価値(差別化軸)を生み出す
・昭和型の硬直した体質を抜け出し、人にやさしい現場を作る
といった、持続可能な製造業の姿を描くことが可能です。
健康経営担当者の孤独は決して特殊なことではありません。
だからこそ、現場主導の意識転換と具体策が必要だと、現場経験者として強く訴えたいと思います。
まとめ
健康経営推進の現場で担当者が孤立しやすい背景には、アナログな組織文化や「本業」至上主義、そして成果の見えにくさがあります。
しかし、現場の困りごとから逆算し、ともに解決を目指す伴走者となることで、孤独の悪循環を断ち切ることができます。
また、バイヤーやサプライヤー視点でも「健康経営」は新しい取引基準や差別化軸となりうる時代が到来しています。
一人ひとりの現場力が積み重なって、より強く柔軟な製造業へ。
健康経営は、現場を知る担当者が誇りを持って推進すべき「攻めの経営」施策であり続けるべきです。