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投稿日:2026年1月24日

ソフトウェア・ディファインド・ビークル導入時に議論が止まる論点

はじめに:ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)とは何か

ソフトウェア・ディファインド・ビークル(Software Defined Vehicle、以下SDV)は、従来の自動車設計とは根本的に異なるパラダイムを示します。
ハードウェア主導で発展してきた自動車産業に、ソフトウェアによる制御・拡張という新しい概念を持ち込みました。
電装化・コネクテッド化の流れとともに、車両の多くの機能がソフトウェアアップデートで進化する時代。
調達や生産管理、品質管理にも、従来では考えられなかった課題や論点が投げかけられています。

しかし、日本の製造業現場、とりわけ昭和のルールや価値観が色濃く残る工場・現場では、SDVの導入検討段階で議論がストップしてしまう、いわゆる「議論が止まる論点」が点在します。
本記事では、筆者の現場視点と業界構造の歴史、そして持続可能な製造業発展の観点から、SDV導入時に実際どこで、どのように議論がストップしやすいのか、そしてどう乗り越えれば良いのかを解説します。

SDV導入を妨げる現場の「議論停止点」とは

役割分担の再定義に現場が戸惑う

自動車産業のバリューチェーンは、伝統的に「設計→部品調達→組立・生産→品質保証→市販→保守」という明確な役割分担で最適化されてきました。
たとえば、「調達は部品仕様を確定してから動く」「生産は事前の設計情報を忠実に守る」「品質部門は生産されたモノを検査する」といった、いわば順送りベースによる業務プロセスが根強く残っています。

しかしSDV化が進むと、車両の機能やサービスの多くがソフトウェアで定義・制御され、仕様は「一回限りの確定」から「段階的に進化し続ける設計」へと変化します。
これにより、「どこからが設計部門の責任範囲で、どこからが調達部門なのか」という役割境界が曖昧化。
現場は「これまでの流儀で進めて良いものなのか?」と戸惑い、議論が前に進まなくなるケースが多いです。

仕様確定のタイミングが「決めきれない」

SDV時代、最も大きな構造変化は「ソフトウェアアップデートによる後出し進化」です。
従来は全機能を設計・評価したうえで量産開始となりましたが、SDVでは「とりあえずハードウェアだけ整え、機能は出荷後にアップデート」することも許容されます。

結果、調達やサプライヤー管理の現場では、
「じゃあ、どの時点でどの仕様まではFIX(確定)するのが正解なのか?」
「未確定分はどう契約書に盛り込むのか?」
「ソフトウェアの能力保証はハード部品同様に担保すべきなのか?」
など、「新しい仕様確定ルール」を合意できず、議論が止まってしまいがちです。

特に発注先サプライヤーとの関係性では、「出来高払い基準」や「リビジョン管理」「仕様変更時の責任分担」をどう切り分けるのかが最大の論点となります。

成果物の「見える化」が困難に

昭和型の製造業では、「目で実物を見る(現物主義)」「合格品判定を検査で可視化」「“ものづくり”の証拠を納入部品で担保」など、すべてが“モノ”を基準に業務が回っていました。
しかしSDVでは、ソフトウェアのコードや仕様書も設計成果物となり、ものとして見えません。

このため「これが最終成果物なのか」「実装された機能は本当に要件を満たすのか」という“見える化”の壁に現場が直面します。
とくに品質部門では、「ソフトウェア検証の新しい考え方(CI/CD、テスト自動化など)」が求められますが、昭和型フローのお作法とのギャップが大きく、議論が“どこまでやれば合格なのか”で毎回ストップしがちです。

「終わりなき進化」への違和感と不安

日本の製造業現場では「納期厳守」「仕様遵守」「ゼロディフェクト(不良ゼロ)追求」が強く根付き、それ自体が業界競争力でした。
しかしSDV導入では、「完成しないことが前提」「進化し続けながら使い続ける」というIT・ソフトウェアの慣習が求められます。

現場では、
「出荷後に何度もアップデートして本当にお客様が困らないのか?」
「未完成品を納入したとみなされてクレームにならないか?」
「ソフトの不具合責任は誰がどこまで負うのか?」
など、従来と真逆の“捉えどころのない運用”に大きな不安を覚え、それゆえ議論が深化せず停滞しがちです。

議論を再始動させるための現場思考とアプローチ

1. ハード・ソフト一体設計の「職域融合」を始める

SDV導入のキモは、設計・調達・生産・品質管理が「縦割りでなく丸ごと」つながることです。
各部門の現場担当者は、これまでの業務範囲を超え、ソフトウェアとハードウェア、さらにはサービス(車両の運用)まで一体で捉える職域融合が必須となります。

現場でまずできることは、「これまでの慣習・作法は何がそのまま使えて、何が新しくなるのか」を見える化(棚卸し)することです。
そして、「ソフト・ハードの両方の観点を持つ“横断型リーダー”」を育成/起用し、“お互いの不明点・違和感”を率直にテーブルに乗せる文化が議論再始動のカギです。

2. 仕様決定の「段階管理」と契約体系の再定義

SDV時代は、「全仕様を一度に確定」ではなく、「段階的に仕様・責任範囲をFIX(合意)」する考え方が不可欠です。
現場では、たとえば「初期ハード仕様確定タイミング」「ソフト更新の受け入れ基準」「機能保証と不具合発生時のリカバリルール」などを新たな“段階契約”に落とし込みましょう。

これによって、バイヤー(購買担当)とサプライヤーの双方に“ブラックボックス化”や“責任のなすり合い”リスクを減らし、現場の安心感・納得感を醸成できます。

3. 「見えない成果物」の検証自動化・可視化技術の活用

ソフトウェア成果物は目に見えませんが、「検証の自動化(CIツール等)」や「進捗のダッシュボード化」「シミュレーション評価」など、IT系の仕組みで見える化する土壌が産業界でも整ってきています。

現場では、「これまでの“実物チェック”に加えて、ITツールで“コード品質”“動作検証”も第三者観点で評価できる」体制を導入することで、不透明感を減らし、必要な品質保証を担保できます。
また、「テスト自動化」や「バージョン管理の公開ルール」など、ソフトウェア業界のベストプラクティスを積極的に現場にもたらすリーダー人材が欠かせません。

4. 「終わりなき進化=価値提供」と意識をシフト

SDV時代の競争優位は、「最初に出す“完成品”」の品質のみならず、「継続的にお客様の声を反映しアップデートし続ける仕組み」に移行しています。

現場に根付く“未完成は悪”という思想を“進化し続ける価値”へと転換するには、お客様や現場を巻き込んだ「改善フィードバック」「バグ/要望収集→短期間で対応」などの運用文化を社会全体で敷いていくことが肝要です。
出荷した時点での“完璧さ”を目指すだけでなく、進化する過程で“どれだけ価値を提供できているか”をチームや現場で賞賛・評価する新しいモノづくり観の醸成が欠かせません。

おわりに:現場主義こそ、SDV時代を切り拓く武器に

SDV導入は、単なる仕組み変更にとどまらず、企業文化・現場のものづくり哲学そのものを“現代化”していく大転換点です。
「これまでの延長線上には解決できない」議論停止ポイントが多発しますが、それは裏を返せば“現場の知恵と経験”が、あらためて未来の競争力となるチャンスでもあります。

バイヤーを目指す方は、サプライチェーンマネジメントのルールを「ハード×ソフト両面」で再構築していく視野を持つべきです。
サプライヤーの立場でも、「バイヤーは何に悩み、どこが不安で決断できないのか」を深く洞察し、先回りして提案することが新しい関係構築のカギとなります。

日本ものづくりの強みは“現場で本当に使える仕掛け”を積み上げる力です。
昭和の知見と次世代のSDV思考をかけ合わせ、誰もが納得できる「議論が進み続ける現場」を創り出していきましょう。

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