品目マスタの統合で二重登録を防ぎ購買分析精度を向上させたデータクレンジング手法

はじめに：なぜ品目マスタの統合が製造業にとって重要なのか

製造業では、日々さまざまな資材や部品が取引・使用されています。

これら全ての物品を一元的に管理するための品目マスタは、調達購買をはじめとする生産管理や品質管理の根幹に位置しています。

しかし実際の現場では、
「同じ部品が複数の名称で登録されている」
「仕様変更前後の品番が整理されず混在している」
「取引先ごとに異なる管理番号が付与されている」
といった二重登録・不整合が多発していました。

これが進むと、調達先の正確な分析ができない、在庫管理が複雑化する、サプライヤー選定の判断が曇るなど、数多の業務リスクへ直結します。

本記事では、私自身が長年製造現場・購買現場の両方で痛感してきた「品目マスタ統合」の重要性と、二重登録等の混乱をどのように現場視点で解決してきたか。

そしてデータクレンジングの実践的な手法を、アナログ文化が根強く残る日本の製造現場でも活用できるよう、分かりやすく解説します。

品目マスタの現場的“あるある”課題

1. 部門ごと・担当者ごとに乱立する類似品番

実は、品目マスタの乱立は組織構造や人の異動も原因です。

設計、調達、生産管理、品質保証など、それぞれの部門ごとに独自ルールで品目を登録し、その結果「似て非なる」品番や命名ルールが乱立します。

たとえば、同じネジ一本でも
「SCREW-123」
「SC-0123」
「ﾈｼﾞ123（仕入先名）」
など、表記や命名ルールがバラバラなケースが多発。

これにより、仕入先ごとの集計や、生産原価の正確な把握ができなくなります。

2. サプライヤー情報の重複

品目ごとに登録されたサプライヤー情報が、同じ会社でも異なる表記で複数登録されていることも珍しくありません。

例えば、「株式会社〇〇商事」「〇〇商事（株）」など。

この状態では、正確な購買実績の集計やサプライヤー比較が困難です。

3. 属人化・ブラックボックス化

人手で管理されている会社では、ベテラン社員の頭の中にしか品目の呼び方や使い分けのルールが存在しないことも。

これが品質問題や原価誤認にもつながります。

データクレンジング手法の基本的な流れ

品目マスタのクレンジングと統合には、システマチックなアプローチが必要です。

以下、私の経験を踏まえた現場で実践できるプロセスを解説します。

1. 現状把握と品目データの抽出

まずは全ての品目情報を一元的に抽出しましょう。

購買、設計、生産管理など、各部門で保有しているマスタデータを洗い出し、一覧化します。

この時点で、どの部門でどのような命名規則・属性で品目管理されているかを整理します。

2. データ統合作業の設計

「項目数」「属性」「分類」の統一ルールをあらかじめ策定しておきます。

・品番命名規則（例：用途-材質-サイズ-枝番など）
・サプライヤー名表記の統一（大文字小文字、（株）/株式会社など）
・規格や仕様、調達先、使用先記録の統一判断

また、業界標準や主要取引先のマスタ構造も参考にしながら設計しておくと、後々のトラブルが減ります。

3. 二重登録・類似品番の洗い出し

品名や寸法、仕様などであいまいマッチングを駆使して、同一と思われる品目を自動的に抽出します。

エクセルのVLOOKUPやCOUNTIF関数等も活用できますが、重複判定は最終的には現場の目（人の判断）が不可欠です。

このとき、
「型式だけでなく仕様書も比較する」
「現物写真や図面もチェックする」
など時間を惜しまず慎重に作業することで、漏れやミスを防ぎます。

4. マスタ統一とクレンジング後の登録基準作成

洗い出した重複データを集約し、1品目1レコードの基準で統一登録します。

同時に「これからの登録基準」を社内ルールとして明文化し、台帳（マニュアル）化しておくことが肝要です。

現場配属者への教育はもちろん「入力時に必ず参照する雛形・ガイド」を運用に落とし込むことで、再発防止につなげます。

昭和アナログ現場に根付いた“無意識の二重登録”の根本原因

高度成長期からの製造業には「現場裁量・現場最優先」の文化が色濃く残っています。

その結果、現場優先の個別対応や言い伝えによる属人的な運用が当たり前になり、記録されたデータの質より”慣習優先”の運用が根付いてしまっています。

「前任者からの引き継ぎでなんとなく」
「設計部と調達部で登録タイミングが違うから」
「既存品に似ているが一部だけ違うので別名にしたい」
といった、現場指向・忖度文化が二重登録を誘発します。

また、長年使用してきた基幹システムの変更への抵抗感や、
「データクレンジングはコストばかりかかるだけ」
という誤解も根強い要因です。

データクレンジングで得られる経営インパクト

品目マスタの二重登録を解消し、
データ精度を向上させることで得られるメリットは多岐に及びます。

1. 購買分析の高度化

購買履歴が正確に集計できるようになり、
品種・数量・サプライヤーごとの実態把握が容易になります。

これにより、
・仕入先ごとの実質的な発注シェアの精緻な把握
・ロングテール部品のコスト削減・集約分析
・年間購買量ベースの価格交渉や優良サプライヤー選定
など、購買部門の競争力が向上します。

2. 在庫管理・調達リードタイムの最適化

品目の集約が進むことで適正在庫の判断がしやすくなり、重複手配や過剰在庫のリスクを大幅に低減できます。

また、類似部品の一本化や代替部品のマスタ統合により、BCP（事業継続計画）上も強い調達体制が構築できます。

3. 原価管理・会計精度の向上

正確な品目・サプライヤー別の購買単価が把握できるため、
・原価企画の精度向上
・損益管理の迅速化
・グループ各社間での科目統一
など経理面でのメリットも大きいです。

4. 品質トレーサビリティの確保

どの品目が、どの製造ロットで、どのサプライヤーから供給されたか、
品質異常時の早期原因特定、迅速なリコール範囲の特定も容易になります。

バイヤー・サプライヤー双方が知っておくべき「データ品質」の本質

バイヤー（調達担当）の本音としては「合理的な条件で良品を、正しい数量、短納期で確保したい」これにつきます。

一方、サプライヤーからすると「自分のところの商品がどのように使われ、どんな基準で選ばれているのか」を明確に把握したいものです。

品目マスタやデータ品質が混乱している会社は、現場が「なぜこの業者に」「なぜこの部品か」が曖昧になり、高度な購買分析や共同改善も進みづらい傾向があります。

クラウドやEDI（電子データ交換）など取引の電子化が進む今日、サプライヤー側が発注連携先の判断基準や購買方針を正しく知ることは、「バイヤーの信用」を得る上でも重要です。

品目マスタ統合を武器にすることで、バイヤーもサプライヤーもお互いの視界がクリアになり、パートナーシップの深化へつながります。

データクレンジングを成功させる“ラテラル思考”のヒント

あえて既存の部門単位・システム単位に縛られずに考える“ラテラル思考”を取り入れれば、より画期的な改善が実現できます。

1. 品目マスタを「部門の持ち物」ではなく「経営資源」として捉える

各部門の“局所最適”ではなく、グループ全体やエコシステム全体でのデータ共有・透明化を目指すことで、個々の改善では得られない効果（例：サプライチェーン全体の効率化、サステナブル購買推進等）が生まれます。

2. 他業界・他社の成功事例に学ぶ

自動車産業の品番統合事例、流通小売業のPLUコード集約、IT業界でのMDM（マスターデータ管理）導入事例などから発想を広げ、柔軟に自社の現実へ応用する姿勢を持つことが大切です。

3. AI自動重複判定・自然言語解析の活用

近年は、AIやRPAを用いて類似品番や表現違いを自動検出できるツールも登場してきました。

今は“現場の勘”に頼らざるを得ない部分でも、これらを補完的に活用することで、ヒューマンエラーや属人化の壁を突破できます。

まとめ：品目マスタ統合は“地味で骨の折れる仕事”だが、製造業変革の鍵

品目マスタの整備やデータクレンジングは、派手なイノベーションやDX（デジタルトランスフォーメーション）と比べて地道で面倒に見えるかもしれません。

しかし、これを徹底することで業務の現場力・調達競争力・経営の透明性は一気に高まります。

根強く残る昭和的なアナログ文化こそ、現場起点の地道な統合作業と思考の転換によって塗り替えられます。

製造業に従事する方、調達バイヤーを志す方、サプライヤーとして先進的なバイヤーの要求を先取りしたい方へ。

今こそ品目マスタの統合・データクレンジングに真剣に取り組む価値があります。

“本質は、現場に眠る細部のデータから始まる”
この一歩から、あなたの会社全体の変革がスタートします。