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日本企業は“YES”と答えても買うとは限らない背景

目次
日本企業は“YES”と答えても買うとは限らない背景
はじめに ― 日本独特の「YES」の文化と商談の難しさ
日本の製造業で長年バイヤー(購買担当)として働いた経験から、日本企業が交渉の場で“Yes(はい)”と答えたからといって、そのまま取引や発注につながるとは限らないことを痛感しています。
むしろ「YES=受注確定」と一直線に捉えてしまうのは危険です。
この現象は、海外サプライヤーや新規参入を目指す営業担当だけでなく、日本の若手バイヤーや社内横断プロジェクトのチームでもしばしば悩みの種となっています。
本記事では、日本企業が“Yes”と答えながらも、実際には購買に至らない理由や、昭和から抜け出せない業界慣行の本質を、「現場目線」で深掘りします。
加えて、真の「YES」を引き出すためのラテラルシンキング的アプローチも解説し、読者の商談力・理解力の底上げに寄与できればと考えています。
「YES」と「承諾・発注」がイコールでない現場の実態
建前の「YES」と本音のギャップ
日本企業のバイヤーが商談席で“Yes”と言う場面は多々あります。
しかし、その「YES」は必ずしも「承諾」や「発注」を意味しません。
その背景には、以下のような特徴的な社内・業界文化があります。
- 相手先や現場の雰囲気を乱したくない(対立回避型コミュニケーション)
- 本心を即答せず、「とりあえず進めて様子を見る」伝統的な交渉スタイル
- 「検討中の案件」として保留・棚上げするケースが多い
- 昭和的な『根回し』『ハンコ文化』が根強く残る(現場の合意形成の複雑さ)
このため、表面的な“YES”に安心せず、その言葉の裏にある温度感や意図を見極めることが重要です。
購買判断に至るまでの「多段階プロセス」
現場ではよく“決裁プロセスが複雑で遅い”と揶揄されます。
たとえば、「担当者」は現場ベースで商談を進め、ある段階では“Yes”や「前向き検討」の表現を使います。
しかし、実際にはその後、下記のような段階を経る必要があるのです。
- 購買担当内での比較検討・見積評価・技術審査
- 部内や上司への起案・決裁フロー
- 全社購買方針やグループガイドラインとの整合性チェック
- 稟議、審査会、時には役員会の承認
この多段階プロセスの中で、「YES」と言いながら止まってしまう案件が少なくありません。
この根本原因には「失敗が嫌われる文化」や「前例踏襲・慎重主義」が色濃く影響しています。
昭和型アナログ業界に根付く商習慣と心理的背景
なぜ日本の製造業は慎重なのか?
製造業の現場では少しのミスや不良が命取りとなり、重大事故や巨額損失につながることもあります。
だからこそ日本企業は「すぐにYES」「即決」という姿勢より、「周囲と調和し責任分散」「徹底的にリスクを洗い出す」スタイルを良しとする傾向があります。
加えて、バイヤーや現場担当者には次のような心理が根付いています。
- 新規の提案やサプライヤー切替にはリスクや抵抗感が大きい
- 「失敗の責任」をできるだけ回避したい(前任者踏襲を好む)
- 現場オペレーションや品質面での不安要素を排除したい
- 社外・社内との「顔」や人間関係を重視する
口約束文化と「玉虫色」の合意点
日本の商談では、明確な「YES/NO」ではなく、「玉虫色の合意点」に落とし込む例も多いです。
たとえば「前向きに検討します」「良い提案ですね」「検討課題として挙げます」などの表現がそれに当たります。
このような曖昧な合意や期待感が、結果的に本音や意思を隠してしまう温床となっています。
買うとは限らない“YES”を見抜くサイン・ヒント集
現場でありがちな「NG YES」17連発
1. 社内プロセスに入れてみます
2. 上司と相談してみます
3. 参考になりました
4. 他社状況も精査中です
5. 予算面の確認が必要です
6. 今期は厳しいですが検討します
7. 必要になった時はこちらからご連絡します
8. ご提案内容は魅力的です
9. 社内的には賛同する声も多いです
10. 後日、改めてご連絡します
11. 詳細はまだ詰めていません
12. 社内手続き中です
13. いったん預からせていただきます
14. すぐには難しいが、将来的には可能性があります
15. 良い案件だと思います
16. 周囲の意見も聴いてみたいです
17. 今すぐには意思決定できませんが、前向きに検討します
これらのコメントにはそれぞれ、発注や契約までの「本当の温度感」や「内情への配慮」、「現場の慎重さ」「保身」の意識が隠れています。
本音・温度感を探る質問例
交渉現場で“YES”と言われた際は、次のような追加質問で本音を探ると良いでしょう。
- 「もし決定まで障害となるポイントがあればご教示いただけますか?」
- 「具体的にどのタイミング、どの部門まで意思決定が進むと正式な発注となりますか?」
- 「ご社内で同様案件が決まった際の、ご経験やパターンをお伺いできますか?」
- 「他に比較検討されている提案や、優先事項は何でしょうか?」
“YES”に隠れた懸念や事情を引き出し、次のアクションへの糸口をつかむことが、成約への近道となります。
「YES」で終わらせない!バイヤー・サプライヤー双方のラテラルシンキング術
伝統的な購買イメージを打破する「提案型」交渉の意味
日本の製造業では、従来「価格交渉」「コストカット要請」がバイヤーの主な役割と思われがちでした。
しかし現代は、サステナビリティ・DX化・SDGsなど新たなビジネス潮流が購買戦略に強く影響しています。
これにより、バイヤーにも「一歩踏み込んだ新しい価値の提示」「サプライヤーとの共創」「部門横断での調整スキル」が求められるようになっています。
ラテラルシンキングの応用 ―「YES」から「GO」への壁を乗り越える
ラテラルシンキングとは、“水平思考”とも呼ばれ、常識に捉われず新たな見方・視点で物事を解決しようとする思考法です。
日本独自の「YES文化」に対しても、このような姿勢が有効です。
- 商談の前段階で「隠れた社内キーマン」をリストアップし、突破口を探る
- 既存の稟議・合意プロセスそのものを分かりやすく“見える化”してもらう
- 「御社の意思決定ルールを一緒に整理しましょう」と歩み寄る提案をする
- 単なる製品・仕様提案でなく、現場の困りごとや人手不足解消など“課題”に寄り添う提案型スタンスを徹底する
- 事例や導入効果の“見える化”により「周囲を納得させる材料」を一緒に用意する
こうした取り組みは、昭和型アナログ業界が変革への第一歩を踏み出すきっかけともなります。
バイヤーを目指す人へのアドバイス ― 本当のニーズ・リスクを見極める力
バイヤーや購買担当を志す方は、単なる価格交渉力や事務処理能力だけでなく、商談相手や現場担当者の「本音・温度感・決裁構造」を読み取るリテラシーを高めてください。
また、「YESだが進まない案件」の実態に早く気付く観察力を磨き、現場に足を運ぶ・ヒアリングを重ねる習慣を大切にしましょう。
海外勢や新規サプライヤーとの架け橋となり、より広い視野で日本型商習慣をアップデートしていくことが、現代のバイヤーには欠かせません。
現場から考える―日本製造業の“YES”文化を進化させるために
コミュニケーション改革が生産性向上・DX推進のカギ
日本の製造業がグローバル競争に打ち勝つには、従来の「NOとは言わず玉虫色で終える」姿勢から、「本当に必要な議論を率直に交わせる」カルチャーシフトが不可欠となります。
その第一歩として、バイヤー・サプライヤー双方に、“YES”と発言された時こそ、「なぜそう思うのか」「どんな障壁があるのか」を徹底的に掘り下げるラテラルシンキングの姿勢が新たな地平線を切り開きます。
現場の一人ひとりがこのDNAを受け継ぎ、実践していくことが、ものづくり大国・日本の未来を支えると確信しています。
まとめ ― 「YES」に満足せず、本質を問い続けよう
日本企業が“Yes”と答えてもそれが「即=買う」を意味しない理由。
それは決して後ろ向きな文化だけでなく、慎重さ・調和・情の文化という強みの裏返しでもあります。
しかし、変化の波が加速する今こそ、表面的な合意に満足することなく、さらに踏み込んだ「本音への対話・課題共有・共創」の意識が求められるでしょう。
ラテラルシンキングを武器に、業界現場の常識を次々と更新し、日本のものづくりの未来を切り拓いてください。
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