投稿日:2025年11月12日

スクリーン印刷の多色分解で見当ズレを最小化する治具設計

はじめに 〜製造現場目線で語るスクリーン印刷の多色分解〜

スクリーン印刷の現場では、色ズレ、すなわち「見当ズレ」による品質不良は、今なお深刻な課題として残っています。

近年はデジタル印刷の普及も進んでいますが、金属・プラスチック・ガラス等、特定材料への印刷や、厚膜パターン印刷、コストパフォーマンス重視の大量生産ではスクリーン印刷が主流である工場も多いです。

その一方で、従来通りの「アナログ」な治具や作業者の熟練に頼った工程が、今も製造現場に根付いています。

本記事では、多色分解(多色刷り)工程の見当ズレを最小化するための治具設計について、実際の現場経験に基づいて解説します。

また、現場でありがちなトラブルや最新の業界動向にも触れつつ、購買担当者やサプライヤー、そして現場のオペレーターが知っておきたい勘どころを共有します。

多色分解工程と見当ズレの現状

なぜ多色分解は難しいのか

多色分解とは、1つのデザインをCMYKや特色インキなど複数色に分けて、版ごとに順次印刷する工程です。

各色ごとの版を正確な位置に重ねることで、高精細な画像やデザインを再現します。

しかし、材料の伸縮、版の精度、フレーム強度、工場内温湿度、刷り順、さらには人の作業精度、様々な要因が見当ズレを引き起こします。

とくに、工業用途や電子部品向けのパターン印刷では、0.1mm以下のズレもNGとなるケースが多数。

市場で問われる品質水準は日々高まる一方、現場では「経験則」と「アナログ工程」が根強く残っています。

アナログ主導の現場、その危うさ

たとえば、位置決め治具といえば「ピンセットで見当ピンを穴に差し込む」といった昭和スタイルが今なお一般的です。

また、版や材料ごとの個体差を、熟練作業者の“勘”に頼る現場も珍しくありません。

これらは一見効率が良いようですが、工場全体のスループット向上や人材多様化の時代にはリスクが隠れています。

近年、グローバル競争の中で、アナログ的な“属人化”をデジタル化・自動化へと進化させることが不可欠になっています。

治具設計で見当ズレを最小化するための発想

現状治具の限界と課題

多くの現場では、治具は設備導入時の“標準品”が長年使い続けられています。

画一的な治具では、材料や版のわずかな寸法変動に柔軟に対応できません。

また、作業者の熟練度に品質が大きく依存してしまう現状も依然続いています。

「ちょっとうまく嵌らないから、力加減で何とかする」
「ちょっとずらして合わせて、OKサイン」

このような作業はヒューマンエラーや再現性不足の原因そのものです。

ラテラルシンキング的治具設計の着眼点

属人化・アナログ主導から脱却するには、単なる“量産品”や“調達コスト志向”でなく、
1. 材料や環境変動に柔軟に即応できる構造
2. 個体ごとに精度を担保でき、なおかつ誰でも作業できる設計
3. 設計情報のデジタル化・可視化への連携

この3点の両立が決定的に重要です。

たとえば、次のような具体的アイデアが挙げられます。

多点支持・サスペンション方式の応用

リジッドな2点支持ではなく、3点・4点支持、もしくは材質や厚みに応じて変形するサスペンション方式の治具を採用します。

材料の熱膨張や厚み差など、リアルタイムで微調整が必要なポイントに“遊び”を持たせ、素材ストレスを均等に分散。

これにより、わずかな材料個体差でも無理のない位置決め・固定が可能になります。

位置決めの“ゼロリセット”機構

治具側と版側に誘導ガイド(V字ピンとスリット、バネ押さえなど)を組み合わせ、版セットのたびに必ず“ゼロ点”(基準)からセットアップできるようにします。

これにより、「前回のクセが残る」「1枚目は決まるのに、2枚目でズレる」といった問題が低減します。

非接触式アライメント治具の導入

高級スマートフォンや自動車パネルでは、光学式のアライメント(画像処理による座標補正)を取り入れた治具も増加しています。

例えば、CCDカメラで版穴とワークの基準マークを認識し、手順通りに治具にセットすれば自動で最適配置できる仕組み等もあります。

初期投資こそ必要ですが、ヒューマンエラーの激減と再現性・トレーサビリティ確保に直結します。

現場で即実践できる治具設計・改善例

「無調整」こそが最大の品質保証

治具を“使うたびに微調整が必要”なのは、実は設計の敗北です。

治具が「誰が使っても同じ位置に収まる」事こそが、生産現場の効率と再現性を劇的に高めます。

近年、航空機部品メーカーや自動車のTier1サプライヤーでは、3Dプリンターを活用し、
一点一点のワークの輪郭や固定点に“ピッタリ接触”するインサートを治具に後組みする例が増えています。

材料ロットごとに微差が生じやすい樹脂や薄板類でも、型取りによる“現物合わせ治具”で品質安定を実現できます。

標準化+可変機構を両立させる

「パターン数は数百種類、都度全部違う治具?コストが合わない!」という声も現場ではよく聞きます。

ここで重要なのは“標準化”と“可変機構”を組み合わせたモジュール化の発想です。

すなわち、基台(金属フレームや樹脂ジョイント)部分は共通化しつつ、接触点やクランプ部だけを交換モジュールで対応可能とします。

また、アナログ工程から一歩進んで「治具への刻印」「部品番号のQRコード管理」等で、履歴管理や保全の自動化にも役立てましょう。

リスク・変動要素を徹底的に“見える化”する

どんな治具も“万能”は存在しません。

版の保管状況、材料ロット差、温湿度、作業者による変動、つねに何かしらの影響が出るものです。

ここで大事なのは「リスク要素・変動ポイント」を現場全体で“見える化”し、多色印刷ごとに工程FMEA(故障モード影響解析)を徹底する文化の確立です。

定点観測・毎日QCチェックシートの運用で、“どの工程で、どんなズレが出るか?”を数値化・ドキュメント化しましょう。

問題の早期発見・共有こそが工場全体の損失防止への第一歩です。

サプライヤー・バイヤーが知っておくべき背景と最新事情

購買・外注先選定時の本質的な視点

発注側(バイヤー)・受注側(サプライヤー)いずれも、単なるコスト・納期基準でなく「治具設計力」「自工程完結力」といった現場のつくり込み力を見抜く視点が重要です。

治具の現物レビュー、工程トレース、トラブル発生時のフィードバック体制の有無が、長期取引では大きな差につながります。

“DX時代の見当ズレ対策”に投資が集まる

近年ではスマート工場やIoT化を活用し、
1. 印刷工程データの自動収集
2. 治具の摩耗診断・リプレース時期の予測
3. 作業ログのAI解析で早期異常検知

こうした仕組みを本格導入する大手工場も目立ち始めています。

サプライヤー側も、単に“モノを納めて終わり”でなく、治具設計・工程ノウハウごと売り込むことで、競争優位を創出できます。

まとめ 〜地に足ついた改善が未来を切り拓く〜

スクリーン印刷の多色工程における見当ズレ対策、その中心に「緻密な治具設計」があるのは時代が移っても変わりません。

ただし、現場目線の“ラテラルシンキング”で時代に合った知恵を加えることで、アナログ業種でもグローバル品質・高スループットを実現可能です。

個人技能や伝統だけに頼らない「仕組み」としての治具、そして現場とバイヤー・サプライヤーの真の連携が、製造業全体の質的ジャンプをもたらします。

昭和の知恵に令和のテクノロジーを融合させた現場改善、ぜひ各々の職場やバリューチェーンで実践し、日本のものづくりをアップデートしていきましょう。

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