投稿日:2025年6月20日

接合メカニズムと無接着剤接合技術への応用

はじめに:製造業の新たな潮流と接合技術の重要性

現代の製造業において、部材同士をどのように接合するかは製品の品質・信頼性・生産コストを左右する極めて重要なテーマです。

一方で、日本の製造現場は未だに「昭和のやり方」に根ざしたアナログ思考が強く、溶接、ネジ止め、接着剤、といったおなじみの方法が大半を占めています。

しかし、近年は接合材料のコスト・リードタイム・環境規制、そして部材の多様化が進み、従来の方式に頼るだけではグローバル市場で競争力を維持できません。

今回は、私が20年以上の現場経験から実感している「接合メカニズムの本質」と、最新の「無接着剤接合技術」について、実践的な観点と最新動向を交えて解説します。

バイヤー志望の方、サプライヤーの方々も、これからのものづくりを担うためにぜひご一読ください。

接合メカニズムの基礎:なぜ“くっつく”のか?

物理的結合の基本:機械的嵌合と摩擦力

私たちが普段使っている「ネジ止め」「かしめ」「クリンチング」といった手法は、主に「物理的な力」で部材同士を結びつけています。

これは、部品の表面や隙間に生じる“形状によるロック”や、圧力から生まれる摩擦力を活用する方式です。

例えば、自動車業界で多用されているスポット溶接は、短時間で局所的に熱を加えて金属を一体化させる方法ですが、その実態は「材料同士を局所的に溶かし、冷やして固める」ことで機械的な一体化を実現しています。

物理的結合は高速かつ低コストで量産しやすい反面、部材の形状や材料に大きく左右されます。

化学的結合:材料分子レベルでの“つながり”

一方、「接着剤による接合」や「はんだ付け」、「ろう付け」は、材料同士が表面あるいは分子レベルで“化学的に結合”して一体化する方式です。

例えばエポキシ接着剤は、接着面の電子が共有・結合し、新たな分子構造を形成するため、加熱や荷重だけでなく、環境耐性にも強くなります。

このため、化学的結合による接合は、異種材料同士など物理的方法では難しい組み合わせにも対応できます。

ただし、接着剤やろう材自体が異物混入となるため、医療や食品向け製品・高耐久性が要求される部位では弱点になる場合もあり、管理や後処理工程が不可欠です。

融合結合:物理+化学のハイブリッド

この他、レーザー溶接やエレクトロニクス分野におけるボンディング(超音波ボンディング等)は、表面の物理的振動やエネルギーを使って材料表面を一部“溶かす”ことで、新たな接合面を作ります。

つまり「物理的な圧力や運動」+「化学的・熱的作用」により、接着材を使わずに接合するハイブリッド型です。

このような接合メカニズムを把握することが、「新たな接合技術を応用し、現場の課題を根本から解決する」第一歩となります。

なぜ“無接着剤接合”が注目されるのか?

環境規制とSDGs対応:材料削減と脱炭素

近年、RoHS、REACH規制などの化学物質規制や、カーボンニュートラルの潮流により、製造業は「使う材料の量や種類を減らすこと」「廃棄物を最小化すること」が強く求められています。

接着剤やろう材、はんだなどの“副資材”は、有機溶剤や重金属、分解困難な化学物質を含む場合も多く、グローバル完結型のサプライチェーンでは「無接着剤化」のニーズが急拡大しています。

リサイクル・リワーク性の向上

自動車部品や家電、半導体等は、設計寿命後の分解・リサイクルが必須となっており、接着剤で一体化してしまうと分別が困難で、再資源化率が低下します。

また、電子部品の修理やリワークにおいても、無接着・非溶着接合による「再開封性」「メンテナンス性の向上」が大きなメリットとして認識されるようになりました。

工程数と品質リスクの低減

接着剤の塗布や硬化工程は、ライン上で“厄介なバラツキ要因”の代表格です。

ライン速度・環境温度・塗布量などの管理コストが高く、硬化時のそりやはみ出し不良、目詰まり・固着などによるダウンタイムが発生します。

無接着剤化ができれば、工程時間短縮、ムダの最小化、そして省人化まで実現することができるのです。

無接着剤接合技術の最新動向と事例

機械的接合の新手法:セルフクリンチング & インターロック

「セルフクリンチング」は、専用工具で部品どうしを圧縮・形状変化させることで一体化する、新時代の機械的接合法です。

例えば、アルミや薄板鋼板どうしをパンチとダイで局部圧縮し、材料内部で相互の“かみ合わせ”を作り出します。

この技術は、板厚を問わず安定した強度と密着性を実現しつつ、工具一つで自動化や量産にも移行しやすいため、家電・自動車の現場で急増中です。

また、「インターロック」機構は、部品同士の形状を工夫し、押し込む/ねじ込むだけで脱落せず強固に固定できるよう設計する方式です。

金型・設計段階で工夫を凝らす必要がありますが、部品点数の削減や組立工程の大幅短縮が狙えます。

固相接合:摩擦撹拌接合(FSW)、拡散接合

摩擦撹拌接合(Friction Stir Welding:FSW)は、部材表面を高速でこすり合わせることで発熱→軟化・撹拌→強固な接合界面を創出します。

アルミ合金やマグネシウムなど熱に弱い材料同士の高剛性接合に用いられ、航空機、鉄道車両、EVバッテリーケース等の分野で急拡大しています。

拡散接合は、部材同士を加熱・加圧し、分子レベルの混じりあい(拡散現象)を利用して一体化する方法です。

高精度・高信頼性が求められるセンサ、医療用部品、半導体パッケージなどで無数の実績があります。

どちらも異種金属間や微細部品への適用も進みつつあり、接合界のイノベーションを牽引しています。

超音波・振動接合:樹脂・電子部品の脱接着化

超音波接合は、超高周波(20kHz~)の振動エネルギーを部品界面に加えることで、樹脂や金属微粒子を発熱・軟化させて接合する非化学的方式です。

プラスチック部品やワイヤー、フレキシブル基板など、熱・化学処理が困難な材料同士を高速かつ環境負荷なく一体化できるため、家電や自動車、医療器具での採用が進んでいます。

また、微細振動・熱エネルギーを利用した「熱カシメ」や「レーザーボンディング」も、今後の主流技術として研究開発が加速しています。

現場目線で考える“無接着剤化”推進のポイント

材料設計×工法設計の連携が必須

先述したように、無接着剤接合技術の多くは、部品や材料の形状・組合せ・工具設計との連携が不可欠です。

部品設計部門だけでなく、調達・サプライヤー・設備技術・生産管理といった全体最適を意識した「共創体制」の構築が、現場イノベーションには不可欠です。

材料が変われば接合方法も見直す、設計段階から工程数・自動化難易度・歩留まりリスクまで一貫評価することが求められます。

工程トータルコスト&バリューチェーンでの評価

現場では、「接着剤のコストが高いからやめる」のような短絡的判断が多いですが、工程・品質・リワーク・物流含めた全体コスト・バリューチェーンとして俯瞰することが重要です。

例えば、FSW導入で治具投資や初期立ち上げ調整が必要でも、数年単位での省人化・メンテナンス性向上・EOLリサイクル性の向上まで含めた“トータルバリュー”で評価する姿勢が、今後は勝敗を分けます。

地場サプライヤーや職人技術との共存

無接着剤技術とはいえ、昭和から続く熟練技術や地場サプライヤーの力を切り捨ててはいけません。

自動機やAIを導入する際も、現場の知見や人の勘を生かす「工程の併用」「アイディア創出」の場を設け、異質な技術どうしの統合を目指したいものです。

また、サプライヤー側も「無接着剤接合可否」「どこまで仕様要求に応えられるか」など、工法開発提案で主導権を取れる時代となります。

まとめ:接合技術の未来と、産業界へのメッセージ

接合技術は、製造業の“縁の下の力持ち”であり続けてきました。

無接着剤接合のような最新技術は、地球環境への配慮、サプライチェーンの最適化、エンジニアリングの創造性を同時に実現する大きな可能性を秘めています。

従来の「当たり前」を疑い、現場ベースで本質を見極め、省人化や自動化、「作れない理由」ではなく「できる方法」を徹底的に議論してみてください。

良いバイヤーは、サプライヤーと材料・工程の深い部分で対話できる人材です。

サプライヤーは、顧客課題に寄り添い、最新技術を武器に自社の魅力を訴求できる提案者となれます。

日本のものづくりに新たな地平線を拓く――
みなさんも、接合技術という“原点”から変革を起こしていきましょう。

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