投稿日:2025年6月30日

災害時の道路通行情報調達における重要な要素と実行戦略

はじめに:災害と製造業サプライチェーンの新常識

日本の製造業において、災害は最も深刻なリスク要因の一つです。
過去に度重なる地震、台風、水害などによって、生産がストップしたり、サプライチェーンが寸断された経験を持つ企業は少なくありません。
特に昭和~平成初期にかけての慣習が根強く残る業界では、現場による「なんとかする精神」や経験則による対応が主流でしたが、激甚災害が日常化しつつある現代ではそれだけでは立ち行きません。

災害リスクに立ち向かうためには、まず「情報」が何よりも重要です。
その中でも特に、部品や原材料、完成品の輸送に不可欠な「道路通行情報」の調達は、現代の製造業調達購買・物流戦略の根幹をなす要素です。
本記事では、現場目線かつ管理職の視点から、災害時の道路通行情報をどう調達・活用し、サプライチェーンを守るのか、実践的な知見やラテラルシンキングを交えて詳細に解説します。

災害時の道路通行情報がなぜ製造業調達に直結するのか

サプライチェーン分断の引き金は「道路」から始まる

製造業の多くは自社工場だけではなく、多数の拠点間物流、協力工場、仕入先、最終納品先をつなぐ複雑なサプライチェーンを築いています。

普段は当たり前に使える幹線道路や高速道路も、災害発生時には一瞬で「通らない道路」になってしまいます。
道路通行止め情報の入手が遅れると、次のような重大なリスクを被ります。

– トラック輸送が想定通り実施できず、材料や部品が工場に届かず生産ラインが止まる
– 完成品が出荷できず、納期遅延による取引信用の低下や損害賠償問題に発展
– サプライヤー(外注先)が被災地内にあり、稼働状況の確認や支援判断が遅れる

これらはいずれも道路通行情報=「物流動線の可否判断情報」がカギになっている事実を示しています。

情報の遅れが意思決定ミスを招く

災害対応で最も危険なのが、「なんとかなるだろう」という希望的観測や、現場との連携不足による情報遅延です。
高速道路が封鎖された事実を1~2時間後に知ったのでは、代替調達や新たな輸送手配を迅速に開始できません。
情報の早期取得と、その正確性によって意思決定の質が大きく分かれます。
「情報調達は最大の備え」であることを、私たち現場管理者も強く肝に銘じる必要があります。

災害時の道路通行情報調達の3つの重要要素

1. リアルタイム性:最新情報の重要性

災害時には、道路状況が瞬時に変化します。
数分前まで通行可能だった道が、突如として寸断されたり逆に仮復旧したりします。

従来、警察や自治体のWebサイト、道路管理者(NEXCO等)の発表に頼っていた道路情報も、現代ではSNSやライブカメラ、営業車両からの現場レポートなど複数経路のリアルタイム情報が活用可能です。
これらの新たな情報源を使いこなすことで、遅延のない意思決定が可能となります。

2. 正確性・信頼性:偽情報、誤情報の排除

災害時は誤った情報や古い情報が混在します。
SNSで流れてくる写真や投稿、ニュース速報でも「一部開通」の範囲や「全面通行止め」の持続時間など、詳細が曖昧だったり誤解を生むケースが少なくありません。

こうした中で必要なのは、複数情報源のクロスチェックと自社ネットワークの活用です。
例えば、自社営業車や物流協力会社のドライバーから「現地最新状況」を直接電話や専用チャットで入手し、公式情報と突き合わせて判断することが有効です。
さらに、地域の商工会や大手取引先との情報共有グループを作ることで、公式発表前の現地情報にアクセスできる場合も多々あります。

3. 情報の即時共有体制:社内外の連絡網強化

いくら独自に道路通行情報を得ても、それがサプライチェーン全体にスムーズに伝わらなければ意味がありません。
特にミドルマネジメント層や拠点間の垣根を越えた「即時共有」が求められます。

次のようなツールや運用ルールの構築がポイントとなります。

– 重要な道路状況は、本社調達部門から各拠点・現場担当者にプッシュ型で一斉配信
– 現場担当者も写真・現場の声を簡単にアップできる専用グループチャットの導入
– 定期的な災害時コミュニケーナ(役割分担)とシミュレーション訓練の実施

情報の「鮮度」と「再現性」を組織文化として定着させることが、最終的な競争力に直結します。

実践的な道路通行情報調達方法と活用戦略

公式情報+現場レポートの「ハイブリッド情報調達」

従来のNEXCOや交通情報(日本道路交通情報センターJARTIC等)だけでは、「本当にこの道は通れるのか?」「トラックの車幅分だけ路面が冠水、避け道はあるのか?」といった詳細には対応できません。

そこでおすすめは、「公式情報+現場レポート」のハイブリッド調達です。
例えば以下のような多層的アプローチが有効です。

– 公式:NEXCO/国交省・自治体の通行止め情報を基盤として併用
– 準公式:各運送会社の運行情報Webや主要荷主の特設ページ(災害時の独自情報あり)
– 現場:グループ内他工場や協力会社、サプライヤー現地社員からの電話・チャットレポート
– SNS活用:X(旧Twitter)、Facebook、LINEオープンチャット等から現地のピンポイント投稿を確認
– ドライブレコーダー映像やライブカメラ映像の参照

このように多角的に収集した上で、「最新版・最高精度」の情報から逆算して調達計画を組み立てましょう。

重要路線の優先順位付けとマルチルート戦略

平時から必ず抑えておくべきは「自工場・サプライヤー・顧客を結ぶ重要路線」のピックアップです。
どの道路が止まるとどの部品や工程に支障が出るのか、サプライヤーごと・製品ごとに地図で可視化しておくことは必須です。

さらに、主要路線が封鎖された場合に迂回できる「サブルート情報」やトラック以外の小型車、中継輸送、最寄り倉庫からのピッキング・配送リレーなど「普段と異なる物流ルート=マルチルート戦略」を事前検討しましょう。

社内・取引先を巻き込むリアルタイム共有体制の構築

災害時は一部の担当者だけで意思決定するのではなく、調達、品質、生産、営業、物流、関係工場、外注先まで含めた「ワンチーム」の即時情報共有が不可欠です。

– 社内チャットやTeams/Slackグループに「災害情報速報」チャンネルを設置
– 総務やBCP担当が公式情報をまとめ、現地社員が写真や速報を投稿、重要度に応じてタグ付け
– 定期的な訓練と事後レビューで、情報伝達・エスカレーションの精度向上を図る

また、大口取引先や協力会社とも「災害時はこのチャンネルで即時情報共有」と取り決め、現地で得た生情報を相互に流す体制を作りましょう。
これにより、「自社だけが情報を知っている」のではなく、「業界一丸となって危機を乗り切る」強力なネットワークが大きな武器となります。

昭和型アナログ文化と「現場の知恵」の活かし方

アナログ現場の強さも見直すべき

デジタル化による一元管理は時代の要請ですが、一方で「現場の知恵=地域ネットワーク」「行動力」はアナログ現場の最大の武器です。

– 「あそこの川が増水すると裏道が通れなくなる」「この橋が渡れない時は休耕田の農道が使える」など、地元社員やベテランドライバーのローカル知見
– 隣町の知人への電話確認や地元消防団、地域の建設業者経由の生きた情報
– 危険時の「足」での目視確認や、身近な人的ネットワーク総動員

こうした「アナログ情報」も、現代のデジタル基盤に組み込めば最強のBCP武器となります。
マニュアルに頼るだけではなく、_ほんものの現場感覚_と「人脈パワー」を活かせる体制づくりが重要です。

サプライヤー/バイヤー/現場全員が身につけるべき思考法と視点

バイヤー(調達・購買担当者)の視点

調達担当者は、ただ見積依頼や発注処理をするだけでなく、サプライチェーンの「血管」をどこまで理解できているかが重要です。

– 主要サプライヤーの工場・倉庫立地、アクセス道路、災害時の迂回路まで棚卸
– 外注先や下請けの現地事情、操業可能性、復旧力、人的ネットワークの強さを把握
– 災害発生時の迅速な連絡体制、物資・人材支援ルートの確認

どんなにデジタル化が進んでも、_「現地をイメージできるリアルな想像力」_を持つことが、危機時には大きな違いを生みます。

サプライヤー側の視点(バイヤー心を読む)

サプライヤーは、「バイヤーがどこを気にしているか」を先回りして理解することが信頼獲得の近道です。

– 納品ルートの代替案や復旧シナリオを自主的に提案
– 公式情報+現地の最新道路状況をセットでレポートし、納期の見通しを即時連絡
– バイヤーへの「心配の芽」に気付き、先手で情報を発信する習慣をつける

「自分たちの情報発信がバイヤーの助けになる」という意識こそが、災害に強いアライアンスへの第一歩です。

現場社員・オペレーターの「主役意識」

工場現場や配送現場の社員こそ、情報戦のヒーローです。
「現場の声」と「現場情報」が会社を守る。
自分の5分の現地レポートが会社の命運を分ける、そんな主役意識を持つことが大切です。

まとめ:災害に強い工場と現場、これからの到達点

日本の製造業は、これまで幾多の災害と戦い抜いてきました。
今や「災害時の道路通行情報」は、単なるトラブル情報ではなく、サプライチェーン維持のための最重要資産です。

情報の素早い入手、多層的な情報源の活用、そして全員が一丸となった情報共有体制の構築。
加えて、現場の知恵、人的ネットワーク、アナログ文化の強さと最新デジタルの融合。
これこそが、激変する時代を生き抜く新しい調達・購買・現場力なのです。

今こそ、過去の教訓を生かし、「情報戦」の先頭に立つ。
読者の皆様の現場が、災害に負けない強いサプライチェーンを築くことを心より願っています。

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