投稿日:2025年9月9日

OEM商品の知的財産権と契約で注意すべき実務ポイント

はじめに

OEM(Original Equipment Manufacturer)取引が盛んな製造業界において、今や知的財産権の取り扱いと契約時のリスクマネジメントは、事業の成否を大きく左右する最重要課題の一つです。

古くからの慣習が色濃く残るアナログな製造業現場では、つい「相手先との信頼関係」を優先し、詳細な契約や知財の取り決めを甘く見がちな風潮もあります。

しかし、昨今では突然の技術流出や模倣品の横行、海外展開時のトラブルなど、知財の不備が事業全体を揺るがすケースが後を絶ちません。

本記事では、製造業の現場で20年以上の実務経験を持つ筆者が、OEM商品の知的財産権を巡る実態や契約で押さえるべき具体的なポイントを、現場目線かつバイヤー・サプライヤー双方の視点も交えて徹底解説します。

OEMにおける知的財産権とは何か?

OEMと知財の関係性

OEM取引とは、発注元(バイヤー)が自社ブランド商品をサプライヤー(受託製造会社)に製造委託するビジネスモデルです。

商品の設計・意匠・部品仕様・組立手順など、さまざまな「ものづくり」の権利が関与します。

ここでいう知的財産権には、主に以下の種類があります。

– 特許権(発明の保護)
– 実用新案権(考案された有用な形状等の保護)
– 意匠権(デザイン・形状の保護)
– 商標権(ブランド名・ロゴマークの保護)
– 著作権(設計図やマニュアルなど)

OEMビジネスでは、それぞれの権利の“帰属(誰のものか)”と“使用範囲(どこまで使って良いのか)”が肝になります。

アナログ現場での「暗黙の了解」は通用しない

昭和時代から続く「これまでもやってきたから」式の曖昧な契約や、「暗黙の了解」はデジタル化が進む現代のグローバル市場では全く通用しません。

例えば、発注元の設計情報や図面をサプライヤーが加工する現場でも、契約条項が不十分だと以下のようなリスクが発生します。

– サプライヤーが他社へノウハウ流用
– 意匠を勝手に再利用される
– 退職者が設計図を持ち出し模倣品を生産
– 「うちの技術だ」と言い張られる

トラブルや訴訟は、知財の契約で曖昧な点があった瞬間に発生します。

契約で“絶対に”注意するべき実務ポイント

1. 権利帰属と使用範囲を明確化する

最初に押さえるべきは、「どの知的財産権が、誰に帰属するのか?」の明示です。

FA機器の設計や自動車部品、電子機器など多様な製造シーンでは、発注元とサプライヤーが共同で技術開発する場面もしばしばです。

このとき、以下の点を契約書で明文化することが重要です。

– 仮にサプライヤーが設計貢献した場合も、成果物の知財権はバイヤー帰属か、共有とするのか
– 受託製造に用いた技術やノウハウを、サプライヤーが他社案件に再利用可能かどうか
– バイヤー側から提供されたデータや図面等の二次利用・転用禁止ルールの明記

単なる「成果物は全て発注元のもの」といった一文では足りません。

設計、金型、工程仕様書など分野ごとに権利帰属や使用範囲を細かく設け、「例外なし」を徹底しましょう。

2. 秘密保持(NDA)だけでは不十分

最近では、「とりあえずNDA(秘密保持契約)」を締結し、事足れりとするケースが目立ちます。

しかし、NDAはあくまで「秘密情報の漏洩禁止」をうたったものであり、知財流用や成果物そのものの帰属には踏み込みません。

OEM契約には必ず、以下をセットで盛り込むべきです。

– 秘密保持条項(NDA)
– 知財権の帰属・使用範囲の明文化
– 成果物の流用・模倣防止条項

現場感覚では、NDA締結後にも追加で技術情報が行き交うことが多いため、契約書と連動しつつ情報管理プロセスを現場レベルで徹底させることも重要です。

3. 下請け(サブサプライヤー)の管理も盲点

現場では「うちはサプライヤーにしか発注していない」と考えがちですが、実際には一次サプライヤーがさらに二次・三次下請けに業務を委託しているのが一般的です。

多層化した下請け構造の中で情報が漏れると、模倣リスクやブランド毀損に直結します。

契約に、以下の管理策を盛り込むことが実務では有効です。

– 下請け委託時の事前承諾義務
– 下請け先とのNDA/知財義務の“連鎖”適用
– 工場見学・監査権限の取り決め

現場へのヒアリングや抜き打ち監査など地道な運用も、昭和型管理からの脱却に必須です。

4. 開発段階別、情報の取り扱いルール策定

「どの段階までを共同検討とし、どこから先は自社独自の権利とするか」など、プロジェクト工程ごとに情報区分を整理しましょう。

例えば…

– 初期コンセプト: 共同出資・共同知財の扱いとする
– 詳細設計以降: 発注元独自ノウハウ部分は、バイヤー単独権利とし流用不可

こうした“線引き”が現場レベルで曖昧だと、「後で揉める」原因となります。

プロジェクトに応じて、段階別の知財権制御ルールと契約を連結させます。

5. トラブル時の対応条項(クレーム・訴訟含む)

OEM取引では、突如「知財侵害だ」「模倣品が出回った」等のクレームや訴訟が発生する場合も想定しなければなりません。

契約には、少なくとも以下を必須で含めます。

– 知財侵害発覚時の協議・対応フロー
– 損害賠償責任の範囲・限度
– 意匠・商標権など模倣品対策の役割分担(誰が訴訟・行政交渉を主導するか)

また、必要に応じて弁護士・知財専門家による監修・レビューを実施しましょう。

バイヤー・サプライヤー双方が知っておくべき現場実務のリアル

バイヤー側が陥りがちな盲点

バイヤーは「リードタイム短縮」や「コスト低減」に注力するあまり、知財リスク管理が後回しになりがちです。

– タイトな納期やコストダウンと引き換えに“相手任せ”になり、肝心の契約や知財の詰めが弱くなる
– 「安心できる老舗だから大丈夫」と思い込みやすい

また、「共同開発だから権利も当然自社単独」と誤認しやすいため、契約書で1つずつ潰していく慎重さが求められます。

サプライヤー側が理解すべきバイヤー思考

発注元バイヤーは「品質・納期・コスト」だけでなく、「将来の自社ビジネスの保護」に強い関心があります。

– 技術や設計情報が流出することによる自ブランドの価値毀損
– サプライヤーが独自取引先と類似品を作ってしまうリスク

契約書レビューだけでなく、「なぜこれほど知財を気にするのか」背景を理解し、実態に見合う誠実な対応をすることで、長期的な信頼や追加発注にもつながるのです。

昭和時代型“御用聞き”からの脱却

「御用聞き」のようにバイヤーのリクエストに従うだけの存在は、今後生き残れません。

サプライヤー自ら、

– 知財リスクを理解し、管理体制を整備(案件管理・情報管理のルール化)
– 必要なら自社開発ノウハウを積極的に特許化・意匠権取得
– “単なる下請け”を超えたパートナーシップを提案

といった主体的アプローチを取れば、バイヤー側からも「頼れる技術パートナー」と評価され、事業基盤の強化に直結します。

契約書雛形・実運用の注意点

知財・OEM契約条項の雛形例

契約書の実務では、テンプレート(雛形)をベースにしつつも、案件ごとにカスタマイズが必要です。

【例: 権利帰属関連条項(抜粋)】
本OEM商品の設計・意匠・機構その他本件取引に関する一切の知的財産権は、発注元に帰属するものとする。

受託者が独自に開発した技術・ノウハウのうち、発注元商品の製造に使用するものについては、受託者は当該商品の製造・納入以外の目的で利用してはならない。

【例: 秘密保持関連条項(抜粋)】
受託者は発注元から提供される全ての設計情報、図面、仕様書を第三者に漏洩してはならない。

契約終了後も、同様の義務を継続する。

「雛形コピペ」では危険!現場ごとのカスタマイズ重要

– 短納期・多品種対応のプロジェクト
– 部品供給のサプライチェーン多層構造案件
– 社外から設計者をアサインする場合

といった現場ごとの特殊事情を必ず反映してください。

現場の購買・品質・生産・技術部門まで巻き込んだクロスファンクショナルな検討が、令和の製造現場では不可欠です。

まとめ:新しい「地平線」へ―製造現場が生き残るための知財リテラシー

OEM商品の知的財産権と契約管理は、知識による武装だけでなく、“現場で運用されてこそ”本当の意味を持ちます。

昭和的な「信頼」や「付き合い」だけに頼り切っては、激変する業界環境では大きなリスクを抱えることになります。

現場に根差した知財リテラシーと契約運用を徹底し、バイヤー・サプライヤー双方が“自分ごと”としてリスクと成長機会をコントロールしていくことが、これからの製造業に求められています。

一歩踏み出し、知財戦略の“新しい地平線”を切り拓いていきましょう。

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