投稿日:2025年10月23日

店舗の味をパッケージに込めるためのデザインとストーリー作りの心得

はじめに:店舗の味をそのまま届ける時代へ

デジタル化やECサイトの進展、そして昨今のコロナ禍で、食品業界や飲食店のビジネスモデルは大きく変化しました。

今や店舗の味をそのままパッケージに込め、「お店の味」を家庭で楽しんでもらう商品が次々に生まれています。

しかし、ただレシピを再現するだけでは、本当の意味で「店舗の味」を伝えることはできません。

パッケージに店舗のこだわりや雰囲気をどう込めるか――。

そこが、味の再現を超えて商品が選ばれるための極めて重要なポイントです。

この記事では、20年以上製造業の現場で商品化や生産管理、品質保証に携わってきた立場から、店舗の味をパッケージで表現するために必要な「デザイン」と「ストーリー作り」の心得を、現場感覚で深掘りします。

パッケージデザインが「味」を再現する理由

デザインは五感に訴える最初の武器

消費者が店舗の味を感じる瞬間は、何も口に運んだ時だけではありません。

パッケージデザインから伝わる色、質感、形状が「期待感」や「食欲」に直結します。

例えば老舗和菓子店の商品なら、和紙や金箔押しのような素材、落ち着いたフォントが「伝統」を印象づけ、味わう前から価値を高めます。

反対に、ポップでカラフルなデザインや大胆な写真使いは、若年層向け店舗や話題のスイーツの世界観を即座に伝えます。

現場感覚で言えば、「どんな工場ラインでも、一瞬で“らしさ”を伝えるパッケージ設計こそが売上拡大の原動力」です。

店舗体験の“再現性”が求められる理由

飲食店舗に足を運ぶ醍醐味とは、単なる「味」だけでなく「雰囲気」や「サービス」も含めた「体験価値」にあります。

パッケージ商品で店舗体験を再現するためには、「味」「香り」「見た目」の三要素をいかに高いレベルでまとめられるかが肝心です。

たとえば有名ラーメン店で使われる「丼の模様」をパッケージに取り入れたり、味の解説や歴史をストーリーとして商品の外箱や冊子に添えるなど、「店舗限定の体験」を生活者に感じてもらう工夫が必要です。

ストーリー作りの核心:なぜ「物語」は味を引き立てるのか

人は「背景」を食べる――物語の付加価値の重要性

現場に携わる調達やバイヤーが常に意識すべきなのは、「ストーリー=商品そのものの価値」であるという考え方です。

誰が、どこで、どんな思いで作ったのか。どんな悩みの末にこの味や商品設計にたどり着いたのか。こうした物語は、単なる事実以上の力を持ちます。

例えば「駅前の行列ラーメン店」が「店主秘伝の醤油ダレと3日煮込むスープ」をパッケージにどう表現するか。

味そのものを再現するレシピと同時に、その「秘伝」や「長年の苦労」、「人気の秘密」をしっかりと伝えるストーリーが欠かせません。

消費者は、「おいしそう」だけでなく「ぜひ体験してみたい」と思えるモチベーションを持って商品を手に取ります。

昭和から抜け出せない“アナログ業界”ならではのリアルな物語

特に昭和的な伝統やアナログな現場が今も根強い食品業界では、その“泥臭い”現場のリアリティ自体が、逆に商品ストーリーの強力な「差別化要素」になります。

生産現場での手仕事へのこだわり、修理を重ねた古い機械を手入れする技術者の眼差し、親子三代で守られる製造法――。

こうした一見地味な現場の物語こそが、チェーン展開や大量生産品には到底真似できない「本物感」となり、店舗の世界観を家庭に持ち帰る強力な武器になります。

バイヤー・サプライヤーの視点から考えるパッケージとストーリー作り

調達・購買担当者の眼:どういう商品が選ばれるのか

調達購買担当としては、「ただ製品が良ければ仕入れる」のではなく、その商品がもたらす「話題性」「売場での映え」「ファンマーケティングの可能性」をシビアに見ています。

店舗の味を再現した商品であればこそ、他社とは違うポイント(技術や作り手、歴史背景など)を的確に“語れるか”で仕入の判断が変わります。

また、流通現場の効率性では、「パッケージサイズの適正化」「物流や保管での耐久性」「開封時のワクワク感」といった現場ならではの細かな要素も無視できません。

ここを理解した上でのデザイン・ストーリー設計が、バイヤーから選ばれる鍵になります。

サプライヤー視点:自社技術・現場力を魅力的に伝えるコツ

一方、サプライヤーが店舗ブランドと協業する際、自社の製造技術や現場ノウハウを「商品価値」にどう組み込むかは、今後ますます重要です。

たとえば「小ロット多品種対応」「店舗独自素材の調達力」「高度な品質管理体制」といった現場の強みをパッケージ側面やウェブページでアピールすると、リピート発注や新規提案の説得力につながります。

現場を守る工場長や管理職ほど、積み重ねてきた「困難克服のドラマ」や「品質への妥協なきこだわり」を、経営側と二人三脚で企画段階から共有することが結果的に売り上げアップを生み出します。

現場で押さえておきたい実践ポイント

①パッケージ開発時は「現場同行」を推奨

優れたパッケージ企画には、最低1回は実際の店舗や工場の現場を見学した上で、スタッフや職人の声に直接耳を傾けることが重要です。

現場独自の用語、空気感、ものづくりへの矜持など、机上の議論だけでは絶対に表現しきれません。

②消費者だけでなく「取り扱う人」の気持ちを設計する

工場や物流、販売店スタッフが「誇りを持って取り扱えるか」も、実は消費者の最終評価につながります。

「扱いやすい」「品質変動が少ない」「クレームが起きにくい」設計を目指しましょう。

その配慮こそが、現場出身者ならではのセールスポイントです。

③“体験型”パッケージ開発へのチャレンジ

最近では「開封時に香りが広がる」「手で簡単に盛付けできる」「実店舗の器の形状を再現した容器」など、買った瞬間から食卓で“店舗体験”が始まる仕掛けが登場しています。

技術や設備的に難しいこともあるかもしれませんが、ここでラテラルシンキング=新たな発想に挑戦できるか否かがヒット商品を生み出す分岐点になります。

まとめ:現場から発信する「店舗の味」の新たなパッケージ戦略

店舗の味をパッケージへと昇華するには、レシピや素材の再現を超え、現場の「こだわり」や「物語」「現場感」をどう五感で表現できるかが何よりも大切です。

デザインとストーリーは単なる“飾り”や“流行”ではありません。

それぞれが現場のリアルなドラマを纏い、バイヤーや調達担当、さらには販売スタッフの「惚れ込み」を生み、最終的に生活者の“心を動かす”力となります。

昭和から続く企業やアナログなメーカーの皆様も、現場の厚みや苦労をむしろ最大の魅力として、教訓や価値を積極的に発信しましょう。

この記事が、商品開発現場、バイヤー志望の方、サプライヤーの皆様、それぞれの視点でのヒントとなれば幸いです。

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