投稿日:2025年6月20日

機器システム操作性向上のポイントとユーザビリティ評価法

はじめに:製造業における機器システムの操作性の重要性

日本の製造業は、長らく現場力と匠の技術を武器に世界を牽引してきました。
しかしグローバル競争が激化し、生産性や品質、スピードが徹底的に求められる中、製造現場のアナログ的な慣習や紙主義、属人化が大きな課題となっています。
特に、調達・購買、生産管理、品質管理、そして工場の自動化においては、多様な機器システムが導入されつつありますが、現場定着や効果発現のための「操作性向上」や「ユーザビリティ評価」が置き去りにされがちです。

実際に現場で働く私達にとって、「便利なはずの新システムがかえって手間を増やした」「複雑すぎてベテランも新人も困惑している」といった悩みは枚挙にいとまがありません。
この問題を乗り越えるためには、単に機能を追加するだけではなく、現場目線・ユーザー目線での操作性向上、そして客観的なユーザビリティ評価が不可欠です。

本記事では、長年製造業現場で働いてきた実経験をもとに、機器システムの操作性を高めるための実践的ポイント、そしてユーザビリティ評価の具体的手法をわかりやすく解説します。
今アナログからデジタルへの過渡期を迎える日本の製造業において、現場オペレーター、バイヤー、システム導入担当者、そしてサプライヤーの皆様にも役立つ視点を提供します。

なぜ今「操作性・ユーザビリティ」が重要なのか

DX推進と現場のリアルギャップ

今や、製造業においても「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が急務となっています。
とはいえ、単なるデータ化や自動化では意味がありません。
現場スタッフが本当に「使いやすい」と感じ、日々の業務の中で自然に活用できることが成否を分けます。

例えば、調達購買システムに新たなワークフロー管理機能を追加しても、手順が煩雑だったり、慣れている紙ベースよりも手間と感じれば使われません。
長年の習慣や現場の勘が色濃く残るアナログ業界でこそ、「ユーザー目線」を徹底する必要があります。

属人化・ベテラン依存のリスク回避

操作性が優れていなければ、操作マニュアルを読破しないと使えない「マニアックな機械」や「ベテランの頭の中にしかない運用手順」が温存されます。
これでは、世代交代や多能工化が阻まれ、人材の流動性向上や生産性向上につながりません。

トラブル・品質事故防止

操作性が悪いシステムは誤操作トラブルや入力ミスを招き、最悪の場合は品質事故や納期遅延、大きな損失につながります。
誰もが「迷わず」正しい操作ができ、異常時もきちんとアラートされる仕組みこそ、これからの製造現場には欠かせません。

機器システム操作性向上のための4つのアプローチ

1. ユーザビリティ設計の基本を徹底する

機器システムの操作性、すなわちユーザビリティ向上の第一歩は「ユーザーが誰か」を特定し、現場での利用シーンを想定した設計を貫くことです。

例えば、調達購買システムならバイヤーがメインユーザーですが、関連部門担当(技術、製造、品質)の視点も忘れてはいけません。
現場で実際に操作する担当者のレベル感(年齢層、ITスキル、経験値)も配慮します。

現場での運用フローや既存プロセスを観察分析し、次のポイントを押さえます。

・作業手順は直感的に理解できるか
・現場が従来使っていた帳票や画面レイアウトに近いか
・入力項目や確認事項はムダなく整理されているか
・頻繁に使う機能は目立つ場所にボタン配置されているか
・誤操作防止のための警告や確認画面がきちんと設けられているか

こうした「当たり前のこと」を徹底的に詰めることが、実は一番重要です。

2. ベテランのノウハウをデジタルに落とし込む

昭和的な現場には、ベテラン熟練者の“勘どころ”や“やり方”がたくさんあります。
新たな機器システムを導入する際は、彼らのノウハウを吸い上げ、システム上で再現できるよう設計することが失敗しないコツです。

例えば枚数確認や目視チェックなどの紙運用が完全に消え去るわけではありません。
そこで、チェックリスト機能や自動判定アシスト、コメント入力やアラート表示が加わることで、熟練者の知恵を「標準化」できるのです。

逆に、そうした配慮を怠ると、システム化しながら“新人には使いこなせない”“ベテラン以外は把握できない”という属人化の落とし穴に陥ってしまいます。

3. 教育・定着までを含めた「現場支援型」設計

新しいシステムをただ導入しても、現場はすんなり使いこなせません。
「操作マニュアルがあります」だけではなく、現場への教育展開や現場OJT、クイックリファレンス(簡易手順書)や動画マニュアル、現場での困りごと対応窓口などまでセットで検討しましょう。

また、現場の声に耳を傾け「言いにくいこと」「分かりにくいこと」を拾い出し、継続的な改善サイクルまで設計することで、段階的な定着が期待できます。
実際の現場では、「画面の色使い」「ボタンのラベル」「アラート表示方法」「書式の見やすさ」といった細部が、現場のストレス・操作ミス防止に関わります。

4. “脱アナログ”の急進化より“現場足場”を固める

よくありがちな誤解として、「全部デジタル化」「人の手作業排除」といった極端なゴール設定があります。
ですが、現場からすると「一斉切替&大変動」は混乱を生みます。
本当に効果を上げるためには、一部アナログ運用の良さを活かしつつ、徐々にシステム化範囲を拡大していくことが重要です。

現実的には「一部工程は紙運用併用」「現場チェック欄は自由記入もOK」といった暫定運用ステップを設けることで、現場の不安や抵抗感を最小限に抑えて定着させることができます。

ユーザビリティ評価法:現場で使える実践テクニック

1. 現場観察・シャドーイング

システム設計段階や改善フェーズにおいて、現場従事者の作業実態を「横で見て、声をかけながら観察」するシャドーイングは非常に有効です。
現場スタッフがどこでつまずくのか、どのステップで手が止まるのか、リアルな課題を抽出できます。

単なる操作デモンストレーションだけでなく、実業務中の“ながら作業”や“いつもの手順”を観察することで、真の問題点や改善ニーズを把握できます。

2. ユーザーテストの設計と実施

実際の現場担当者に“お題”や“ユースケース”を与えた状態で操作してもらい、どのくらい迷わずこなせるか、どんな点で質問が多いかをチェックします。
定量的な指標(一連作業時間、エラー発生回数、やり直し回数など)と、定性的な声(操作に対する印象、抵抗感など)両方を組み合わせて評価します。

ポイントは、現場の多様なメンバー(若手、新人、年配者、派遣スタッフなど)を対象とし、「全員がミスなく使えるか?」という視点を徹底することです。

3. アンケート・ヒアリングによる定期評価

システム運用後も定期的にユーザーアンケートやヒアリングを実施し、新たな不満点や改善要望を吸い上げましょう。
たとえば「どこがわかりにくかったか」「どんな機能がほしいか」など、現場の生の声をフィードバックに活用します。

また、メーカーやサプライヤーにとっては、このヒアリング結果をバイヤーへ報告し、一歩進んだ提案や価値創出に活かすこともできます。

4. ログ解析やエラー分析を活用する

メンテナンス機器や生産管理システムでは、操作ログやエラーログを自動収集することも一般的です。
ログデータから「どの画面の利用頻度が高いか」「どのステップでエラーや異常入力が多発しているか」などを分析し、ピンポイントで改善策を講じることができます。

現場でよく見落とされがちですが、ログ分析はIT担当者のみならず現場の管理職やリーダーが定期的に確認し、現場支援の観点で議論する機会を作ることをおすすめします。

バイヤー・サプライヤーの間で生まれる「操作性」への価値観ギャップ

バイヤーは「現場の困りごとを減らしたい」「属人化リスクやミスをゼロにしたい」という思いが強い一方で、サプライヤー側は「高機能・先進性こそ価値」と設計しがちです。
このギャップはしばしば、納入後の「期待外れ」や「使えない」といった評価につながります。

バイヤーは、導入前評価段階から「誰が使うのか」「実作業で守られるべき運用フローは何か」を明確に示し、サプライヤーも「ユーザビリティ検証」「現地現物での暫定運用」の機会を積極的に提案することが、今後より一層求められます。

現場目線での操作性向上の成功事例

ある大手自動車部品メーカーでは、工程管理システムの刷新時に「現場スタッフ100名インタビュー」「日報紙帳票のデジタル再現」「画面サンプルの現場投票」などの徹底した現場巻き込み策を取ったことで、紙運用から無理なくデジタル化に成功しました。

また、サプライヤー主導で、新旧併用プロセスを許容し、一歩一歩段階を踏むことで現場の心理的抵抗を大幅に抑制できたケースもあります。
このように、現場目線の設計・評価の積み重ねは、結局は「人」が安心して技術変革を受け入れ、現場の生産性を飛躍的に高める原動力となります。

さいごに:ラテラルシンキングで“現場と未来”をつなぐ

製造業の機器システム刷新において、形式的なDXや部分最適では勝ち残れません。
ラテラルシンキング、つまり“横断的・多角的な発想”を活かし、「現場慣習の良さ」と「ITの革新性」「人の知恵」と「自動化技術」の橋渡しを意識すること。
そして、現場スタッフが無理なく跳躍できる“操作性の階段”を作り上げていくことが、企業の持続的なパフォーマンス向上につながります。

機器システムの操作性、ユーザビリティは「技術」だけではなく「現場の働き方そのもの」を変革する起点です。
製造業の発展、人材の成長、ひいては日本の競争力強化の基盤として、今こそ“現場起点の実践的ユーザビリティ”に着目して一歩踏み出しましょう。

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