投稿日:2025年6月6日

日系航空会社向け商材調達と事業連携のポイント

はじめに

日系航空会社向けに商材を調達し、さらには事業連携を行う際には、他業界とは一線を画す独自の要素や商習慣、業界特有の課題が存在します。

この記事では、製造業の現場で培った20年超の知見をもとに、現場目線のリアルな課題感や実践ノウハウを交えて、日系航空会社向け商材調達と事業連携のポイントを深掘りします。

また、バイヤーを目指す方やサプライヤーとして航空会社の考え方を知りたい方にとっても、有益な内容となるよう、業界のアナログ体質や最新トレンドも交えながら解説します。

日系航空会社の調達環境の特徴

高い安全意識と遵法精神が根底に

航空業界は、あらゆる製造業の中でも特に「安全性」への要求水準が高い業界です。

航空会社は一つひとつの部品や資材、サービス調達に際して、徹底したリスク管理の考え方に基づき、実績・信頼・法令遵守・証明書類などを強く求めます。

特に日系大手航空会社は、品質・納期・コストの三位一体の要求が厳格です。

各種規格(例えば航空法、JIS、ISO9100シリーズ、FAA/EASA認証等)や、製造履歴の追跡性、文書・記録管理など、一般的な製造業以上に慎重な評価がされます。

取引開始までのハードルの高さ

新規取引やサプライヤーとなるためには、単なる商品力や価格競争力のアピールのみでは不十分です。

多層的な審査プロセス、各種監査や現地立会い、納入後の実績データ提出義務、「何を・なぜ・どうやって」供給できるかというロジック構築が求められるため、“小手先の営業手法”は通用しません。

また、航空会社側の調達部門と現場部門(整備部門、工場、技術管理など)の力関係と調整も複雑化しているため、社内外のキーパーソンとの丁寧な関係構築や根回し力が極めて重要になるのです。

グローバル競争と日系特有の商習慣

航空機材や消耗品はグローバルに競争されています。
海外サプライヤーとの競争において、日系航空会社には“品質第一主義”“顔の見える商談”、長期取引志向、“ストックレス(適時納入)”型の納品形態、現場へのこまやかな対応力が依然として重視されています。

一方でコストダウン圧力やデジタル化の波も押し寄せており、旧来のアナログ主義と新しい挑戦とのせめぎ合いが現場で続いています。

商材調達の実践ポイント

1. 品質・安全保証体制の構築

どんなにコストや納期条件が良くとも、品質を証明できなければ調達の舞台に立てません。
航空会社は“失敗が許されない”という前提で製品・サービスを選定します。

サプライヤー側は、部品トレーサビリティ(いつ、どこで、誰が、どのように作ったか)の証明書類、検査成績書、第三者機関の認証書、変更履歴管理、事故・クレーム発生時の迅速なフィードバック体制といった「見える化支援」が必須となります。

また、万が一の不具合時には“隠す”“寝かせる”ではなく、積極的に事実開示と対策報告を行う姿勢が信頼醸成に直結します。

2. 現場ニーズへの深い理解

部品調達において、単に“スペックどおり”の製品を供給するだけで顧客満足が得られるわけではありません。

航空整備現場やオペレーション担当者との定期的なコミュニケーションを意識し、「実際に使われているシーン」「交換作業や点検フロー」など複眼的な視点から商材提案やドキュメント整備を進めることが鍵です。

トラブル時も、「なぜその仕様が求められているのか」「現場でどこが困っているのか」という本質課題を粘り強く引き出す力が強みとなります。

3. 継続的なコスト・納期改善活動

航空会社も“調達改革”の一環として外資系企業の購買手法やトータルコストダウン施策(ロジスティクス最適化、間接材のアウトソーシング、調達プロセスの合理化等)を積極的に導入しています。

サプライヤー側にとっては、「単年度ごとの見積もり競争」だけでなく、「3年後には5%コストダウン可能な理由・ロードマップ」を示す中長期の改善提案が非常に評価されるポイントです。

納期遵守率やサプライチェーンを途絶させないためのバックアップ体制、万一の運休・機材繰り変更などにも柔軟に応じる“究極の納期対応力”が問われます。

4. 情報開示・アナログ対応とのバランス

製造業の多くはデジタル化の波にさらされつつありますが、こと日系航空会社の調達部門では紙文化、はんこ文化、FAX文化が根強く残っています。

電子入札やオンライン発注が増えつつあるものの、現実には“現場で会う”“膝詰めで会話する”信頼関係が極めて重要です。

この「アナログな泥臭さ」と「デジタル効率化」を場面×相手によって柔軟に切り替えできるサプライヤーが、長期的なパートナーとして選ばれやすい傾向です。

事業連携を成功させるための着眼点

オープンイノベーション推進への変化

かつては“内製主義”の強かった日系航空会社も近年では外部パートナーとの連携やオープンイノベーションを模索し始めています。

MRO(整備・修理・オーバーホール)の外部委託、ITインフラやIOTソリューションの導入、燃費改善やカーボンニュートラル対応技術など、事業連携のフィールドが拡大しています。

サプライヤー側は“売り込み”だけでなく、「航空会社の未来を共に創る」という協創型提案が強く求められる時代です。

現場ファーストの連携体制

事業連携はトップ同士の握手で始まりがちですが、現場レベルでプロジェクト推進力がなければ“絵に描いた餅”となります。

現場目線で「現状の困りごと」「誰が旗振り役か」「役割分担・情報フローの見える化」などをきめ細やかに設計することが、早期成果創出には不可欠となります。

現場の意識醸成や成功体験づくり、小さなパイロットプロジェクトの積み上げを重視しましょう。

“昭和”から抜け出すためのリーダーシップ

日系航空会社の多くは、未だ“昭和型”の官僚主義やヒエラルキー体質を色濃く残しています。

パートナーに選ばれるためには、
「現状プロセスを徹底的に観察し、どこに本当のムダがあるのか」
「現場作業や習慣を否定せず、“一緒に良くする”提案力」
「組織内の“よそ者アレルギー”に配慮した根回し」
といったリーダーシップが欠かせません。

最新のDX提案も、いきなり大改革を迫るのでなく、小さな改善による信頼獲得→全体展開、というグラデーションが肝要です。

サプライヤーから見たバイヤーの本音と動向

数字以上に“安心”が求められる現実

航空会社バイヤーは一般製造業のバイヤーと異なり、個々の交渉場面よりも「万全のバックアップ体制」「緊急対応力」「言ったことは必ず守る」という信頼醸成を重視しています。

逆に静かな現場で“1つの不信感”が発生するとすぐ取引停止に至るケースも珍しくありません。

伝統的な商習慣と変化への混在

業界では「人間関係を大切にする」「現場で顔を合わせる」「前例踏襲を重視する」という価値観が健在です。

その一方、デジタル購買や戦略的ソーシング、SDGs対応、ESG調達のようなグローバル基準に則した改革も急速に求められています。

サプライヤーはこれら“矛盾する価値観”に対応する柔軟な思考(ラテラルシンキング)が市場で強く求められます。

これからの発展のために:業界の可能性を拓く視点

日系航空会社向けの調達は、単なる“品物を収める仕事”から、航空会社自体のビジョン・価値創造に直結する“パートナー型ビジネス”への転換期を迎えています。

従来のアナログ習慣から一歩抜け出し、
・安全性と効率化の両方を追う提案力
・現場×経営×社会全体の三方良しの視点
・協働と信頼に基づくオープンイノベーション
こうした複眼的アプローチが“昭和の延長”に留まる企業との差別化ポイントとして際立つ時代です。

製造業従事者、バイヤー志望者、サプライヤー双方が業界の本質と未来を見据え、ラテラルシンキングで新たな価値を一緒に切り拓いていきましょう。

まとめ

日系航空会社向け商材調達と事業連携の現場を、多角的に解説しました。

本記事が、製造業に従事する方やサプライヤー、バイヤー志望者へ、リアルで実践的な視点を提供し、業界全体を一段上の水準に引き上げる一助となれば幸いです。

航空業界という厳しい現場でこそ、現場ファーストの実践力と柔軟な発想(ラテラルシンキング)が、皆さんの強みとなるでしょう。

これからも変化し続ける業界で、力強く、しなやかに成長していただけることを期待しています。

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