投稿日:2025年8月27日

工場監査の要点QMS/工程/ESG:遠隔監査を成功させる進め方

はじめに:変革の時代における工場監査の重要性

製造業は、今まさに大きな変革の渦中にあります。

「現場第一主義」のもと、工場監査は製品品質やコンプライアンス、安定供給の根幹を担うイベントです。

近年では、QMS(品質マネジメントシステム)や工程管理だけでなく、サステナビリティやESG(環境・社会・ガバナンス)の観点も強く求められるようになりました。

また、コロナ禍に端を発し、現地に赴かずに実施する「遠隔監査(リモート監査)」も一気に普及が進みました。

この記事では、昭和的なアナログ体質の工場現場にも根強く残る課題を踏まえつつ、QMS/工程/ESG各領域の要点、さらに遠隔監査で成果を出す手法を、20年以上の現場経験を元に実践的に解説します。

QMS領域の監査:書類主義の落とし穴と実効性を高める視点

QMS監査は「帳票・手順書・記録類」が大量にやり取りされがちです。

特に日本の製造現場では、帳票を「埋める」「残す」こと自体が目的化してしまいがちです。

これは昭和から変わらない、日本独特の“形式主義”といえます。

しかし、QMSがめざすのは「問題発生の予防」と「継続的改善」です。

単なる形式的な運用では、せっかくの管理体制も絵に描いた餅になってしまいます。

QMS監査の実効性を高める3つの視点

1. 実際の現場運用と帳票の整合性
「書いてある通りにやっているか」を見るのは出発点にすぎません。

例えば、作業標準書と、現場作業者の動作が乖離していないか。

設備や治具のアップデートに帳票や手順が追従しているかなど、「現実と書類のズレ」を細かくチェックします。

2. フィードバックループの有無
品質トラブルのヒヤリハットがきちんと現場にフィードバックされ、標準に反映されているか。

帳票・記録の「生きた使われ方」があるかどうかを確認します。

3. にわか形式化対策
JISやISO監査直前だけ書類を整え、実態とは違う“書類上の理想”を演出していないか。

短期間の是正対応で済ませるパターンもありがちなので、定常的な運用を見る工夫が求められます。

工程監査:品質トラブルの芽を現場で摘み取る

工程監査は、現場で「管理されていない工程リスク」を見つけ出し、製造不良・納期遅延のリスクを事前につぶす活動です。

日本の工場は、世界的に見ても現場力が高い一方、「匠の暗黙知」がブラックボックス化しやすい傾向があります。

これが属人的な工程運用や、形式だけの標準順守につながりやすいのです。

工程監査で問われるポイント

1. 操作・検査の標準化と妥当性
手順書・作業標準に従った動きが守られているか。

人のスキル差による出来栄えのばらつき、なぜばらつきが出るのかといった根本要因まで掘り下げます。

2. 4M変更管理(人・設備・材料・手順)
「熟練者が異動でいなくなった」「材料ロットを変えた」「設備を修理した」など、日々の微細な変化も記録・管理できているか。

変更事象で起こるリスク評価と再発防止が定着しているかを見極めます。

3. “現場合理化”と標準逸脱
現場の工夫(いわゆる“現場合理化”)は日本の強みですが、標準逸脱の温床にもなりえます。

「なぜこのやりかたなのか」「それは品質確保に必要か?」とロジックを持ち込むことが大切です。

ESG監査:環境・社会的責任の本質とは

サプライチェーン全体にわたる「責任ある調達」が世界標準となった今、ESG監査もますます重みを増しています。

特に、海外バイヤーや大手顧客は、EMEAやアメリカの厳しい基準に加え、サプライヤー選定にもESG視点を組み込み始めています。

日本の伝統的な町工場や下請けには、未だ「何をどこまでやればいいのか分からない」という声も多いでしょう。

ESG監査の現場ポイント

1. 環境:廃棄物管理・化学物質管理・脱炭素
ISO14001だけでなく、RoHSやREACH、PFASやGHG排出量といった新たな規制に目を配る必要があります。

取り組みの“見える化”ができているか、現場での分別状況やトレーサビリティも問われます。

2. 社会:労働安全・人権尊重・労使関係
過重労働やハラスメント、外国人実習生のフォロー、労働時間管理のシステム化など「昭和のやり方」からのアップデートが不可欠です。

3. ガバナンス:内部統制・不正防止
請負・派遣労働の管理や、公的書類の偽造リスクの監査。

形式主義的な「ハンコ文化」を根本見直すためのデジタル化も進んでいるかが問われます。

遠隔監査を成功させる実践的進め方

コロナ禍で一気に拡がった遠隔監査。

現場では「細かい点までは見られない」「本質を捉えにくい」といった戸惑いも根強いですが、メリットを活かせば大幅な効率化・標準化も実現可能です。

現地監査とリモート監査の“使い分け”が、今後は当たり前になっていくでしょう。

事前準備の徹底が成否を分ける

監査は「現場に行ってから考える」時代ではありません。

遠隔監査は特に、シナリオ・アジェンダづくり、映像資料や記録類の事前提出、質疑項目のすり合わせ、ネットワーク環境のテストなど入念な準備が不可欠です。

サプライヤー側も意義を理解し、事前チェックリストで抜け漏れのない準備を。

見せる・伝える・納得させる映像化ノウハウ

・ライブ映像や動画撮影は、「現場中心」「作業動線」「4Mポイント」を重点的に
・静止画と動画を組み合わせる
・帳票や現物をカメラ越しに“並べる”やり方で、「本当にやっている感」を演出
・チャットやクラウドツールで同時中継・即時共有し、監査員と随時質疑応答
など、単なるオンライン会議を超えた「伝わる見せ方」の工夫が肝心です。

遠隔監査で”見落とされやすい点”をどう拾うか

・工程間や作業場外の“死角”もこまめに映す
・朝礼・終業前の状況、突発トラブル発生時の対応も再現
・「モノと人と帳票」をワンカットに収め、書類主義と現場運用の整合を見せること

これらを盛り込むことで「現場の空気感」や「管理の実態」を浮かび上がらせることができます。

バイヤー・サプライヤー双方の“腹落ち”が監査力向上の鍵

監査とは、「監査を受ける側」「監査する側」が敵対する場ではありません。

あるべき姿に近づくための“共創の仕組み”と捉えることができます。

そのためには、サプライヤーも「なぜその監査項目があるのか」「どのようなリスク低減・付加価値につながるのか」を現場レベルでも理解することが重要です。

バイヤー側も、「単なるチェックリスト+点数付け」ではなく、「サプライヤーの現場力アップ」「ESG対応能力強化」に真に資する指導や支援を行うことが必要です。

今後の工場監査の新潮流と対応策

昭和的・アナログ的体質から脱却し、グローバル競争の中で生き残るため。

QMS/工程/ESGの三位一体となった現場力強化と、遠隔監査の標準化、ITツールの有効活用は必須テーマです。

現場を対象としたDX(デジタルトランスフォーメーション)には、最初は戸惑いもあるでしょう。

しかし、誤魔化しの効かない「真の現場改善」や「リスク把握」といった本質に立ち返れば、遠隔監査も十分な価値を生み出せます。

まとめ

これからの工場監査は、従来の帳票主義・形式主義から「実態としてリスクを潰し、価値を生み出す現場主義」へと確実にシフトしています。

QMS・工程・ESGの要点把握と、遠隔監査という新たな武器をどう使いこなすか。

バイヤー志望の方、サプライヤー現場の方、双方が腹落ちできる「共創監査」の時代が始まっています。

自分が現場で体感し、試行錯誤したノウハウが、読者の皆さんの業務現場と成長に少しでも役立つことを願っています。

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