投稿日:2025年10月12日

塗装剥がれの根本原因を特定するための表面前処理管理ポイント

はじめに:塗装剥がれという“アキレス腱”

製造業に勤務する多くの方が、完成品の外観や耐久性向上に重要な「塗装」という工程に悩みを抱えています。
中でも“剥がれ”は、クレームや再作業の最たる原因であり、業界全体の課題です。
特に昭和時代に作られた工場では「勘」や「習慣」で塗装前処理が行われているケースも多く、そのアナログな管理意識が根深く残っています。
本記事では、塗装剥がれ防止のための“表面前処理”に焦点を当て、現場経験で得た具体的な改善ポイントを解説します。

なぜ表面前処理が塗装剥がれを左右するのか

「下地を制する者が塗装を制す」

塗装の“密着性”は、塗膜の耐久性や美観を大きく左右します。
そのため、塗装前の表面状態が“どれほどきれいに整っているか”が極めて重要です。
洗浄不十分な状態や、処理ムラ、残渣があると、どんな高級塗料を使っても施工不良や剥がれが発生します。

塗装剥がれのトラブルの多くは、実は塗料自体ではなく、その前段の表面処理の“ちょっとした見落とし”が根本原因であるケースがほとんどです。

「なぜ今、表面前処理管理が問われるのか」

今日では製品のグローバル化、厳しくなる自動車・家電・機械の品質基準、取引先からの工程監査強化などにより、“塗装下地の管理度合い”が問われる流れが加速しています。
今や「ただ塗る」では許されません。
バイヤーからも工程確認が頻繁に入り、サプライヤーにも透明性が強く求められます。

現場で見逃されやすい3大「落とし穴」

1.本当の“清浄度”が保証されていない

多くの現場で「目視確認」「触ってみた」程度で洗浄・脱脂工程を判断してはいませんか。
実際には、わずかな手垢や油分、洗浄液残りによる“みえない汚染”が根本的原因になることが非常に多いです。
特に最近は加工油が高機能化・多品種化し、小さな残渣でも塗膜密着に影響します。
しかも現場作業員の勘や個人技頼りで「自分の感覚では乾いている」「たぶん大丈夫」などと処理を流してしまう。
これが何十個・何百個と流出し、後工程やクレーム化するのです。

2.下地粗さ(アンカー効果)不足

不要な艶や表面の“ピカピカ”がむしろ密着不良の原因になります。
ショットブラストやサンドブラスト、目粗しは本来「一定以上の粗さ=アンカー効果」を得るために実施します。
ところが現場レベルでは、「ブラストやった感」でOKとしてしまう。
ブラスト材の消耗や噴射圧の低下、工程外依頼時の適当施工などによる“効果不足”が熱源です。

3.“前処理液”の管理がズサンになりがち

化成処理やリン酸処理を導入している現場でも、意外な“液管理不備”で性能低下が知られています。
液の寿命超過、pHの未管理、温度のブレ、希釈率の誤差、スラッジ堆積…。
このような基本的な点が実は頻出します。
重要なのは「液体は見た目できれいに見える」ため、目視だけではごまかしが効いてしまう点です。

現場実践者が教える“最重要”前処理管理ポイント

1.「何をどこまでやれば良いか」を“見える化”する

最初に大事なのは、現行前処理工程の「見える化」です。
自工程の洗浄工程が何パターンあり、いつ何をどんな基準で判断しているか、責任者・作業者・管理者が共通認識を持つことが重要です。

たとえば、
・どの加工油を使用したワークは、どの洗浄剤・温度・時間で処理すればよいか
・いつ測定・チェックするのか
・OK/NGが数値で判断できる基準値
これらを工程票やチェックシート、現場掲示物へ“明文化”しましょう。

2.定量管理「表面清浄度・粗さの測定」

例えば、表面油分は水滴テストや白紙でぬぐった汚染度測定、油膜検知ペンなどの活用が推奨されます。
表面粗さは、ポータブルラフネスメーターを現場で頻繁に使いましょう。
「Ra0.7以上はOK」など具体的な数値管理基準で判断し、合否を明確にします。

また組織ぐるみの見回りや監査、現場教育と連動し、“測定・記録・分析”を徹底することが肝要です。

3.設備・液管理は「点検+傾向監視」

・ブラストマシンなら、ノズル・投射材・風量の点検記録
・化成処理液なら、pH・濃度・温度・寿命を「見やすい記録表」で管理
・古い液やスラッジ溜まりへの警鐘表示や交換日誌の徹底
など、“日常チェック”を工程の一部に組み込みましょう。

担当者任せの運用ではなく、作業リーダー・班長・生産管理も巻き込んで、周知・報告・是正を組み合わせると良いです。

リアルな現場で起きた失敗と改善策

典型的な「洗浄不足」→大量剥がれクレーム

私の在籍した工場で、ある日取引先から「納品品の一部で塗装剥がれが頻出」と連絡が入りました。
調査すると、洗浄工程で新しい切削油を使った品種だけ、工程内での乾燥工程が不十分で、油が残留しやすくなっていたことが判明しました。
油汚れは“目視しにくく”、従前通りの基準で良品判定していました。
そこで現場へ「油膜確認テスト」のトライアルを導入。
作業者が工程ごとに検知し、出荷前検査・製品ごとの測定結果も工程管理表に記録化し、原因を根本から断つことができました。

「管理基準のアップデート」が差別化につながる

納期や価格競争が激しい時代ですが、塗装前処理管理で“見えない品質”を数値化することは顧客信頼・製品ブランド力の基礎になります。
「これだけやっています」という事実が、取引上の最大の武器なのです。
アナログな現場こそ、ちょっとした管理手法の変化が、大きなトラブル減につながることを実感しています。

サプライヤー・バイヤー視点で求められる前処理管理とは

サプライヤーは「透明性」「客観性」で差別化を

現場のサプライヤーに求められる最大のキーワードは「トレーサビリティ」です。
誰が、どの設備で、どんな条件で前処理したのか、さっと証明・情報開示できることが評価されます。

・工程記録の標準化、保存(可能なら電子化)
・抜き取りだけでない“全数”管理実績
・現場作業者への教育記録・認定証
こうした取り組みが、バイヤーから見て“信じられる仕入先”の証です。

バイヤー側が注目するポイント

バイヤー・購買担当は、単なる“価格・納期”よりも、「納品後トラブルの少なさ・対応力」に重きを置き始めています。
特に塗装部品の場合、“前処理条件”の保証や、“万一のトラブル時の再発防止策提示”を必ず見ています。
短納期やコストダウンを訴える前に、付加価値として「うちの前処理はここまで徹底している」とアピールすることが、今後のサプライヤー競争で生き残るコツです。

おわりに:今すぐ始める最初の一歩

塗装剥がれを未然に防ぐ前処理管理は、特別な設備を必要とするのではなく、「見える化」「定量化」「日常管理のルール化」から始まります。
昭和の現場感覚を“知恵”として活かしつつ、数値・手順・記録による品質保証を組織全体で定着させていきましょう。
“前処理ができれば塗装は勝ったも同然”、このマインドチェンジが製造業を底上げし、業界全体の信頼向上につながります。
まずはご自身の現場から、小さな見える化・改善をスタートしてみてください。

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