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製造業のSDGs推進における社内KPI設定とモニタリング方法

目次
はじめに:製造業とSDGsの交差点
製造業は、いま世界的にSDGs(持続可能な開発目標)への本格的な対応が求められる業界です。
従来の「効率化」や「コストダウン」といった競争軸に加え、環境・社会・ガバナンスを意識した経営姿勢が企業価値を左右する時代へ移行しています。
その中枢を担うのが、社内SDGs推進のためのKPI(重要業績評価指標)の設定と、着実なモニタリングです。
本記事は、20年以上の製造業現場経験と管理職の立場から、昭和のアナログ主義が色濃く残る日本のモノづくり現場を踏まえつつ、「現実的かつ持続的」なSDGs施策の立案・運用ノウハウを整理します。
これからSDGs推進を目指す企業、またバイヤー・サプライヤーとして他社動向を知りたい方のご参考になれば幸いです。
なぜ今、製造業にSDGs推進のKPIが必要か
環境変化に取り残されるリスク
欧州・北米中心にサプライチェーン全体でのサステナビリティ要求が強まり、ISO14001やISCCなどの認証取得、CO2削減目標の設定が急速に標準化しています。
未対応企業は取引縮小・入札見送り等「選ばれないリスク」に直面し、特に下請けサプライヤーには死活問題となることも増えています。
社内風土改革の起点として
現場主義・現物重視の文化が強い日本の製造業では、「自社に本当にSDGs推進が必要なのか?」「うちは関係ないのでは?」という抵抗感が根強いです。
KPIという“明確な数値目標”を掲げプロセス進捗を可視化することは、従来型の現場力とSDGs推進の両立を目指す第一歩となります。
KPI設定の原則:経営戦略と現場実態との接点を探る
SDGsゴール×自社バリューチェーンのマッピング
KPIの前提として、自社が取り組むSDGsゴールやターゲットを明確に選択・宣言することが欠かせません。
たとえば「エネルギー使用量」や「廃棄物削減」「調達時のグリーン比率」など、バリューチェーンの各プロセス(調達・生産・物流・販売)ごとに該当するSDGsターゲットとの“マッピング表”を作成します。
この段階でよく起こるのが、「横文字の目標だけが並んでいて、自分たちの現場とどう繋がるのかイメージできない」という現場の声です。
現場でピンとこない数値目標は形骸化しやすいため、自社固有のプロセスや、現行の社内指標(品質不良率、安全度数、稼働率など)とのリレーションを丁寧に示しましょう。
「意義」「現場感」「達成可能性」の3点セット
KPIは「企業理念に沿った意義」「現場が納得できる現実性」「着実な達成可能性」をもって設計しなければなりません。
闇雲にSDGs事例集から抜粋したり、経営の理想論だけで決めた目標だと、半年後に現場反発や停滞に直面する可能性が高いです。
たとえば「CO2排出量-20%」を掲げるなら、どの工程で・何の設備を・どう改善して削減できるのか、過去実績や現状維持では実現できない“ジャンプ幅”を議論の俎上に載せましょう。
実践的なKPI設計:現場が動く数値とは
製造業でよく用いられるSDGs関連KPI例
・CO2総排出量/原単位
・エネルギー使用量(電力・ガス)/原単位
・廃棄物発生量/リサイクル率
・再生材使用率
・水使用量/再利用率
・グリーン調達率
・労働災害発生頻度
・従業員教育受講率
・地域貢献活動率
これらは上場企業のSDGs推進レポートで使われる定番指標ですが、中小製造業や協力工場では「そもそも数値取得が大変」「原単位が分からない」という壁にあたることも少なくありません。
その場合は、「まずは工場全体の総量で集計し、その次段階で原単位化」や、「主要部門だけでトライアル展開」といった手順で徐々に精度を高めましょう。
アナログ現場でも根付くKPIのコツ
・紙とエクセル→専用システムへの段階的デジタル化
・現場責任者に“日常管理の延長線”での数値記録
・KPI達成事例の社内横展開(壁新聞・社内報など活用)
・年度目標+月次・週次の細分化で日々進捗を見える化
・失敗・未達成要因の「振り返り会」の定例化
「KPIを管理すること」が負担やコスト増になってしまうと、現場の抵抗はさらに強くなります。
現場リーダーや長年の技能スタッフにも役割意義を伝えながら、「決して一部経営層だけの目標でない」ストーリー化が肝となります。
SDGsモニタリングの運用設計:業界の“壁”を超える視点
定着・進化するための3ステップ
(1)計測~記録の負荷削減
現在多くの現場では、設備稼働データやエネルギー消費量の取得が人手・手書き作業を介します。
可能な限りIoTセンサやメーター連携で自動収集・自動集計の仕組みづくりを進めましょう。
初期費用を抑えるなら、既存PLCデータの活用やスマホカメラ+OCRの省力ツール導入も実践的です。
(2)現場リーダー主体のレビューサイクル
月次進捗会議でKPI達成度・次ステップを現場責任者自身が報告するプロセスを組み込みます。
「自分事」として結果を語ることで問題意識が醸成され、現場発アイデアや改善策も生まれやすくなります。
(3)経営報告から社内外コミュニケーションへ
KPI実績は社内報告だけでなくPR資料やCSR報告書、顧客提案資料として外部にも活用されます。
最新動向としては、川下大手バイヤーのサステナビリティ調査アンケートや、グローバル企業を中心としたサプライチェーンESGスコアリングへの対応も増えています。
「自社内だけで完結する」発想から転換し、“どう見られるか・どう評価されるか”をエンジンにすることが競争優位につながります。
業界動向:アナログ文化からデジタル共創時代へ
組織を超えたデータ共有の胎動
日本の製造業界では、省庁主導のスマート工場推進や、業界横断のサプライチェーン連携(SCM推進、EDI標準化)が強化されています。
中でも「自社内KPIをサプライチェーン全体で共有し、川上・川下双方がボトルネックやリスク管理を行う」動きが鮮明となっています。
今後は単なる自社単独KPIでなく、パートナー企業との共通KPI設計や、第三者評価機関による認証取得も不可欠になってくるでしょう。
SDGs達成へ“ラテラルシンキング”のすすめ
現場に根付いた制度イノベーションとは、決して「最先端IT導入」や「海外先進事例模倣」だけではありません。
たとえば「設備改修できない現場なら、クリーン度や作業環境モラルをKPIに加える」「リサイクル不能な端材を社外のアートプロジェクトと提携しアップサイクルする」など、柔軟な発想こそが日本製造業の強みです。
ラテラルシンキング的な視点で現場起点のSDGs施策を掘り起こし、“型にハマらない新たなKPI”をつくりあげましょう。
まとめ:SDGs推進KPIを「現場力」の新たな証明に
SDGsは一過性の流行キーワードではなく、製造業が生き残るための経営必須条件です。
社内KPI設定とモニタリング体制は、単なるルーチン業務以上のイノベーション創出装置として機能します。
昭和の現場至上主義が色濃い工場文化も、SDGs“らしさ”を自社目線で咀嚼し直すことで確実に変革が可能です。
これからSDGs推進をリードする皆さまが、自社・業界の未来に誇れるKPIを「自分ごと化」し、事例を積み重ねることこそが、次世代モノづくり日本の礎となるはずです。
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