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中小企業からの輸入調達におけるKPI設定と購買部門の実践事例

目次
はじめに:輸入調達とKPIの重要性
グローバル化が進む中で、日本の製造業でも輸入調達の比率は年々高まっています。
中小企業においても、コスト競争力や品質確保、供給安定性を確保するために、海外サプライヤーとの取引はもはや特別な選択肢ではなくなりました。
輸入調達における最大の課題は、不確実性への対応です。
納期遅延、品質トラブル、為替変動、政治リスクなど、さまざまなリスクが絡み合い、国内調達以上に購買部門の力量が問われます。
この複雑な環境で、組織として「どこを目指すのか」「どう成果を測るのか」を明確にするのがKPI(重要業績評価指標)の役割です。
特に昭和的な「根性と我慢」「経験と勘」を重視する社風が残る現場では、KPIを単なる数字管理として嫌う雰囲気も根強いものがあります。
しかしKPIは本来「組織知」を高めるツールです。
現場目線で有効なKPIを設定し、実践まで落とし込むことでこそ、“昭和的アナログ現場”からの脱却と持続的な成長が可能となります。
この記事では、20年以上の製造業現場で経験してきた実践的なKPI設定と、その運用事例を具体的に紹介します。
バイヤー志望者やサプライヤー視点でバイヤーの考えを知りたい方にも役立つ内容です。
輸入調達におけるKPIの基本設計
KPIの役割と全体設計
KPIとは「重要業績評価指標」の略で、目標達成度や業務改善進捗を数値で把握するための指標です。
輸入調達の場合、KPIは大きく分けて「成果系」と「プロセス系」に分類できます。
成果系のKPIとしてはコスト削減率、納期遵守率、品質不良率、為替リスク低減率など。
対してプロセス系は、見積もり収集回数、新規サプライヤー開拓数、定例会議実施率など、日々の活動そのものを評価します。
両者をバランスよく設計し、現場担当者が納得感を持って取り組める内容であることが重要です。
単なる「上からのノルマ」と感じた瞬間、形骸化してしまいます。
なぜ「現場目線」が不可欠なのか
KPI導入にあたり、「頭」で設計しただけでは組織に定着しません。
背景となる取引インフラ・現場リソース・海外サプライヤーとの信頼関係、さらにはアナログな帳票管理が残る工場事情などを考慮しなければ、机上の空論となります。
例えば、従来はFAXやメールで受発注処理をしていた企業で、いきなり「納期遅延ゼロ」「リアルタイム進捗更新」といったKPIを掲げても挫折は目に見えています。
システム化や教育を並行し、段階的に目標を引き上げていく設計が不可欠です。
中小企業における導入実践ケース
事例1:納期遵守率向上のKPI設定と果断な見直し
ある機械部品メーカーでは、海外調達品の納期遅延が慢性化していました。
社内調査の結果、「調達担当者が各ベンダーへの督促に膨大な時間を割いている」「督促記録も手書きノートにバラバラだった」ことが判明しました。
この現場実態を踏まえ、初年度のKPIは『主要サプライヤー(ABC分析上位3社)への納期フォロー記録率 90%』と設定しました。
まずは督促記録を全てエクセルファイルに統一し、担当者ごとに週次で記録。
これをグループウェアで上司にも共有。
目視で進捗可視化できるようにしたことで「忙しさで後回しにしない」「責任範囲を曖昧にしない」意識が根付き始めました。
2年目には「納期遅延率 10%以下」を第2KPIに設定。
結果、督促活動の標準化と海外ベンダーへの情報フィードバックが進み、納期遵守率は着実に改善しました。
事例2:品質トラブル低減のプロセス評価KPI
海外調達品の品質不良は、現場を大きく疲弊させます。
一部の中小製造業では「現場の手直しで乗り切る」「不良原因の詳細な記録がない」といったアナログな対応が常態化しています。
こうした現状を打破すべく、ある自動車部品メーカーでは品質部門と連携し、
『輸入品品質異常発生時の現場改善提案書提出率 100%』というプロセスKPIを掲げました。
これは不良発生の都度、現場・調達・品質管理で三者ミーティングを行い、その内容を定められた様式で記録するものです。
当初は面倒がられる向きもありましたが、「問題の隠蔽や属人対応を予防できる」「現場がシンプルな手順で済むようフォームの簡素化を図る」など現場目線でPDCAを回し、徐々に定着。
トラブルの早期対策やサプライヤー指導内容の一元管理につながりました。
KPI運用のカギは「業界風土」と「現場巻き込み」
昭和的アナログ風土を変えるために
多くの老舗中小企業では、ベテラン担当者が「俺のやり方」が正しいという信念で仕事を進めています。
改善要素は多いですが、一方でその地道な経験には現場独自の知見も蓄積されています。
KPIのマニュアル対応が無機質な管理を助長すると、現場が反発するのは当然です。
「なぜやるのか」「これで仕事が楽になる」「現場の知恵を反映できる」など、現場起点の目標設定と運用こそが成功のカギです。
現場巻き込みのポイント
KPI導入時は、以下の4点が重要です。
1. 導入目的の徹底説明
数値を「上司アピール」ではなく、問題解決と業務効率化のために使うことを丁寧に伝えます。
2. 実務担当者の意見反映
現場から見た「無理な目標」は意味がありません。
現場ワークショップや月例会議で必ず意見を吸い上げます。
3. KPI達成の工夫共有
目標達成した事例を横展開。
「うまくいった現場の工夫」を全社で学び合う仕組みがポイントです。
4. 成果報告とモチベーション管理
KPIの進捗や成功事例は、全体会議や社内報でしっかり称賛。
「数字が上がる=皆が評価される」ことを実感できるようにします。
昭和からの進化:バイヤー・サプライヤー関係が変わる時代
バイヤー視点:独自性あるKPIで差別化
輸入調達のバイヤー職は、「価格交渉力が命」と思われがちです。
しかし、今後は大手だけでなく中小企業でも、単なる価格だけでなく「納期・品質・供給安定性」をバランスよく管理するスキルが求められます。
KPIを使い「どのベンダーが信頼できるか」「緊急時に誰が役に立つか」を可視化することで、バイヤーの付加価値が格段に高まります。
調達リスクの定量化、その背景のストーリー説明ができることも優秀バイヤーの条件になるでしょう。
サプライヤー視点:バイヤーの本音を読む
サプライヤーにとっても、バイヤー部門が重視するKPIとその意図を知ることは大きな武器です。
本質的には「数字」ではなく「お客様がどこで困っているか、本音の業務課題は何か」を読み取り、積極的に提案できるサプライヤーが選ばれやすくなります。
単なる納入義務ではなく「改善提案込みのパートナー」としてバイヤーに信頼されれば、長期安定取引や無理なコストダウン要求の回避など多くのメリットが得られます。
今後の課題と展望:デジタル化と現場力の融合
KPI運用は一度導入すれば終わりではありません。
現場業務のデジタル化(RPA、IoT、EDIシステムなど)をいかに現場のKPI運用に落とし込むかが、今後の競争力を分けます。
一方で、「システム導入で全て解決」するわけでもありません。
輸入調達の現場には、文化・法規の違いや各国情勢といったITだけでは解決できない人間臭さが残っています。
これらは現場の“知恵”が試される分野でもあります。
今後は、KPIを起点に業務プロセスとデジタルツールを高度に融合し、「個人技から組織知へ」「アナログからデジタルへ」の進化を実現する企業が、グローバル競争で生き残るでしょう。
まとめ
中小企業における輸入調達のKPI設定と実践運用は、単なる数字合わせではなく「現場力の見える化と成長のエンジン」となる取り組みです。
アナログな業界風土や昭和的な現場マインドにも配慮しつつ、現場主導のKPI設計とPDCAを大切にしてください。
バイヤーを目指す方やサプライヤーとの関係強化を志す方にとっても、KPIの“使いこなし力”こそが今後の市場価値向上のカギになります。
今一度、貴社の現場の課題や強みをKPIという「鏡」に映してみてはいかがでしょうか。
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