投稿日:2025年10月6日

社内にデータ分析人材が育たず活用できない課題

はじめに:製造業の現場で直面する「データ分析人材」の壁

製造業でもデジタル化の波が押し寄せて久しいですが、実際の現場では「データ分析人材が育たない」「せっかくデータを集めても活用できない」といった悩みが尽きません。

私自身、製造現場の最前線で20年以上、調達購買、生産管理、品質管理、工場の自動化など幅広い分野に携わってきましたが、未だに「手作業と勘と経験」が現場を支配し、エクセルや帳票の山がデータ活用の大きな壁になるケースを多く見てきました。

この記事では、なぜ「データ分析人材が育ちにくいのか」、そして「どうすれば組織としてデータを真に活用できるのか」というテーマについて、実践的な目線と業界動向も踏まえながら掘り下げていきます。

データの民主化が叫ばれる令和の時代にもかかわらず、昭和のやり方から抜け出せないアナログな現場――そのギャップを解消し、製造業が本当の意味でデータドリブンな組織に生まれ変わるためのヒントをお届けします。

データ分析人材が育たない三つの根本的な理由

1. 現場とデータ分析の「言語」がそもそも違う

製造現場には、その現場特有の職人技や暗黙知が根強く存在しています。
これらは数値化しづらく、なかなか構造化データとして蓄積・利用されません。

また、データ分析を担当するIT部門やシステム担当者は、現場の工程や問題解決の勘所を十分に理解していないケースが大半です。
この「言葉の壁」が、現場から求められる本質的な価値提供を妨げています。

現場で起きている現象が、どのようなデータとして表れ、それをどう解釈したら良いのか。
この“翻訳”能力が不足しているため、データ分析の担当者と現場の現実感覚が接点を持つことが非常に稀なのです。

2. データ分析スキル習得の「モチベーション」が湧かない

どんなに高度なデータ分析ツールを導入しても、「使ってみたい、活用したい」と感じている現場スタッフはごくわずかです。

その理由は、現場のKPI(生産効率や品質目標)とデータ分析が直結していないからです。
これまで日本の製造業では、「ヒヤリハット」「工程異常」「歩留まり悪化」など、異常が起きてから対処する現場力が重視されてきました。
その延長線上にいる人たちは「なぜ今さらデータなのか?」「分析しても自分の業務が楽にはならない」と感じがちです。

特に大手メーカーでも、中堅・ベテラン層に「デジタルは若い人の仕事」という意識が根強く、「自分には関係ない」と受け身の態度になりやすいのです。

3. 「自前主義」と「外部活用」への抵抗感

製造業では長年、「すべて内製化、現場で完結」が美徳とされてきました。
そのため、データ分析やAI導入など「専門領域」は外部コンサルやITベンダー任せになりがちです。

ですが、「どのデータを使ってどう改善するのか」という現場力は、結局現場が持っています。
外部パートナーと協業する際も、現場の課題やアイディアを「データに落とす」リーダー人材が育成できていないと、実効性あるデータ活用につながりません。

この自前主義のアンビバレンス(自分ではやりたくないけど外も信用できない)が、データ分析人材の育成をさらに難しくしています。

なぜデータ分析人材が必要なのか?現場でのインパクトに着目

ここまで読んで、「やっぱり製造現場にデータ分析人材って本当に必要なの?」と疑問に思われる方もいるかもしれません。

はっきり言えるのは、今後の製造業では業種・工程を問わずデータ活用は不可避です。
その理由を、以下の観点から整理します。

競争力の源泉が「現場改善」から「予測・最適化」へ

これまで日本の製造業が得意としてきたのは、現場でのカイゼンや「異常即対応」でした。
しかし世界的にIoTやAI化が進む中、「どこにボトルネックが生じそうか」「どの部材在庫が枯渇しやすいか」「どの品質異常が重大不良につながりやすいか」を、事前に予測・最適化できるかどうかが競争力の源泉になっています。

製造ラインの自動化も、設備データや工程データに基づく「最適化」が鍵となります。
この局面で「分析できる人材」がいなければ、ヒューマンパワーに頼るしかありません。

サプライチェーン全体の再設計が急務

調達購買分野でも、地政学リスクによるサプライチェーン逼迫やESG対応要求など、複数変数をリアルタイムに分析する必要性が爆発的に高まっています。

データドリブンで調達計画や取引先選定ができなければ、材料の安定確保やコスト最適化は困難です。
バイヤーやサプライヤーもデータ活用リテラシーが必須の時代になっています。

アナログ業界から脱皮するための転換点:現場でできる五つのアクション

では、どうすれば「現場でデータ分析人材が育ち、活用できる組織」に変われるのでしょうか?
私がこれまでの経験で効果的だった実践例を紹介します。

1. 「小さなデータ活用成功体験」を積み上げる

いきなり全社一斉でクラウド化、AI導入など大型投資に踏み切るのは失敗リスクが高いです。
まずは現場で「不良の傾向を可視化」「仕掛品の滞留原因の見える化」など、小さくても現場課題を解決するデータ活用から始めましょう。

結果が“見える”ことで、現場スタッフの「こうすれば良かったのか!」という納得感が高まり、次のデータ活用へのモチベーションにつながります。

2. 「現場主導のデータプロジェクトリーダー」を意図的に育てる

データ分析の知識だけでなく、現場課題の本質を見抜き、「自分たちの言葉」で他部署やIT部門と話せるリーダークラスが不可欠です。

このためには、“やらされ感”でデータ活用を進めるのではなく、自薦・他薦で「現場応援団」を任命し、社内で称賛・表彰するなど、制度設計と連動させることがポイントです。

3. 「データ分析は難しくない」を実証する

PythonやAI習得までの高いハードルに尻込みする人も多いですが、最近はBIツールやノーコードツールでも十分な効果を発揮します。

Excelレベルでも「このグラフを使ってこう管理する」「この傾向をパレート図で見える化する」など、普段の業務ですぐに使えるアイデアを現場ミーティングで共有し、皆で試してみることが大切です。

4. 現場と経営層・IT部門の「通訳者」を置く

現場目線では「何に使えるのか分からない」、経営・IT部門では「現場の要望が抽象的で掴めない」。
このギャップを埋める専門人材、いわゆるデジタル推進担当者や”通訳者”の存在が重要です。

他業界出身者や社内の異動者など多様な視点を活かし、「現場×データ」の橋渡し役を積極的に配置しましょう。

5. アナログな手磨き力とデータ力の共存を目指す

AIやシステムだけに頼ると、現場の直感的な異常感知や、思わぬトラブル回避という“人間力”が失われます。

理想は、「現場の経験値×データ」によるダブルチェックです。
現場で「なんかおかしい」という気づきをデータで検証したり、逆にデータから見えてきた兆候を現場で確認したりするプロセスを定着させましょう。

人材育成を定着させるための業界動向と今後の展望

ここ数年、業界でも「現場DX化」「データサイエンス教育」の波が押し寄せています。

・大手自動車メーカーが現場スペシャリスト向けのデータ分析研修を義務付け
・中小の加工業でも、現場実務者を対象にしたデータ活用道場が活発化
・ITベンダーや大学とのオンライン実践型OJTが拡大

これらに共通するのは、「机上の空論」ではなく“現場課題に対するデータ活用”を主軸にしている点です。

今後は人手不足や熟練技能者の引退が加速し、現場の知見継承とデータ活用が不可分になっていきます。

昭和のやり方から脱却し、「現場が主役のデータ人材育成」が定着した時、日本のものづくりは新たな競争力を手に入れるはずです。

まとめ:製造業の発展の鍵は「現場起点のデータ人材育成」

製造業の命運を握るのは、AIやIoTという“ツール”そのものではありません。
現場で戦う全ての人が、「データを自分ごと化し、現場改善に役立てる」という習慣と思考を身につけることが、製造業が持続的に発展する真の原動力になります。

この記事を読まれている現場のリーダーやマネジャー、あるいはバイヤーやサプライヤーの皆様にも、“次に何をやるか?”を考えるヒントにしていただければ幸いです。

共に、新たな製造業の地平を切り開いていきましょう。

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