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緊急対応力不足で災害時のサプライチェーンが止まる問題

目次
はじめに:災害時に露呈するサプライチェーンの脆弱性
ここ数年、日本国内外で大規模な地震、水害、パンデミックなど多くの災害が発生しています。
それに伴い、製造業の現場では「サプライチェーンが災害時に止まる」「緊急対応力が足りない」という問題が、ますます深刻に浮き彫りとなっています。
平時には見えにくい問題ですが、いざ災害が発生したとき、そのダメージの大きさや復旧の遅れは企業の存続をも揺るがしかねません。
本記事では、現場経験を踏まえて緊急対応力不足がなぜ発生するのか、なぜ多くの業界で根強く残っているのか、そしてどのように乗り越えていくべきなのかを掘り下げて解説します。
サプライチェーン管理や調達購買、生産管理等に携わる方、またサプライヤー側の方々にも、「現場目線」で役立つ気づきを提供できる内容です。
サプライチェーンの緊急対応力とは何か
緊急対応力が問われる場面
「緊急対応力」とは、災害や突発的な事故、サイバー攻撃などの不測の事態に直面した時、迅速に状況を把握し、必要な意思決定、現場指示、調達先変更、物流の手配などを一気通貫で実行する力のことです。
具体的には、以下のような場面で問われます。
– 主要サプライヤーが被災し、部品調達がストップした場合
– 自社工場や物流拠点が被災し、一部ラインや商品供給が不可能になった場合
– 地域全体での電力供給停止、インフラ障害などが発生した場合
– グローバルサプライチェーンにおいて海外拠点での災害、または輸出入の滞りが起きた場合
これらに迅速に対応できなければ、企業は生産・出荷の遅延、顧客ロスト、ブランドイメージの毀損、最悪の場合は事業停止や倒産の危機に直面します。
昭和から続く「アナログ体質」が障壁
昭和時代から日本のものづくり産業は“現場力”や“職人技”を武器に成長してきました。
しかし裏を返せば、情報伝達・管理の“アナログ体質”が長年温存されやすい土壌がありました。
例えば、災害時に緊急連絡網が用意されていなかった、紙やホワイトボード、電話・FAXベースの運用から抜け出せていない、意思決定が「上からの指示待ち」になるなど、現場の機動性が致命的に低くなってしまう要因が多々存在します。
バイヤー・サプライヤーの立場から見る災害時の課題
バイヤー側の視点:危機管理の盲点
バイヤー(調達購買担当)は通常「コスト」「品質」「納期」を最重要視し、長期的安定取引を前提にサプライヤー選定・交渉を進めるケースがほとんどです。
ですが実際に災害が発生すると、
– 主要サプライヤーが一社に偏っている場合、その拠点が被害を受けた瞬間に全てがストップ
– 二次・三次下請け構造の「見えないサプライチェーン」がどこまで脆弱か把握できていない
– 代替調達先の確保や、仕様直しによる供給継続シミュレーションが未整備
という現実に直面します。
「サプライヤー変更には多大な承認・テストが必要」という罠に陥ると、何週間~何カ月もライン停止、最悪、顧客からの信頼喪失につながります。
サプライヤー側の視点:突然突き付けられる顧客要求
一方、サプライヤーはバイヤーと異なり、自身の被災・復旧だけでなく、大手顧客から「今すぐ供給再開策を出せ」「代替品リスト・緊急対応マニュアルを提出しろ」「他拠点調達手配に協力しろ」と、突如高レベルの緊急対応を要求されるケースが多発します。
「日頃のコミュニケーション不足」「災害リスク想定外の調達契約」「小規模サプライヤー同士の自発的助け合いが難しい業界風土」などで板挟みになることが少なくありません。
なぜ災害時にサプライチェーンは止まるのか?背景分析
要因1:現場レベルの「情報断絶」
災害発生時、最も深刻なのが全体状況の「見える化」不足です。
自社や主要納入先の被災状況、人員の安否、材料・輸送インフラの可否等、リアルタイムに把握できる仕組みがなければ、だれがどう判断してよいのか分からなくなり、初動が致命的に遅れます。
「俺のところは大丈夫」と楽観判断した小規模サプライヤーや、「悪いニュースは上に上げづらい」と情報を閉じてしまう現場文化も、被害を拡大させる要因の一つです。
要因2:冗長性・バックアップ体制の欠如
製造業界ではコスト削減・効率最優先の時代が長く続きました。
そのため、サプライヤーを必要最小限に集約し「複数化・バックアップ」の意識が希薄になりがちです。
パンデミック時や地震・水害ではサプライヤー拠点が「全域でダウン」するケースも多く、人員・装置の融通や代替生産が一切効かなくなる事態も現実に起こりました。
「コストは増えるがバイパスを作る、在庫を一定維持する」などの決断を、日頃からできない体質が災害時の大損失を招いています。
要因3:意思決定・権限移譲の遅れ
日本の大手製造業に根強い“トップダウン型”の企業文化が災害時にも牙をむきます。
「本社の承認が出るまで手を出すな」「現場の裁量では何もできない」という状況下では、せっかく現場が機転を利かせても事態がどんどん悪化してしまいます。
現場の判断と権限移譲が推進されている企業では被害を最小限に食い止める事例も多いですが、いまだ広く根付いていないのが現状です。
緊急対応力を鍛えるための実践的アプローチ
1.サプライチェーン全体の可視化と情報共有体制
デジタル化が進む世の中ですが、まだまだ「部門ごとに情報が分断」「進捗が手入力」「サプライヤーや物流会社とリアルタイム連携ができない」といった現場は珍しくありません。
まずはどんなアナログ現場でも、以下の二点から改善を始めるのが現実的です。
– 災害発生時に連絡・安否・被害状況を自動把握する手段(クラウド型連絡網、チャットツールなど)の導入
– 主要サプライヤー・物流・生産現場とつながる「情報中枢」「デジタルダッシュボード」構築の検討
もちろん大掛かりなシステム投資が必要なケースもありますが、「まずは社内のLINEグループやExcelを使った早期情報共有から」等、小さなことからとにかく始めてみることがカギです。
2.調達購買・生産体制の多重化・柔軟化
– 重要部品は複数サプライヤーからの調達(マルチソーシング)を一般化する
– 取引契約に「災害時調達の優先供給」「暫定代替対応」に関する条項を追加する
– 生産拠点や物流先の分散、バックアップ体制(ほかの拠点での生産・出荷切り替え)の策定
これらはコストや管理負荷が一時的に増大しますが、一度その“保険”が効果を発揮する場面がくれば、会社存続を左右するほど大きなリターンになります。
「災害は起きてから考える」のではなく、どこまでリスクを受け止められるか、意思決定者が日常的にシミュレーション・議論しておくことが不可欠です。
3.現場主導のBCP(事業継続計画)策定と訓練
BCP(Business Continuity Plan)は経営層だけで作るマニュアルでは意味がありません。
現場レベルで「災害時に何が困るのか」「緊急避難経路は?」「生産が一時停止したら誰がどこへ連絡し、どう再開指示を出すのか」といった実践的フローを事前に練り、年に数回訓練を重ねることが重要です。
紙や動画でもいいので「現場担当者がすぐ持ち出せる」マニュアル化、「新入社員でも読めば動ける」仕組みを粘り強く作り上げていくことが、アナログ文化の現場でも進められる現実的な施策です。
業界として進めたい「共助」の仕組み作り
業界横断の連携・情報共有の強化
日本の製造業のもう一つの課題は「競争関係が強すぎて、災害時の連携が生まれにくい」ことです。
サプライチェーン上流・下流、同業他社、産業協会単位で「いざとなったら人的応援・資材融通を行う」「情報共有ネットワークを組む」といった“共助の仕組み化”がますます重要です。
欧米大手では「災害時の共同調達」「支援物資の共通備蓄」などの取り組みも進んでおり、日本のものづくりも新しい枠組みにチャレンジしていくべき時代に入っています。
まとめ:危機をバネに「強いサプライチェーン」の再設計を
災害時にサプライチェーンが止まる――これは単なる現場力や管理職だけの問題ではなく、現場から経営、サプライヤーから顧客企業までが一体となって乗り越えるべき課題です。
「いつか起きるだろう」ではなく、「いつ起きても最悪手を尽くせる組織」に変革する。
これこそが、現場発の緊急対応力を鍛え、アナログ業界から一歩抜け出すカギです。
一人ひとり、部署ごとにできる小さな一歩が、大きな災害時にあなたの現場・会社、そして業界全体を救う力になります。
ぜひ、明日の一歩からスタートしてみてください。
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