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海外の購買担当が嫌う日本式の“前提共有不足”の問題点

目次
はじめに:グローバル化する購買現場と日本式の“前提共有不足”
製造業の現場では、調達購買のグローバル化が急速に進んでいます。
コロナ禍を経てサプライチェーンが再評価され、日本企業も海外サプライヤーやバイヤーと多くやり取りをする時代となりました。
その中で、海外の購買担当が「日本企業と仕事しにくい」と感じているポイントの一つが、“前提共有不足”です。
この問題は、ただのコミュニケーションの齟齬にとどまらず、重大なトラブルやビジネス機会の損失にも直結します。
特に昭和時代からの「空気を読む」「言わなくてもわかる」「以心伝心」という暗黙知を美徳とする文化が、国際的なビジネス現場では時代遅れとなりつつあります。
この記事では、なぜ日本式の“前提共有不足”が問題なのか、現場レベルの事例と対策、これからの購買・バイヤーに必要な視点をご紹介します。
“前提共有不足”とは何か——日本式ビジネスコミュニケーションの落とし穴
「阿吽の呼吸」に頼りすぎる日本の現場
日本の製造業では、「前提」や「細かい背景」は空気を読むことで補い合う文化が長く続いてきました。
社内・社外の関係を問わず、同じ組織内で何度も顔を合わせる“村社会”だからこそ通用していました。
調達・購買の現場でも、長年の取引で得た“阿吽の呼吸”が前提となりやすいです。
しかし、これが海外バイヤーやサプライヤーにはほとんど通用しません。
彼らは、“Explain Everything(全てを説明する)”文化であり、逐一論理や背景を明確に伝え、疑問があればその場で確認することが基本です。
前提共有不足が生む5つの現場トラブル
1. 要求仕様の抜けや曖昧さ
2. 価格・納期交渉時の条件認識の差
3. 図面や指示書の不明確さによる品質不良
4. クレーム後の原因追及での行き違い
5. 追加変更やイレギュラー対応が口約束で済まされる
これらは、全て現場を“知っている人同士”なら成り立つ暗黙知が裏目に出た例です。
海外のバイヤーやサプライヤーから見ると、「なぜ説明しないのか?」「言わない限り伝わらない」が当たり前です。
これが繰り返されることで、日本の信用や協力体制の構築にも支障が生じています。
購買のグローバル化で浮き彫りになる日本式の限界
日本の強みが弱みに変わる瞬間
日本型の「和を重んじる」文化や、「目配り・気配り・心配り」による現場力は、間違いなく強みです。
しかし、調達や生産現場でもグローバル人材の流動化や多国籍チームの編成が進む今、そのやり方を押し通すのはリスクでもあります。
例えば、海外工場への発注で日本流の“お任せ”指示を出すと、
「背景説明がない」
「責任の所在や優先順位が不明」
「基準や“常識”が違うのにすり合わせがない」
といった問題が日常的に発生します。
また、「一度言えば察してくれるだろう」と考えるあまり、追加条件や例外対応を十分に伝えずに大きなミスを誘発することもしばしば起きています。
海外バイヤーが重視する3つの“前提”とは
1. 実際に発注する上での業務フローや承認手順(例:図面改訂の正式タイミングや履歴管理)
2. 品質保証や検査基準(例:どんな仕様違反が許容範囲か・特別な要求事項の有無)
3. コスト管理および価格決定要因(例:原材料高騰時の価格改定ロジックや見積取得の背景)
どれも、業界標準や会社ごとに違いがあるため“説明しなくても分かるでしょ?”は最大の禁句です。
【現場事例】海外バイヤーが困惑した日本の“前提共有不足”事例
事例1:図面の改訂履歴・ロット管理の説明漏れ
A社は日本の精密部品メーカー。
新規海外取引先のバイヤーから、「最新版図面と過去ロットの違いを説明してほしい」と求められました。
日本式の現場では口頭やメールですり合わせていましたが、正式なエビデンスや管理フローの記載がなく、海外バイヤー側は「何を頼りに判断すればよいのか分からない」と苦情。
要因は、「社内ですり合わせてるから対外的な説明や書類化が徹底されていなかった」ことにあります。
結果的に本来なら不要だった再検証や追加会議が発生し、取引負担が大きくなりました。
事例2:検査基準のローカルルール放置
B社は金属加工メーカー。
納入先の海外バイヤーから「なぜこのバリ取りの範囲が甘いのか?」と指摘されました。
日本の現場では「社内基準では許容」「このくらい大丈夫」と目視で済ませてきた取り決めが、英文書類上に残されていませんでした。
結局、現物の再検査や海外チームとの再交渉が発生し、多大なコストと信頼低下を招きました。
現場力に頼ったまま説明責任を放棄することで、かえって作業負荷やクレームのリスクが高まります。
事例3:価格見積の単位や構成項目の食い違い
C社は樹脂部品メーカー。
海外バイヤーからの見積依頼に対し、日本語ベースの“部内常識”でまとめた表を送りましたが、材料費や工賃、管理費などの構成要素が曖昧で、単位の違いも説明されていませんでした。
バイヤー側はどのコストが高いのか、どこに交渉余地があるのか分からず、不信感を募らせてしまいました。
これもまた、「社内では分かっている前提」や「日本語文化の省略」を持ち込んでしまったがゆえの“前提共有不足”の典型例です。
“前提共有”を徹底するために今すぐできる現場改善策
1. 要件定義・ロジックの“言語化・見える化”の推進
– 依頼する側、受ける側の両方で前提・背景を徹底的に洗い出しましょう。
– なぜその指示・条件が大事なのか、理由や目的も合わせて説明文書を添えましょう。
– 用語や数値は英語表現のグローバル標準でそろえましょう。
– QCD(Quality/Cost/Delivery)各項目ごとに期待値と証拠(ドキュメント)を明示しましょう。
2. “書き言葉文化”への意識改革を
– 仕様書や案件の要点は口頭で済ませず、正式な記録として残しましょう。
– 社内ルールや業界慣習も、英文や見える化ツールで外部に説明できる形にしましょう。
3. 逆質問・フィードバック習慣の導入
– “Do you have any questions?”(何か質問は?)ではなく、“What points do you need more clarification on?”(どの点をより詳しく知りたいですか?)と尋ねる姿勢を持ちましょう。
– 海外バイヤーやサプライヤーにも「これは分かりにくかった」など定期的なフィードバックを求めてください。
– 誤解・省略で持ち帰らず、その場で確認する訓練を現場全体で進めましょう。
現場の“昭和的アナログ文化”にどう向き合うか
製造業の昔ながらの現場力や暗黙知は、デジタル化やグローバル化の時代においてもゼロにはできません。
しかし、それを「世界標準」と過信するのは危険です。
今後求められるのは、「日本の現場力びいき」から脱却し、グローバルなコミュニケーション設計力を伸ばすことです。
例えば、現場リーダーや工場長にこそ、前提共有の重要性や“なぜ書類に残すか”の真意を啓蒙しましょう。
新旧世代問わず、“説明しなくても分かる”という気運を改めて、「見せる化」「説明責任」を組織文化として根付かせる必要があります。
バイヤー・サプライヤー双方が“前提共有”を究めるために
購買や調達のプロフェッショナルを目指す方、サプライヤー側でバイヤー目線を知りたい方が今こそ持つべき視点は次の通りです。
– 説明責任(Accountability)とエビデンスベースの提案力を鍛えましょう。
– 「自分は分かっている」ではなく、「相手は何を知らないか、どこで誤解しやすいか」を想像しましょう。
– 日本式の良さ(現場力やチームワーク)は“世界標準の透明性”と両立させるべきです。
実務の現場では、メールやTeamsなどで公式なやり取りを必ず残す習慣を持ち、確認プロセスの形式化を徹底してください。
また、日本人同士で共有されている“微妙なニュアンス”も、必ず翻訳・明文化することで齟齬を減らせます。
まとめ:前提共有不足を乗り越え、グローバル時代の購買を
日本式ビジネスの“前提共有不足”は、グローバル化が進む調達・購買の現場で最大のハンディとなっています。
一歩踏み込んで「相手が本当に知りたいこと」「世界標準の説明責任」を意識することで、日本製造業の強みを更に発揮できるでしょう。
現場で働く全ての皆さんが、今一度「なぜ説明が必要なのか」を見直し、価値ある購買・サプライチェーンづくりを進めていきましょう。
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