投稿日:2025年9月23日

経営課題をビジュアルで共有できないため共感を得られない事例

はじめに:なぜ経営課題の“共感”が得られないのか

経営課題と日常業務。
製造業の現場では、多くの場合、この二つの世界がしっかりと“つながっていない”と感じることが多々あります。

特に、経営陣が抱える課題や将来に向けた方針が、現場の一人ひとりに“伝わる”ことは、実はそれほど簡単なことではありません。

その理由の一つが、「ビジュアルで共有できていない」ことにあります。

経営会議や報告書で語られる未来像や問題意識は、抽象的な言葉や数字にとどまりがちです。

このため、共感が広がらず、現場との温度差が問題となりがちです。

この記事では、製造業における「経営課題のビジュアル共有不足が引き起こす共感の壁」とその解決策を、現場視点×ラテラルシンキングで掘り下げていきます。

共感なき経営課題――その「溝」はなぜ生まれるのか

その場しのぎの情報伝達がもたらす誤解

「原価低減が至上命題だ」
「不良率を昨年比30%減に」
「生産リードタイム短縮を絶対に達成せよ」

多くの企業で、このような数値目標やスローガンが掲げられています。

しかし、現場従業員からすると、これらは“自分ごと”になりづらく、何をどう変えればよいのかイメージが湧かない、といった声がよく上がります。

なぜなら、「現場で実感の伴うビジュアル共有」が欠如しているからです。

事務所のホワイトボードに掲示された棒グラフやパワーポイント資料に並ぶ数値だけでは、本質的な共感は生まれません。

失敗事例:伝わらなかったトップの経営ビジョン

ある自動車部品メーカーの事例を紹介します。

経営陣は「グローバル競争に勝つためのコスト競争力強化」を戦略テーマとして打ち出しました。
パワーポイントには、先進メーカーとの原価差のグラフや予算未達の赤字が並び、会議は緊張感に包まれます。

しかし、現場に話を聞くと、
「また難しいこと言ってるな」
「結局、我々の作業工程は何をどう改善すれば?」
と、どこか他人事になっています。

その結果、5Sや改善提案活動も形だけが先行。
「指示だから」「言われたから」の動きになり、継続性もなく、経営課題の達成にはつながりませんでした。

アナログな現場に根づく「見える化」の本質

なぜ“昭和的”な現場でもビジュアル共有が不可欠なのか

製造業の多くの現場は、いまだにアナログ文化が強く残っています。

現場の掲示板、紙の帳票、口頭伝達、OJT(On the Job Training)など、DX化以前の“昭和的”な手法が根付いています。

しかし、アナログでも“本質的なビジュアル共有”は実現可能です。

24時間稼働の現場でも、皆が一目で分かる“実物データ”や“現物展示”を行うことで、経営課題をぐっと身近に感じてもらうことができます。

ここにヒントがあります。

共感を生む“見える化”の最強手法とは

私が経験してきた中で、最も効果的だったのは「現場主導のビジュアル展示」と「実際に手を動かしてみること」でした。

例えば、不良品の実物を“現場カフェ”コーナーに並べ、そのすぐ脇に「この不良が毎年〇〇万個発生、〇百万円の損失」とイラストで表示します。
あわせて、改善に着手したメンバーの顔写真と“Before/After”を並べて紹介します。

すると、従業員たちは「これは自分たちの毎日の作業の延長線上なんだ」「この改善事例は自分にもできそうだ」と、課題解決を“自分事”として受け取れるようになります。

経営課題=自分の作業に直結している
という実感を、ビジュアル情報で直感的に伝えること。
これが昭和から続くアナログ現場でも極めて有効な方法です。

事例で振り返る:成功した“経営課題のビジュアル共有”とは

生産ライン改善のカイゼン壁

私が以前関わった工場では、生産性改善活動がなかなか根付かず、従業員の関心も低迷していました。

そこで、各ラインの代表者にプロジェクトリーダーを任命し、「改善アイデア」を現物・写真・グラフを駆使して、食堂前の壁一面に“山”のように掲示しました。
不具合のサンプル、工程前・後の写真、投入工数と作業時間の変化、損益インパクトの見える化グラフ…。

1週間も経たないうちに、他のメンバーから「自分もやってみたい」「こっちでも試そう」と、アイデアや改善事例の共有が進みました。

この事例のキモは「現場が目で見て、すぐ分かること」「経営課題と自分の日々の仕事が一本の線でつながること」です。

サプライチェーン改革で共感を生んだビジュアル資料

また、調達部門の部品標準化プロジェクトでも同様です。
調達バイヤーが「コストダウンをもっと進めろ」と現場スタッフに言うだけでは、なかなか実行力が高まりませんでした。

そこで、調達・設計・製造の三部門の代表で“サプライヤー共通部品マッピングボード”を作成。
全工場・全ラインで使っているボルトやパッキンの現物サンプル、サプライヤー別コストの分布、標準化による削減効果を一目で理解できる資料に落とし込みました。

この工夫により、現場のスタッフも「なぜ標準化が必要なのか」「自分がどの部品を変えれば効果が出るのか」を具体的にイメージできるようになり、プロジェクトの推進力が飛躍的に向上しました。

“共感”を引き出す3つのビジュアル共有テクニック

①現物現場で“体験型”ビジュアルを仕掛ける

最も効果が高いのは、会議室ではなく「現場で」「手を動かして」「五感で体感できる」方法です。

例えば、不良品削減なら、
・最新の不良品サンプルを現場に吊るす
・不良発生箇所で、現物と改善前後の写真・ミニ動画を展示
・実際の生産工程内で意見交換会を実施

これらにより、経営課題が“誰かだけのもの”ではなく、“全員の仕事そのもの”として認識されやすくなります。

②ストーリーでつなげる“自分事化”ビジュアル

単なる数字の比較ではなく、「誰が、どこで、何に苦労したのか」「どんな道筋で効果が出たのか」をストーリー形式で伝えると共感率が格段に上がります。

顔写真やイラスト、スタッフの一言コメントを添えて、改善活動の“主人公”を明確にすることで、見る人が「自分にもできそうだ」「自分もやりたい」と思えるのです。

③現場目線の“簡易ダッシュボード”を設置

最先端のIoTやビッグデータ分析がなくても、ホワイトボードや掲示板、紙のグラフでも充分に「現場の今」をビジュアルで伝えられます。

大事なのは、“複雑なグラフ”よりも、“見て2秒で意味が分かる”こと。
改善進捗、コスト削減金額、不良数や工程別工数――
項目は5つ程度に絞り、現物写真やアイコンで毎日更新しましょう。

サプライヤーも来社時に「御社はこんなにコミュニケーションが進んでいるのか」と信頼を得やすくなります。

アナログ現場でもビジュアル共有は進化できる

製造業の現場は、多様な年齢層・国籍・キャリアの方が混在し、しかも日々の生産に追われています。
だからこそ、「一目で分かる」「具体的に見える」形に落とし込んだビジュアル共有が、あらゆる課題解決の最短ルートとなるのです。

昭和から続く紙の掲示、黒板、模造紙カレンダーでさえ、工夫次第で最先端のDXに劣らない“共感”を生み出せます。

まとめ:ビジュアルの力で経営課題を“自分ごと”に

製造業の経営課題が“誰かのスローガン”や“画面上の数字”で終わってしまうのは、現場にとって大きな損失です。

現場視点で課題を“体感”できるビジュアル共有。
これが定着すれば、経営と現場の溝は埋まり、現場発の自発的カイゼン、そして持続的な成長に結びつきます。

バイヤーやサプライヤー、そして現場のすべての方に、「経営課題=生きた現場の問題」であると意識してほしい――
そう願って、現場目線からの“ビジュアル共有”の大切さを提案します。

You cannot copy content of this page