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付帯費用THC DOC ORCを標準原価に反映する着地コスト管理

目次
はじめに:製造業における「着地コスト」の重要性
製造業を取り巻く環境は年々複雑化しています。
材料価格の変動、物流インフラの制約、国際的な規制強化など、調達から納品までの一連のコスト管理は従来以上に困難となっています。
その中で、単純な材料費だけでなく、「着地コスト」と呼ばれる、いわゆる仕入先から工場ゲートまでのあらゆる経費を正確に把握することが非常に重要となっています。
特に、THC(Terminal Handling Charge)やDOC(Document Fee)、ORC(Origin Receiving Charge)といった付帯費用がいつの間にか大きな負担となって表面化し、利益圧迫の要因になるケースが多くみられます。
この記事では、現場目線で着地コストの本質に迫り、昭和から受け継がれるアナログな業界構造や、業界に根付く動向を踏まえた上で、THCやDOC、ORCといった各種付帯費用の標準原価への反映方法、そして実践的なコスト管理のポイントについて解説します。
着地コストとは何か?
単純な「仕入原価」では見えない隠れたコスト
製造業の原価計算において、「仕入原価」という言葉は馴染み深いものです。
ですが、実際に工場に届くまでには、運賃や通関費用、保険料、そして何より外部委託先によって発生する細かな付帯費用が複数絡み合っています。
着地コストとは、これら購買先(サプライヤー)の出荷地から自社工場までの全ての経費を合算した「実質的な仕入原価」を指します。
着地コストの主な内訳
着地コストは概ね以下の項目で構成されています。
– 商品本体価格
– 国際・国内輸送費(海上・航空・トラック)
– THC(ターミナルハンドリングチャージ)
– DOC(ドキュメントチャージ)
– ORC(オリジンレシービングチャージ)
– 保険料
– 関税・消費税
– 通関手数料
– 国内配送費
– その他アドオン費用(緊急対応費、梱包特殊費用など)
こうした多層的なコスト構造が、購買担当者やバイヤー、さらには工場長にとって常に「見積もりとのギャップ」を生み出す温床となるのです。
THC・DOC・ORCとは何か? 現場目線で解説
THC(Terminal Handling Charge)
THCとは、港湾ターミナルで荷物の積み下ろし・移動・保管などにかかる費用を指します。
特に20フィート・40フィートコンテナ輸送では、「THC抜き」と「THC込み」の見積もりが混在するため、輸入時には納入価格にTHC分が上乗せされて想定外のコストインパクトとなりがちです。
DOC(Document Fee)
DOCは、輸送書類の作成や手配にかかる費用です。
アジア圏のサプライヤーではこの費用が毎回請求されることも多く、書類一式のデジタル化が進みにくい背景もあり、人件費や外部委託コストがかさみやすい点が業界の悩みどころです。
ORC(Origin Receiving Charge)
ORCは、サプライヤーの工場や倉庫での貨物受取・コンテナ詰め・車両積載などに関する費用です。
現地での業務人員コストや、港までのトラック輸送費が別建てで計上される場合も多く、「見積もり価格=最終コスト」とならない“罠”の一つです。
なぜ昭和的アナログ管理ではコストを捕捉できないのか?
現場あるある:最終価格の「後出しジャンケン」問題
一部の国内老舗企業やアジア圏サプライヤーでは、今なお「暫定見積もり」によって商談がスタートし、最終的なコストは納品や入荷後に判明するケースも珍しくありません。
また、紙ベースの伝票管理や担当者ごとの経験則に頼る“職人芸的”なコスト計上が主流となっている現場も多く見受けられます。
こうした背景から、細かな付帯費用が原価計算システムに反映されない、情報が曖昧なまま納品処理だけが進む、といった問題が根深く残っています。
業界慣行と仕入先パワーバランスの壁
また、THC・DOC・ORCといった費用項目は“交渉不可”とされることが多く、購買バイヤーがコストダウン提案を迫っても「海外では当たり前だから」「通関上仕方ない」と一蹴されることも日常茶飯事です。
業界慣行や仕入先側の“パワーゲーム”に押し切られる格好となり、結局実態把握や標準化が進まない、「昭和的アナログ調達」から抜け出しきれない現実があります。
THC・DOC・ORCを標準原価に組み込むための実践ステップ
1. 費用項目ごとの「発生場所」「担当部門」を明確にする
まずは、付帯費用の「正確な発生タイミング」と「最終受益部門(原価負担者)」を現場・調達部門・経理部門で整理します。
付帯費用別に責任を持たせることで、原価管理のルーティン化が一気に進みやすくなります。
2. クォートシート(見積書)は「着地」ベースで標準化
サプライヤーへの見積依頼は、「工場ゲート着(DDPまたはCIPなど、インコタームズ明記)」とすることが重要です。
この形式でまとめてもらうことで、THCやDOC、ORCなどの不明瞭なアドオン費用が一体化されるため、「後出し」や「実費・変動精算」といったトラブルを未然に防止できます。
3. 標準原価への反映は「累積実績」×「未来予測」で決める
例えばTHC・DOC・ORCの実績額を毎月経理部門が集計し、一定期間で平均値を算出します。そして、半期ごと・年度ごとに標準原価へと反映させる手法が現実的です。
加えて、原油価格や労務費の変動要因を分析し、先読みの係数をかけて調整するなど、データドリブンで運用することが先進的現場のトレンドとなっています。
IT活用・デジタル化で変わるコスト把握の最前線
RPA・AIによるコスト情報の自動収集・集計
一部の先進工場では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やOCR、AIツールの活用で、物流伝票や請求書の情報を自動で吸い上げ、費用内訳ごとにリアルタイムで原価システムへ投入する流れが進みつつあります。
入力ミスや情報欠損、ヒューマンエラーが激減し、「THCは想定より●円上ぶれ」など、現場に即したフィードバックが即座に得られる環境が構築されています。
クラウド型のサプライチェーン管理システムの活用
EDIやクラウド型調達管理ツールを導入すれば、仕入先の見積項目体系を標準化するとともに、付帯費用の傾向分析や将来予測がワンクリックで可能となります。
これにより「昭和的アナログ管理」から、「デジタル時代の着地コスト可視化」への移行を加速させることができます。
バイヤー・サプライヤー双方の視点で考える着地コスト改革
バイヤーは「コミュニケーション力」と「交渉設計力」がカギ
THC・DOC・ORCといった費用はなかなか表に出てきませんが、「なぜ発生しているのか」「料金構造のロジックは何か」といった論点を論理的かつ穏やかに尋ねることが重要です。
単純な価格交渉ではなく、「リードタイム短縮」「パッケージ化による費用統一」など、サプライチェーン全体最適の提案=コスト構造の見直し協議を継続的に行える関係構築が肝要となります。
サプライヤーも「透明性」と「データ共有」を武器に差別化
一方、サプライヤーとしては、THCやDOC、ORCなどの経費を「見える化」し、内訳や価格動向を定期的なレポートとしてバイヤーに提供することで、信頼醸成につなげる動きがトレンドとなりつつあります。
また、データ連携強化による「失注リスクの低減」や、「付加価値サービス加算」で一歩先んじる提案型ビジネスへの移行を図っていく、という戦略も業界全体で進みつつあります。
まとめ:付帯費用の標準原価反映が未来の競争力を左右する
THC・DOC・ORCといった付帯コストを軽視したままの調達・原価管理では、グローバル調達が当たり前となった現代の製造業界で生き残ることはできません。
「着地コスト」を正確に捉え、システム化・標準化によって属人的管理から脱却することで、無駄な費用を排除し、生産性向上や利益確保に直結する経営を実現できます。
今後は、現場主導のデジタル化、バイヤー・サプライヤー双方の協調、そして原価構造の透明化が「新しい昭和」=“変革し続ける現場力”の象徴となるはずです。
今回の記事を参考に、是非自社に合った着地コスト管理の見直しや、標準原価への組み込みを検討し、「無意識の利益ロス」と決別する一歩を踏み出してください。
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