投稿日:2025年7月7日

失敗事例で学ぶレーザー樹脂溶着プロセス最適設計とトラブル対策

はじめに:レーザー樹脂溶着の“壁”を乗り越えるために

近年、製造業の現場ではレーザー樹脂溶着技術が急速に普及しつつあります。

特に自動車部品、電子部材、医療機器などの分野で、「高品質」「高速」「自動化」の波が押し寄せ、従来の接合技術からレーザー溶着への置き換えが進んでいます。

しかし、現場のリアルとしては「導入はしたが、思ったような品質が出ない」「工程設計やトラブル対応が旧態依然で悩んでいる」といった声が後を絶ちません。

私は20年以上にわたり製造現場の第一線で調達・生産管理・品質管理・工場運営等に携わってきました。

その経験をもとに、典型的な失敗事例から学びつつ、「なぜ、うまくいかなかったのか」「本当に現場で使えるプロセス設計とは何か」を現場目線で深く掘り下げます。

また、いわゆる“昭和的アナログ管理体質”が根深く残る日本の製造現場でこそ、知っておくべき業界トレンドや考え方も加えて、実践的な知恵を共有します。

レーザー樹脂溶着プロセスの基本構造と現場での課題

レーザー樹脂溶着の仕組みとメリット

レーザー樹脂溶着とは、可視・赤外レーザーなどを用いて、熱可塑性樹脂部材同士を局所的に加熱し溶着する技術です。

代表的な方式は「透過型溶着(TTLW: Transmission Through Laser Welding)」です。

これは、レーザーが透過する上部樹脂(透明や半透明)と、レーザーを吸収する下部樹脂(カーボンブラック配合等)を重ね、上からレーザーを照射し、界面のみを選択的に加熱・溶着します。

主なメリットは以下の通りです。

– 接合部の高精度・高強度化
– バリ・粉塵・微粒子が少ない清浄な仕上がり
– 他のプロセス(プレス、ねじ、超音波など)よりも自動化対応が容易
– 微細形状部品や液密・気密性部品にも最適

しかし、初回導入時に「誰でもうまくいく」わけではありません。

製品・樹脂材料ごとの最適条件設定や、工程設計力、そして“昭和的な段取り”を乗り越える現場改革が必須です。

具体的な現場課題 —— どこでつまずくのか

多くの現場でぶつかる典型課題として、

– 接合強度不良・リーク不良の多発
– 溶着部の外観不良(黄ばみ、焦げ、ポップアウトなど)
– 品種切替・設備段取り替えの手戻り
– 完全自動化工程なのに“手直し”がなくならない
– 材料ロット差によるノウハウ継承の難しさ

などがあります。

一見レーザーというハイテク技術も、「現場=人が動かすもの」という鉄則からは逃れられません。

これらの課題は、単なる設備導入時の操作ミスや条件出し不足だけでなく、材料選定・工程設計・バラツキの制御・品質保証体制にまで根が深く及んでいます。

失敗事例に学ぶ:なぜトラブルが“なくならない”のか

事例1:材料ごとの吸収率差による“溶着ムラ”

自動車電装部品工場現場の一例です。

黒色ABS樹脂ケースのカバーと本体を透過型レーザー溶着で接合。

初回トライ時は「じゅうぶんな強度が出ている」と判断され生産開始。

しかし月が変わり、ロットが替わると「シール不良が頻発」という新たな問題が浮上しました。

原因調査をすると、同じ黒色ABSでもメーカーやロットごとにカーボンブラック含有率や分散状態が違い、レーザー吸収率にばらつきが出ていました。

単純な“通り一遍の条件出し”だけではなく、「材料スペック・仕入先ばらつき吸収のための条件幅」設計が不可欠だったのです。

このような失敗は、購買部門とエンジニアリング部門、製造現場との壁を超えた“本当のチーム設計力”が問われる好例です。

事例2:工程ばらつき“過小評価”によるライン停止

ある家電部品メーカーの事例です。

レーザー樹脂溶着を使った小型給水タンクの溶着工程ライン。

新設備立ち上げ時の工程設計で「カタログスペック通り」の条件表をベースにプロセス設計。

「日々の生産、たまの調整」程度の認識で運用を開始しました。

実は部品ばらつき(射出成形による形状ばらつき、寸法偏差等)、現場温湿度の変化、治具消耗による装置バラツキなどに現場が鈍感になっていました。

メンテナンス不足や環境変動への備えがないまま大量生産を続けた結果、シーズン途中で突発的リーク不良が発生。

ラインは長期間ストップ、客先クレームと多大な損失が発生しました。

まさに“品質トラブルは現場が作る”という事実を痛感するケースです。

事例3:アナログ管理体質が“デジタル化阻害要因”へ

歴史ある医療機器メーカーのケースです。

レーザー樹脂溶着工程の品質記録のデジタル化を進めようとしたところ、現場作業者から「紙帳票記録で十分」と抵抗が発生。

「見た目で分かる」「経験則が頼り」という意識が根強く、「IoTで工程変動を見える化」する本来の目的が理解されないまま、現場でデジタル設置が空回り。

結局、重大な逸脱が紙帳票の見落としによって発覚が遅れる(逸脱発生→判明まで半日ロス)等、本当に守りたい品質やトレーサビリティが確保できていませんでした。

アナログ管理の根深さと、現場意識のアップデートの重要性——この二つの“壁”を越えること抜きに、日本のものづくり改革は進まないという象徴的な事例です。

失敗を“最適設計”に活かすアプローチ

1. バラツキ・環境変動まで想定する工程条件設計

樹脂材料ロット差、形状ばらつき、設備の環境変動…。

これらに強いレーザー樹脂溶着工程を作るためには、以下の点を重視すべきです。

– 初回条件出し時、極値テスト(温度・湿度・材料・寸法などのバラツキ幅での接合トライ)を実施し、条件余裕度を必ず作る
– バラツキを元に「ウィンドウマネジメント」(最適条件範囲管理/定期チェック・修正フロー)を体系化する
– 材料仕様・メーカーを調達部と初期段階から「共創設計」し、サプライヤー管理基準も見直す

バイヤー視点でも、「コストだけでなく、溶着性という品質因子を含めたサプライヤー評価基準」へと進化させるべきです。

2. IoT/デジタル活用で工程変動“即時検知”へ

現場の工程パラメータ(レーザー出力、速度、治具温度、ライン速度等)をセンサーデータとしてリアルタイム管理。

計画外の偏差・逸脱が起きた時、誰でもすぐにアラートを出して手当できる仕組み作りが重要です。

単に“データを集めて終わり”ではなく、「現場に直結したフィードバック」(自動補正フロー、熟練者によるパトロール、残存課題の見える化など)まで落とし込まなければ、単なる“現場のブラックボックス化”に陥りかねません。

3. 樹脂材料開発と購買・バイヤー職の変化

レーザー樹脂溶着の成否は、「どこから・どの材料を調達するか」で8割決まる。

こう言い切ってもよいくらい、材料開発力・調達設計力がカギを握ります。

– 調達人材は「コストバイヤー」から「スペック・品質バイヤー」へと意識を切り替え、溶着適性を含めた複数サプライヤー評価力を磨く
– 材料メーカーと共同で“レーザー適合性評価”を初期スクリーニングに組み込む
– バイヤーが現場(開発、生産)とタッグを組み、「調達も設計のうち」へ思考をシフトする

サプライヤー視点でも、「納入した材料が現場溶着プロセスにどう影響するか」を意識した“提案材料”の開発が差別化要素になります。

まとめ:現場×設計×調達 “三位一体”で未来を開く

レーザー樹脂溶着の世界では、単なる設備導入や条件出しで未来は拓けません。

大切なのは、“失敗事例”を組織の財産に変え、工程設計〜材料選定〜現場管理の「三位一体」オペレーションを根付かせること。

現場で見聞きした多数の失敗も、そこから深く学ぶ風土——ラテラルシンキング的な「別の視点」「根源原因への問い直し」が成長を促します。

バイヤー・サプライヤー・製造現場という従来の縦割り意識を超え、「ものづくりの全体最適」を志向する“新しい現場力”こそ、雷のごとき変革をもたらすはずです。

そして、進化するレーザー技術を味方につけ、効率化・高品質化・トラブルゼロに挑戦する現場こそが、次代の“勝てる製造業”を切り拓いていきます。

現場の叡智と実践知を、これからも惜しまず共有していきたいと思います。

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