荷主都合の急な配送依頼が運送会社離れを加速させる

はじめに：製造業と物流の深い関係

製造業における物流は、単なる「運ぶ」だけの機能にとどまりません。

調達・購買、生産、販売のサイクル全体を繋ぐ血管のような存在です。

しかし、昨今の物流業界では、運送会社が荷主から距離を置き始める「運送会社離れ」という現象が顕著になっています。

特に、荷主側の急な配送依頼がその大きな要因となっており、その影響は製造現場やサプライヤー、バイヤーにも波及しています。

本記事では、現場目線で課題を分解するとともに、昭和型の古い商慣習から脱却するためのヒントを提示します。

荷主都合の「急な配送依頼」がもたらす混乱

物流現場はなぜパンクするのか

かつては密な人間関係や現場対応力で「なんとか回してきた」物流現場も、今日では限界に達しています。

荷主からの「至急届けてほしい」「今日中に何とかならないか」といった急な依頼は、運送会社の配車計画を根本から揺るがします。

運転手の残業・待機時間が膨らみ、非効率なルートが増加することで、コスト上昇やサービス品質の低下を招きます。

運送会社から「選ばれない」荷主へ

物流業界を取り巻くドライバー不足や2024年問題（働き方改革関連法の影響）などにより、運送会社が「断る権利（選別権）」を強めています。

運送会社は「安定した発注」「無理なスケジュールが無い」「荷待ち時間が短い」荷主を優先するようになっています。

結果として、急な依頼や無茶な要望を繰り返す荷主ほど「敬遠される」傾向が加速しているのです。

バイヤー・メーカーに求められる物流リテラシー

調達購買や生産管理に携わるバイヤーは、従来「納期が守られればいい」「コストが最安であればいい」と考えがちでした。

ですが、物流はサプライチェーン全体のリスク管理の視点で捉える必要があります。

荷主都合を物流現場に押し付けるのではなく、その負荷や業界動向を正しく理解することが、これからのバイヤー像には欠かせません。

なぜ、昭和型のアナログ商慣習が物流DXを阻むのか

FAX・電話・口約束が生む不確実性

多くの製造業が今なお、FAXや電話によるアナログな配送依頼や、現場判断に任せた「口約束配送」が主流です。

このアナログな業務フローは、急な変更や伝達ミス、スケジュールの混乱を招きやすく、運送会社の負荷をさらに押し上げます。

「なんとかしてくれる」時代の終焉

昔は「顔の見える関係」で無理が通る場面もありました。

しかし、ドライバーの高齢化や労働時間制限、法令遵守が厳格化された現代では、属人的な対応や「人情任せ」のシステムは完全に限界を迎えています。

運送会社も、利益を損なう荷主対応を減らし「選別」の動きを強めざるを得ません。

業界全体で進む「デジタル化」への遅れ

荷主企業のIT化・自動化の遅れは、結果的に物流のブラックボックス化と非効率さを生み出しています。

配送オーダーの電子化、進捗状況の可視化、スロット予約などの仕組みを採り入れることは、今や避けて通れない課題です。

荷主都合が発生する製造現場のリアルと課題

生産変動・緊急受注の現実

急な配送依頼が生じる背景には、実際に「急な受注変動」や「生産トラブル」「資材調達遅延」など、製造現場ならではの事情もあります。

しかし「イレギュラーだから仕方ない」「現場判断で対応できるだろう」という、昭和的な考え方に甘えるのはリスクが高まっています。

調達・生産・物流が連動できていない問題

多くの現場では、調達部門、生産部門、物流部門がそれぞれ別のKPIで動いており、全体最適より「自分の部門最適」で意思決定されがちです。

調達納期遅れ→生産変動→急な出荷、という悪循環が「急な配送依頼」を頻発させ、運送会社から見放されやすい状況を生み出しています。

バイヤーが持つべき視点の変革

荷主としてバイヤーは、「物流現場は自社の一部」というマインド転換が重要です。

自社が放つ無茶な依頼が、自社物流パートナーやサプライチェーン全体の信頼を損なうかもしれません。

物流業務の標準化・計画化に現場判断を巻き込みながら、業務プロセス改革を推進する力が今こそ求められています。

物流業界の新潮流と荷主企業のあるべき姿

配車システム・TMS・物流プラットフォーム

最近では、配車や配送指示をリアルタイムでデジタル管理するTMS（輸配送管理システム）が普及し始めています。

また、複数の運送会社と荷主を繋ぐ物流プラットフォームの利用も拡大中です。

これらデジタル基盤を使うことで、急な配送依頼の発生頻度自体を抑え、発生時にも情報共有・調整の手間を最小化できます。

「急な配送」が本当に必要かを再定義する

すべてを「納期厳守」にこだわるのではなく、誤差や調整可能な案件を分類し、「本当に即日輸送すべきか？」を一度立ち止まって検討する視点も重要です。

「リードタイムのゆとり設計」「在庫の適正配置」など、全体最適のための構造改革が必要です。

選ばれる荷主になるためのアクション

今後、運送会社に選ばれる荷主企業となるためには、以下のポイントが欠かせません。

• 計画的な配送スケジュールの立案・共有
• デジタル化によるオーダーの可視化・自動化
• 荷待ち問題（ドライバーの待機時間）を解消する工場オペレーション改革
• 相互信頼に基づくパートナー関係の構築

これらの積み重ねが、長期的にはサプライヤー・バイヤー双方の価値向上と、物流現場の安定化に繋がります。

まとめ：物流パートナーシップの新たな地平へ

荷主都合主導の急な配送依頼は、かつての製造現場では当たり前とされてきました。

しかし、物流の社会的価値や現場の実態を踏まえると、もはや時代遅れの発想です。

「選ばれる荷主」になるには、昭和型アナログ思考を脱し、サプライチェーン全体の構造改革に本気で取り組むことが必要です。

調達・生産・物流の部門横断で、デジタル化や計画化を加速させ、パートナーシップ型の関係を築く力が、これからの製造業の強さを決めていきます。

今こそ現場と向き合い、「急な配送が不要な体質」への進化を目指して、一人ひとりが変革のキーパーソンとなりましょう。