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海外における最新化学物質規制とその対応ポイント

目次
はじめに:グローバル化する化学物質規制の重要性
製造業の現場は、昭和の高度経済成長期に培われたアナログな業務が今なお根強く残っています。
一方で、世界は急速に変化し、化学物質の取り扱いに関する規制も毎年のように強化・複雑化しています。
いまや多国籍に材料や製品を調達し、サプライチェーンの枠組みでビジネスを進めることが主流です。
この中で各国の化学物質規制を把握し、即応することは、調達・購買、生産管理、品質管理、そして工場の現場全般にとって、決して避けて通れない課題になっています。
本記事では、実務経験をもとに、現場で役立つ化学物質規制の最新動向と、その対応ポイントを解説します。
また、これからバイヤーを目指す方や、サプライヤー視点でバイヤーの考えを知りたい方にもヒントを提供します。
化学物質規制の基礎:なぜ対応が急務となるのか
規制強化の背景と現実
ここ十数年で、化学物質の規制はグローバルに急拡大しました。
EUのREACH規則やRoHS指令、アメリカのTSCA改正、中国の新化学物質環境管理規則(中国版REACH)、ASEAN地域における統一規制EFRなど、各国ごとに独自の規制があります。
これらは原材料や部材だけでなく、最終製品の含有物質、製造工程で使用する化学薬品にも及びます。
そのため、「現場で使っていた材料が、明日から使えなくなる」「出荷後にリコールや回収指示が来てしまう」といった事態も現実のリスクです。
サプライチェーン全体の信頼にも直結し、大手企業では「化学物質情報管理体制の有無」が取引条件や審査項目に組み込まれるケースも増えています。
“昭和的発想”がもたらす落とし穴
古き良き時代の現場では、材料選定や工程管理は熟練者の経験値で決断されてきました。
しかし現在は「なぜこの材料を使うのか」「この加工工程でどんな化学物質が使われているか」を文書化し、根拠を提示することが求められます。
「昔から使っているから大丈夫だろう」という思い込みが、CSRや法令順守の観点では通用しなくなったのです。
結果、思わぬ不適合や出荷停止リスクに直面する現場が急増しています。
海外主要地域の化学物質規制と動向
EU(欧州連合):REACH規則および最新動向
REACH規則は、EU域内で1トン/年以上の化学物質を製造・輸入する場合に適用される包括的なルールです。
“サプライチェーン全体での情報共有・リスク管理”が求められ、SVHC(高懸念物質)や認可・制限物質のリストは随時更新されます。
2024年現在、PFAS(有機フッ素化合物)規制強化や、ナノマテリアルに関する新しい通達も打ち出されており、電子部品や樹脂材料など幅広い影響が懸念されています。
アメリカ:TSCAおよび州ごとの新規制
TSCA(有害物質規制法)は2016年に大幅改正され、新規化学物質はEPA(環境保護庁)による厳格な審査対象となりました。
加えて、カリフォルニア州は独自のプロポジション65(有害化学物質警告表示)を持っており、製品への警告ラベルや成分申告が必須です。
また、PFASや難燃剤、可塑剤の規制が州ごとに追加されていく傾向があります。
中国・アジア各国の規制強化
中国は2021年、新化学物質環境管理規則を施行し、既存化学物質リストや届出義務が大幅に変更されました。
また、中国のGB規格や台湾のTCSCA、韓国のK-REACHなど、各国で独立した規制体系が存在します。
ASEAN地域では、“ASEAN-JR化学物質リスト”策定の動きがあり、タイ、インドネシア、マレーシアでも個別の法令アップデートが目白押しです。
新興国市場の独自要件拡大
インドやブラジル、トルコは、EU REACHを模倣した法規制の導入・拡張を加速しています。
サプライチェーンのグローバル化に伴い、納入先が新興国に広がるほど、ローカル法にも目を配る必要が強まっています。
現場が直面する「本当の課題」とは
規模・業種で異なる“情報ギャップ”
大企業では、多くのリソースを投入して法規対応専任部署や情報管理システムを持っています。
一方、多くの中小企業は「ISOのついででデータ整理」「担当者が調べ物しながら手探りで対応」というのが実情です。
また、加工部品メーカーやアセンブリ業者は「自社で化学薬品を直接使っていないから関係ない」と考えがちですが、部材に含有される成分や“わずかな不純物”が規制に抵触するリスクが増大しています。
多層サプライチェーンによる“追跡困難”
自社→一次仕入先→二次仕入先→海外下請けのように分業化が進むほど、流通経路のどこかで情報が途切れがちです。
「成分表がもらえない」「担当者によってデータの形式がバラバラ」「最新版かどうかわからない」といったトラブルが日常的に起こります。
最終的な規制責任は、“完成品を市場に出す側”にあるため、現場の調達・購買担当は根気強く情報を集め、記録を残す主体性が求められます。
最新規制への対応ポイント(実践的アプローチ)
(1)材料・部材選定段階からの“規制情報チェック”
材料を新規採用する際は、“成分含有証明書”“SDS(安全データシート)”“SVHC対応証明”など関連ドキュメントを必ず入手し、既存の法令・業界規格との整合性を確認することが必須です。
「ベテラン担当者による裏取り」だけでなく、規制リストを毎年アップデートする仕組みを社内に根付かせることが重要です。
(2)サプライヤーへの規制内容説明・教育
下請け企業や部品サプライヤーも規制の当事者です。
とくにアナログな現場では、「何をどう伝えればよいかわからない」と悩む声が多いですが、「主要規制(REACH、RoHS、PFASなど)」の頻出リスト、「非含有証明書の書き方」「SDSの最新作成方法」のように、具体的なテンプレートや見本事例を交えて教育するのがポイントです。
また、言葉だけでなく、「なぜ対応が必要なのか(失注や損害リスク)」も数字や体験談で伝えると納得度が高まります。
(3)ITツール・データベースの積極活用
近年は化学物質管理専用のSaaSソリューションや、サプライチェーン追跡システムが普及しています。
「Actio」「Chemwatch」「SAP S/4HANA for Product Compliance」といったグローバル対応のデータベースは、日本企業でも導入が進みつつあります。
小規模企業でも、「Excel+クラウドストレージ」「TeamsやSlackによる情報共有」など、まずは小さな一歩から始めることが“事故ゼロ”につながります。
(4)現地法規の最新動向チェック
定期的に海外関連法規を日本語で速報してくれる情報サービス(日経テレコン、Statista、各国大使館・商工会議所の公報等)を活用しましょう。
特に北米・欧州向け製品では「次にどんな物質が規制対象になるか(POPs、難燃剤、マイクロプラスチック等)」を先取りすることで、自社の製品設計・工程変更を余裕をもって進めることが可能です。
販売・輸出の現場が取るべき“予防的アクション”
各国規制情報の「都度レビュー」と「品質記録の保全」
製品出荷前に、最新法規に適合しているかを都度確認し、出荷判断記録を残しましょう。
「一度集めたから終わり」ではなく、「法令改訂の都度、再レビュー」「不適合情報の即時共有」を日常業務の中に組み込みます。
また、万一問題が発生した場合でも、いつ、誰が、どの情報に基づいて決定したか証跡を残しておくことで“正当な企業活動”を説明しやすくなります。
教育と意識啓発の継続推進
現場の作業者やエンジニア、購買担当者全員が「自分ごと」として規制対応を捉えるには、定期的な社内研修、外部セミナー、事例共有が効果的です。
技術的な知識だけでなく、「過去に実際に失敗した事例」「顧客の苦情から分かった運用ミス」など、“リアルな体験談”が伝わりやすいポイントです。
アナログ体質を打破するために:ラテラルシンキングの勧め
製造業界は、長年の経験値や現場力こそ競争力の源泉でした。
しかし、化学物質規制のように“予測不能・頻繁な変化”が求められる分野では、既存の枠組みを超えた発想転換(ラテラルシンキング)が必要です。
例えば、「材料メーカー同士での情報共有会をつくる」「調達先を巻き込んだ横断型プロジェクトを立ち上げる」「若手×ベテランの混成チームで課題を洗い出す」など、専門職の壁を越えた連携・学習が最強の武器になります。
また、「他社事例・異業種の取組」「海外現地担当とのWeb座談会」にも積極的に参加してみましょう。
<深く深く考える>ことで、自社の新たな対応力と改善ノウハウが生まれます。
まとめ:製品力=“法令順守対応力”の時代
海外における化学物質規制が厳格になる中で、調達、品質、生産、営業といった複数部門の“共創的対応力”がすべての製造業に必須となっています。
昭和の時代の「個人芸」頼みから、「見える化・データ整備・チーム戦略」へのシフトが、国際競争力と成長を左右します。
バイヤーを志す方も、サプライヤーの立場で顧客要求を深く理解したい方も、最新の規制知識+現場の体験知+IT活用を融合し、「現場発のグローバルサプライチェーン対応」を目指してください。
化学物質規制への適応力が、次世代製造業の大きな競争優位となります。
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