投稿日:2025年6月27日

自動車軽量化を実現する成形加工と接合技術の最新動向と製品応用事例

自動車軽量化を実現する成形加工と接合技術の最新動向

近年の自動車業界は、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の波に押され、車体の軽量化がこれまでにないほど重要なテーマになっています。

燃費向上やEVの航続距離延伸、さらにはカーボンニュートラルへの対応といった社会的要請の中で、「軽く、強く、安く」が合い言葉となり、材料・成形・接合の技術革新が同時多発的に進行しています。

現場で長年、調達や技術開発、生産立ち上げに携わってきた私の経験を交えて、最新の成形加工および接合技術、それらを活かした製品応用事例を紹介します。

また、昭和時代から「やり方を変えたくない」保守的な現場が多いアナログな製造業界で、どのように変革が進んでいるのか、バイヤーやサプライヤーの目線も織り交ぜて深く掘り下げていきます。

なぜ今、自動車の軽量化がここまで重要視されるのか

自動車の軽量化は、一言でいうと「走る・止まる・曲がる」、すべての性能向上に直結します。

軽量化はガソリン車では燃費向上に、そして電気自動車(EV)においてはバッテリー容量の制約から“航続距離”の延伸という喫緊の課題に直結します。

また、車両重量が減ればタイヤやブレーキへの負担も軽減され、安全性向上や消耗品の寿命延長といった副次的なメリットも生まれます。

そのため、各自動車メーカーも材料選定、生産工法、設計思想からサプライヤーとの協業の在り方まで、全面的かつ抜本的な見直しが強く求められているのです。

成形加工技術の進化と現場での実践例

高張力鋼板(ハイテン)の普及とその課題

まず、ここ数十年で成形技術の花形となったのが高張力鋼板(ハイテン)の採用拡大です。

従来の鋼板に比べて同じ厚みでも格段に強度が高いため、板厚自体を薄くでき、結果として車体全体の大幅な軽量化に寄与しています。

しかしハイテン材は、「成形しづらい・割れやすい・スプリングバックが大きい」といった加工現場の難題も。

昭和型プレス工場で慣習的に使われてきた加工条件や金型設計だけでは、クオリティと再現性が安定しないことも珍しくありません。

最新動向ではCAE(コンピュータシミュレーション)を活用した金型設計の精緻化や、金型の冷却制御・潤滑剤改良などにより、物理的限界を押し広げる工夫が進んでいます。

購買・調達担当としても、サプライヤー選定の際は“同じハイテンでも成形ノウハウの深さ”に注目するバイヤー視点を持つことで、差別化が図れます。

アルミや樹脂の一体成形による部品最適化

燃費規制が厳しくなった2010年前後から、アルミニウムや樹脂・CFRP(炭素繊維強化樹脂)が急速に拡大しています。

足回りやボディ部品、さらにはEVのバッテリーケースなど、従来鉄しか使われなかった部位への応用が進んでいます。

一例としてアルミ押し出し材の三次元曲げ加工、樹脂インジェクションと金属インサートによるハイブリッド成形など、「異材一体化」の流れが現場に根付き始めました。

ニッパチ世代(昭和後期)の現場では「鉄じゃなきゃダメ」といった声も根強く残っていますが、ハイテン、アルミ、樹脂の三本柱が新たな常識となりつつあるといえるでしょう。

IoT・AIを活用した成形現場のDX推進

近年の特徴的な動向として、IoTやAIの活用による“見える化・自動化”が加速しています。

プレスや成形のラインにセンサーを多点設置し、「成形圧力」「金型温度」「材料ロット差」などリアルタイムデータを取り、AI解析する事例が増えてきました。

これにより、従来は“職人の経験”に依存していた微調整作業やトラブルシュートも可視化され、“標準化”された生産品質の実現が近づいています。

バイヤーや購買職にとっては「成形現場のDXレベル」がサプライヤー選定ポイントとしてますます重要になります。

接合技術の進化とマルチマテリアル構造への対応

スポット溶接から新しい接合技術へのシフト

車体軽量化の成否を握るのは、単なる材料置き換えだけではありません。

異種材料化が進む中で、従来のスポット溶接が使えない場面や、強度・耐久性・コストのバランスに悩む場面が増えています。

この10年、ホットスタンピング鋼板の「レーザースポット溶接」や、アルミ・鋼板・樹脂を組み合わせる「構造用接着剤」「リベット接合」「摩擦攪拌接合(FSW)」など、多様な工法の開発・採用が急増しました。

特にホワイトボディ(無塗装の骨格部品)では、「構造用接着剤+スポット溶接のハイブリッド接合」が、グローバルメーカーの標準となりつつあります。

現場では初期不良の低減やリワーク削減にも直結しており、生産性と品質確保の両立に貢献しています。

バイヤー・サプライヤー目線で見た接合技術の競争力

昭和型の購買の場合「単価」「納期」「リードタイム」重視が根強いですが、最近では“接合技術力そのもの”が明確な選定指標となっています。

例えば大手サプライヤーでは、材料メーカーや接着剤メーカーと一体となってシミュレーション、テストピース評価、CAE解析などを展開。

「設計〜試作〜量産」までの総合力の有無が供給網全体の強靭化・QCD向上(品質/コスト/納期)に直結します。

下請けが単純な溶接作業だけしか持っていない場合、技術レベルや安定供給に不安が残りますが、新興企業でも異種材料接合の独自ノウハウを持っていればWIN-WINなものづくりが可能です。

バイヤーや購買担当者は“提供できる技術の幅”と“先進事例の有無”を意識したサプライヤー選びが求められています。

製品応用事例:現場のリアルな変化

EVバッテリーケース:アルミ・CFRP一体化

今や各OEMの主戦場となっているEVバッテリーケース。

従来は鋼板が主流でしたが、強度と耐腐食性・EMC対策のバランスから、アルミやCFRPの一体構造が主流になっています。

ここでは摩擦攪拌接合(FSW)や、接着剤+ボルトハイブリッドの工法、さらには三次元計測とAIフィードバック制御を活用したインライン検査が現場で根付きつつあります。

ステンレスとのセミアクティブ溶接技術など、これまでの常識とは一線を画すアプローチが多数見られます。

ボディパネル:ホットスタンプとハイブリッド接合

Cセグメント以上の車種では、側面衝突や剛性確保が重要となるため、従来の冷間プレスに加えホットスタンプと高強度鋼板の組み合わせが急拡大。

部分的に厚みを変える「テーラードブランク」や、「構造用接着剤とスポット溶接のハイブリッド」など、部品形状や要求仕様ごとに最適な成形・接合法を現場で使い分けています。

この結果、設計段階から「どの工法で・どのコストで・どの品質レベルを担保するか」という部門横断型の議論が増え、バイヤーも設計・品質担当と連携した調達戦略が重視されています。

足回り・シャシ:鍛造アルミ・複合材活用

足回り部品やシャシにも、鍛造アルミや複合材インサートの事例が増えています。

鍛造の繊維流動模様や射出成形による補強リブ最適化など、極限まで無駄を省く発想が現場主導で加速中。

ここではCAEや材料解析、NDT(非破壊検査)・デジタルツインに基づく設計/検証のサイクルが業界トレンドとなっています。

昭和の現場マインドを超えるために必要なこと

現場目線で変革に挑む姿勢が必須

「やり方を変えたくない」「今まで通りのやり方が一番」と言い続けることは、すでに競争力の低下と直結しています。

デジタル技術や新材料・新接合工法の導入には現場の抵抗がつきものですが、現場こそ最前線で体感し、小さな“成功事例”を積み重ねることが変革のカギになります。

職人の勘や長年のノウハウもデジタルツールで標準化し、ヒューマンエラー低減や省力化、技能伝承の新たな形へと昇華できる時代です。

技術開発・調達・品質・現場一体でのPDCA遂行

材料、成形、接合、設計…分業が進んだ大型組織でよくあるのが、部門間の壁。

昭和から続く「縦割り組織」を壊し、設計・技術・生産・調達・品質保証が一体となって裁量を発揮することが、今新しい競争力を生み出します。

サプライヤー側も、単なるコストダウン以上に、技術提案や一気通貫の試作対応などの総合力が評価対象となる時代です。

バイヤーは“調達コスト”だけでなく“調達先の技術支援力”までも吟味し、購買戦略の武器にしていく必要があります。

まとめ:自動車軽量化の未来は現場の創意工夫が切り拓く

自動車の軽量化は成形加工や接合技術の進化なしには語れません。

そして、競争の主役は「大企業」だけでなく、「中小企業」「町工場」「新興サプライヤー」など多様な現場力に支えられています。

時代遅れと思われがちな昭和型ものづくり現場も、生き残るために工夫を重ね、新技術と現場力を組み合わせて新次元の価値を提供しています。

今後バイヤーやサプライヤー、現場技術者を目指す方も「変化を恐れない・挑戦し続ける」姿勢こそが軽量化競争を勝ち抜く最大の武器になるでしょう。

現場の皆さんが一歩踏み出すきっかけとなれば幸いです。

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