投稿日:2025年10月27日

カフェが自社マグを販売する際のEC立ち上げと配送手配の実務

はじめに:カフェが自社マグを販売する新たな潮流

コロナ禍をきっかけに、飲食業界では新しい収益源を模索する動きが加速しています。
中でもカフェが自家製マグカップ(自社マグ)をオリジナル商品として販売し始めるケースは、その代表格と言えるでしょう。
単なる物販ではなく、ブランドイメージやカフェの世界観をカタチにして届ける、ファンビジネスの要素を持った事業展開です。

本記事では、製造業目線からカフェが自社マグのECを立ち上げ、配送手配などの実務をどのように構築していけば良いかを解説します。
デジタルとアナログが未だ混在する物流現場や、なめらかな購買体験を提供するためのポイントについても掘り下げていきます。

自社マグ販売の成功に必要な3つの視点

1. ブランド体験の設計:商品コンセプトとターゲットの明確化

ECで販売する自社マグは、単なる「モノ売り」ではありません。
マグのデザイン、材質、容量や形状も、カフェの世界観やブランドメッセージを端的に表現します。
たとえば「居心地が良い」カフェなら、手触りや温かみを重視したセラミック素材、コーヒーの香りが引き立つ形状にこだわるべきです。

ターゲットを具体的に想定し、なぜそのマグを使いたい(ほしい)と思ってもらえるのか、ストーリーや使用シーンを商品説明やSNSで語ることがポイントとなります。

2. EC立ち上げ:AからZまでの設計

カフェがECに挑むには、多くの検討事項があります。
どんな販売チャネルがあるかをおさらいしましょう。

  • 自社サイト型EC(Shopify、BASE、STORESなど)
  • モール型EC(楽天、Amazon、Yahoo!ショッピング など)

「自社サイト型」はブランド体験を構築しやすい一方、集客の難易度が上がります。
一方、「モール型」はすでに集客力がありながらも、ブランド差別化や手数料コストが課題となります。

おすすめは二段構え
まずは低コスト・手軽なモール型で商品開発・販路をテストし、反響が得られた段階で自社サイトを本格稼働させるという流れです。
特にカフェの場合、既存の顧客リスト(店頭での購入者・SNSフォロワー等)を自社サイトへ誘導できるかが成功のカギとなります。

3. 受注・在庫管理・顧客対応の基本フロー

受注から配送、在庫管理まで一連の「オペレーション」をどう構築するかも重要です。
昭和~平成の「伝票文化」が根強く残る現場も多い物流・倉庫業界ですが、ECでは全体像を自動化・統合することが求められます。

  • 受注システム(ECカート側の注文情報)
  • 在庫管理システム(WMSなど)
  • 配送管理(送り状発行・追跡番号の自動連携)
  • 顧客管理(アフターサポート・問い合わせ対応など)

BASEやShopify、STORESでは最低限の受注~在庫連携は標準搭載されています。
しかし、商品点数や受注数が増えてきた場合、外部のWMS(倉庫管理システム)や受注一元管理サービス(ロジレス、ネクストエンジン等)の導入で効率化する必要があります。

配送手配の実務:現場目線で考える4つのポイント

1. 出荷形態:バラ出荷 or まとめ発送の検討

自社マグは多くが陶器・磁器製で割れ物です。
発送個数が少ない場合は店舗からの「バラ出荷」も可能ですが、注文が増えると倉庫や発送代行会社の利用が現実的になります。

導入初期フェーズでは店頭スタッフによる梱包~出荷、および近隣配送業者(ヤマト運輸・佐川急便等)との契約でスタートし、その後倉庫一括発送へ段階的に移行するのがセオリーです。

2. 梱包と破損対策:「現場目線」の工夫が差を生む

輸送中の破損クレーム防止のため、梱包資材の選定は絶対に妥協してはいけません。
マグ本体+緩衝材(エアキャップ・ウレタン・パルプモールドなど)+二重包装などを徹底することで、破損率を限りなくゼロに近付けます。

また、”開けたときの体験”も忘れてはなりません。
開封時にブランドロゴ入りのカードやストーリーカード、手書きのサンクスメッセージを添えるだけでリピーター率は大きく向上します。

3. 配送会社の選定と送料設計

個人向けECの場合、「ヤマト便(宅急便コンパクト・宅急便60)」か「日本郵便(レターパック・ゆうパック)」の利用が主流です。
マグ単体の場合は宅急便コンパクトがベストバランス。

企業規模が大きくなれば佐川急便、福山通運など宅配大手と直接価格交渉し、「法人契約」による送料ディスカウントも狙えます。
ここも昔ながらの”一見バイヤー”ではなく「パートナー」の立場で物流会社を口説くこと、日々の現場改善提案が差別化ポイントです。

4. 発送リードタイム:リアルとECのギャップを埋める

EC利用者が最もストレスを感じるポイントが「発送の遅延」です。
カフェの場合、普段の業務で人手が限られ、梱包や発送が後回しになる危険があります。

午前注文は当日出荷、午後注文は翌営業日出荷など、出荷ルールを店舗・スタッフ内で”見える化”し、土日祝のイレギュラー対応有無もきちんと明記しましょう。
CRM(顧客管理ツール)や簡易なチャットツールの活用で、現場の属人化リスクもカバーできます。

昭和文化が根付く業界動向の中で、新しい地平線を開くには

「標準化」と「カスタマイズ」のせめぎあい

ECに慣れていない現場では、発注~出荷の全フローを属人的・手作業で行いがちです。
手書き伝票、電話・FAX注文に依存し、現場スキルに頼る考え方はまだまだ根強いのが現実です。

<解決策>
できる範囲でデジタル自動化(在庫、送り状発行、受注確認メールの自動化など)を取り入れながらも、カスタマイズ(手書きメッセージや独自の梱包工夫)は現場スタッフの”顔”として残す。
こうした「標準化」と「カスタマイズの融合」こそが、機械では生み出せないブランド価値の源泉になります。

6S(整理・整頓・清掃・清潔・躾・安全)とDX(デジタル変革)の共存

EC物流も結局は現場の”泥臭さ”が土台を支えます。
商品在庫の整理・ロケーション管理、配送遅延時の丁寧なフォロー、突発クレーム時の協力的な判断…。

製造現場出身だからこそ語れるのは、「デジタル化は魔法ではない」ということです。
アナログ業務を否定せず、6S活動、現場の問題発見力、段取り力を生かしながらデジタルのよいとこ取りをする現実主義が、カフェ現場にも求められるでしょう。

サプライヤー・バイヤー目線を理解するために

仕入れ先との信頼構築=バイヤー発想の重要性

マグの仕入れ先(陶磁器メーカー・OEM工場)に対しては、卸価格だけで選ばず「どれだけ小ロットに柔軟に応じてくれるか」「納期やサンプル対応が誠実か」といった実務レスポンスこそ重視しましょう。
伝票作業や問い合わせのたびにバイヤー・サプライヤー双方が不安や不満をためないよう、現場同士のフラットなコミュニケーションも大切です。

製造現場出身者として伝えたいこと

大量生産ではなく、小ロット・多品種・短納期が求められるこれからのものづくり。
製造業、流通、サービス各社が「現場の変化力」を高め、カフェのブランド力と掛け合わせられるかが今後の生き残りを左右します。

まとめ:カフェのEC立ち上げ~配送手配 実務における心得

カフェの自社マグECは、単なる副業やグッズ販売ではなく、ブランドの”もう一つの顔”をつくる挑戦です。
現場の泥臭さとデジタル効率化をバランスよく組み合わせ、アナログ強者の業界でも新しい風を“ちゃんと吹かせる”こと。
それは実は、製造業の工場長として現場を支えてきた私が、最も現場に伝えたい価値観です。

これから自社マグをEC販売するカフェ運営のみなさま、ぜひ現場目線での”納得のいく仕組み”作りにトライしてみてください。

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