投稿日:2025年11月27日

OEMパーカーでブランドを立ち上げる時に押さえるべき法律と商標

はじめに:OEMパーカーでブランドを立ち上げる時代の到来

日本のファッション業界では、近年、OEM(Original Equipment Manufacturer)でオリジナルブランドのパーカーを立ち上げる企業や個人が急増しています。

これは、SNSによる発信力やECサイトの普及で、誰もが手軽に自分のブランドを持てる時代に突入したからです。
しかし、OEMによるブランド立ち上げは「作れば売れる」という単純なものではありません。

生産背景の構築、品質の担保、そしてなにより法律と商標を正しく理解しなければ、思わぬトラブルに巻き込まれるリスクがあります。

ここでは、20年以上製造業の現場で培った管理職の視点から、「OEMパーカーでブランドを立ち上げる際に必ず押さえておくべき法律と商標」について、現場のリアルと実践的ノウハウをお伝えします。

OEMパーカーとは?現場視点で考えるその成長背景

OEMの意味と、パーカーをOEMで作る理由

OEMとは、他社が企画・販売する製品を自社で設計・製造する生産形態です。
アパレルにおいては、販売したい企業や個人(ブランドオーナー)がアイディアやデザインを提示し、製造自体はパートナー工場(OEMメーカー)が行います。

パーカーは、シンプルな構造、トレンドを問わない需要、高単価化のしやすさという特性から、OEMによるブランド立ち上げの最初の一歩に最適なアイテムです。

SNS&EC時代のブランド立ち上げブーム

昨今は、InstagramやX(旧Twitter)、YouTubeなどで発信してフォロワーを集め、ECサイトで直販する「D2Cモデル」が定着しています。
これにより、資本力や店舗が無くても、熱烈なファンの支持さえあればブランドが成立する土壌が整いました。

反面、業界経験が浅いまま「ブランド立ち上げ」に挑む人も増え、法的トラブルや模倣品リスクが社会問題化しています。

OEMパーカーで押さえるべき法律:意外な落とし穴に注意

1.商標法:ブランド名やロゴの保護

最初に強く意識すべきは「商標登録」です。

商標とは、商品名、ブランド名、ロゴマークなどを法律で独占できる知的財産です。
未登録のままブランドを販売し始めると、すでに同じ・類似の商標を他社が登録していた場合、「差止め」や「損害賠償」を請求される恐れがあります。

また、人気が出た時に「あなたのブランド名はうちが先に登録済み」と登録商標を横取り(冒認登録)されるケースも現場では散見されます。

ブランド企画段階で商標情報プラットフォーム「J-PlatPat」などで事前調査を行い、被りそうなものは使わないのが鉄則です。
ヒットを期待するブランドなら、立ち上げ時点で必ず特許事務所等に商標登録を行いましょう。

2.意匠法・特許法:デザインや新機能が鍵の場合

パーカーは、独自の形状(例:特殊なジップ、テープ使いなど)や機能(例:特殊素材、防水加工など)を強みにするケースも珍しくありません。

形状に特徴がある場合は「意匠権」、技術的新規性がある場合は「特許権」で保護が得られます。

たとえば某有名スポーツブランドは、パーカーのジップ開閉方法やフード構造で意匠・特許を多数取得し、競合他社の模倣を徹底して排除しています。

デザイン性・機能性を強みとするなら、単なる商標だけでなく、意匠権・特許権も弁理士などと連携し取得を検討しましょう。

3.不正競争防止法:模倣・誤認表示のリスク

有名ブランドに酷似したデザイン、名称やロゴ、パッケージを用いる場合、不正競争防止法違反となる場合があります。

特に狙いやすい「◯◯風」「◯◯に似せた」の設計は、想像以上にリスクが高いです。

現場では、そのつもりがなくてもOEM工場が「このブランドによく似ていますが大丈夫ですか?」とストップをかけてくれることもあります。
必ず、デザインや表示について第三者のチェックを仰ぎ、他社への誤認リスクを排除した上で販売を進める必要があります。

4.景品表示法:誇大広告の禁止

素材や機能、原産国などについて誇大な表記や、事実無根の「高機能」「有名ブランドのOEM工場製」などの記載は、消費者庁から行政指導や課徴金が科されるリスクがあります。

OEMパーカーの場合、「日本生産」「オーガニック」などの表記にもエビデンスが必要です。

下請け工場で本当に「日本製造」か、環境ラベルを取得した素材か、現場での書類や証明書の保管が必要です。

OEM先との契約実務と法律トラブル防止策

秘密保持契約・独占販売契約の重要さ

OEMで自社ブランドのパーカーを作る場合、OEM工場側が同じ仕様やロゴで第三者に製造しないよう「秘密保持契約(NDA)」を結ぶことが必須です。

また、人気が出たブランドを工場が勝手に直販したり、他ブランドに流す事例も発生しているため、「独占販売契約」や「供給義務の明文化」も忘れてはいけません。

契約書内容は法的な裏付けが必要なので、弁護士や契約専門家を挟んで自社不利な内容にならぬよう慎重に進めましょう。

知財権の帰属を明確化する

デザイン提案をOEM工場が行い、それを流用して自社ブランド品を作る場合、完成品に関する「知的財産権」の帰属問題が起こりがちです。

契約書・発注書で「デザイン・商標・意匠権すべての権利は発注側に帰属する」と明示しましょう。

曖昧なままで進めると、人気ブランド化した後に「うちのデザインだからロイヤリティ払ってほしい」ともめる要因になります。

昭和的アナログ現場が抱える“落とし穴”の実例

現場のアナログ文化と法律リテラシーのギャップ

製造業、アパレル現場には「口約束」「顔見知り同士で進める」昭和的アナログ体質が今なお根強く残っています。

特に地方工場や小規模OEMメーカーでは「口頭で依頼」「契約書を交わさない」慣習がいまだ多く存在します。

実際、現場の生産管理時代に「メールやLINEでのやりとりだけで、ロゴの流用トラブルが発覚。訴訟寸前まで発展した」というケースを目の当たりにしました。

デジタル化が進展する現代でも、「契約書とエビデンス」の徹底が安全経営のカギです。

ブランド立ち上げ時の知的財産コスト:現場の本音

商標出願のタイミングとコスト

多くの新人バイヤー・ブランドオーナーは「売れてから商標登録」「本格化したら弁理士相談」と考えがちですが、実はこれでは遅すぎます。

なぜなら、多数のスタートアップブランドが雨後の筍のごとく生まれる昨今、ヒットする前にライバルに登録される危険性が非常に高まっているからです。

商標出願(1区分)は数万円、弁理士報酬込みでも10万円前後が目安です。
初期コストに含めて資金計画を立てましょう。

リスク対策は「守りのコスト」ではなく「攻めの投資」

知的財産への意識が弱いまま始めたブランドは、成長機会をみすみす逃し、大手他社に「模倣」として駆逐されるのが現実です。

現場の本音として、ブランドの屋台骨を守るためには「早期の商標登録」と「法的リスクヘッジ」の投資は、必ず売上で回収できる中長期の攻めの戦略と捉えるべきです。

OEMパーカー戦略と現場のラテラルシンキング

法的知識で“昭和的モノづくり”から脱皮する

「良いモノを作れば売れる」という昭和型発想だけでは、現代のグローバル競争を勝ち抜けません。
優れたデザイン、信頼できる工場、そして“守れるブランド”という三本柱が必要不可欠です。

知的財産の基礎を押さえつつ、契約や品質管理までをワンストップで設計する――それが、現場発のラテラルシンキングが導く新しい地平です。

OEM先からの設計上流に入り込み、法務や知財の専門家に多角的に相談することで、既存の業界構造を突破する力が身につきます。

まとめ:OEMパーカー成功の秘訣は「ブランド=知的財産」の確立

日本の製造現場から生まれるOEMパーカーによる新ブランド立ち上げは、単なるモノづくりにとどまりません。

ブランド名、ロゴ、デザインに至るまで「知的財産」として守り、現場ベースの丁寧なリスク管理を徹底することが真の競争力となります。

昭和から続くアナログな現場慣習に留まらず、法律・契約・商標といった“知”の武器を携えて、現場主導の新時代D2Cを切り拓きましょう。

そして、OEMパーカーをきっかけに「ブランド=知的財産」という発想を定着させることで、日本発のモノづくり力をさらにスケールアップさせていけるはずです。

あなたの新ブランドが安心・安全に飛躍するスタートとなることを、現場経験者として心より応援します。

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