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クールマックスTシャツ印刷で昇華防止と通気性を両立するための層構造設計

目次
はじめに:クールマックスTシャツの印刷課題と現場の声
クールマックス素材のTシャツは、速乾性と通気性に優れていることから、スポーツウェアや作業着として年々そのニーズが高まっています。
一方で、その機能性素材にプリント加工を施す際、インクの昇華や通気性の低下といった課題が現場を悩ませています。
特に製造業の現場では「美しいプリント」と「機能性維持」を両立することが要求され、その実現には現場目線の工夫と、既存のアナログな印刷工程の見直しが不可欠です。
今回は、クールマックスTシャツ印刷における昇華防止と通気性を両立するための層構造設計について、現場での実践的なノウハウや最新の動向を交えながら解説します。
クールマックスの特性と印刷時の課題
クールマックス素材とは
クールマックスは、インビスタ社が提供する高機能ポリエステル繊維です。
一本一本の繊維が四つ葉型の断面を持ち、毛細管現象による優れた吸汗拡散性能を発揮します。
その結果、汗を素早く拡散・蒸発させ、常にドライな着心地を保つことができます。
また、従来のポリエステルに比べて通気性も大幅に向上しています。
昇華・にじみの問題
クールマックスはポリエステル素材ですが、従来のポリエステルに比べて繊維内部への染料移行が激しく、昇華インクを用いた昇華プリント時にプリントがにじみやすい特性があります。
そのため、プリント部分の境界がぼやけてしまったり、意図した色より薄く仕上がったりするリスクがあります。
加えて、昇華による色移りや二次昇華による色落ちも現場では大きな課題です。
通気性の低下
プリント加工を施すと、どうしても生地表面がインクや糊で覆われてしまい、生地本来の通気性が失われる場合が多くなります。
特にシルクスクリーン印刷や熱転写プリントでは、インクやフィルムの層が空気の通り道を塞いでしまい、「快適な着心地」が犠牲になる事例が絶えません。
これはいわば、機能性ウェアの価値を大きく損なう問題です。
工場現場での失敗事例と、その本質的な要因
多くの現場でありがちな失敗事例としては、以下のようなものが挙げられます。
(1)通常のポリエステルと同様に昇華転写プリント設備を使い、鮮明なプリントを期待したが、インクが大きくにじんでしまった
(2)シルクスクリーン印刷でラバープリントを採用したところ、プリント部分がゴワつき、着用テストで「蒸れる」「暑い」とクレームが出た
(3)防昇華シートを用いたが、洗濯耐久性が著しく低下した
こうした失敗の根底には、「素材の特徴を深掘りした上での加工設計ができていない」「印刷層の機能分担が曖昧」といった業界構造的な問題があります。
昭和時代から続く『経験則だけによる工程設計』を脱却し、素材→プリント→着用のプロセス全体を最適化するラテラルな視点が必要です。
現場視点による“層構造設計”のアプローチ
クールマックスTシャツにおける「昇華防止」と「通気性確保」を実現するためには、素材とプリントインクのみに着目するのではなく、印刷加工時の“層構造”の最適化が不可欠です。
これは、単なるインク厚管理や版材選定では達成できない、より複合的な視点です。
層構造設計の基本フロー
1. ベース素材(クールマックス)の最適化(織り密度・表面加工)
2. 下地処理(吸汗・拡散阻害しない昇華防止層の構築)
3. 印刷層(通気性を持ち、必要十分な発色性を満たすインクまたはフィルム選定)
4. 残渣の除去工程(プリント工程の残渣や未反応分の洗浄・除去)
この4層構造設計を1工程ずつ“現場試験”を重ねて最適化していくことが、失敗しないTシャツ印刷の鍵となります。
従来との違いは“緻密な層設計”
従来は「とにかくインクで覆えばOK」といった粗い設計が多く、例えばラバーインクでは厚膜で昇華止めを期待する職人気質が根強く残っています。
しかしこの考え方では、通気性が著しく損なわれるだけでなく、印刷層の剥離やひび割れリスクも高くなります。
最新の層構造設計は、*各層が果たす機能を整理し、それぞれを最小限の厚さで最適に積層する*ことが重要です。
実践的な昇華防止×通気性確保の工夫
現場で有効だった具体的なテクニックを紹介します。
1.超微細パウダー系バリアの利用
近年登場した超微細パウダー系の昇華防止下地剤は、一般的な防昇華インクやフィルムよりはるかに薄く、しかも通気性を残したまま昇華をシャットアウトできます。
霧状に噴霧し、熱セットすることで、生地目に沿ったミクロバリア層が形成され、機能性も維持できるのが特長です。
2.メッシュインクによるプリント
通常のラバーインクよりも通気性に優れたメッシュインクを用いることで、昇華防止効果を得ながら生地の通気性ロスを最小化できます。
これは繊維の隙間を埋めすぎない設計がポイントです。
3.昇華防止層のみプリント箇所へ限定塗布
全体にベタ塗りするのではなく、プリント箇所にだけ精度高く防昇華層を設けることで、着心地や通気性への悪影響を局所化できます。
これには精度の高いオートスクリーンやインクジェット塗布装置の導入も有効です。
4.インク経路設計を最適化
インク組成を工夫し、繊維の内部までしみ込ませず、表面層でしっかり定着させる製剤開発も大きなポイントです。
あえて粒度の大きい顔料を採用したり、定着温度を下げるなどの工夫も現場で有効です。
昭和からの脱却:デジタル化と現場力の融合
日本の製造業現場では、歴史的に“職人の勘”や“ベテランの秘伝的ノウハウ”が重視されてきました。
しかし、製品サイクルが短くなり、小ロット多品種時代に突入した今、デジタル化された検証プロセスやデータ蓄積とのハイブリッドが不可避となっています。
層構造設計時には、*各層の厚さ*や*通気性*、*昇華防止効果*を定量的に計測・記録し、工程間でナレッジ共有する仕組みづくりが競争力を左右します。
たとえば、透湿性試験や昇華試験、層厚測定(電子顕微鏡など)を標準工程に組み込むことが、2020年代以降の新スタンダードです。
サプライヤーとバイヤーの連携による価値創造
バイヤーの立場から見れば、「見た目が良く、機能も落ちない商品」を短納期・安定品質で調達したいところです。
サプライヤーは、バイヤーのニーズを正確に知り、製造現場の“地道なノウハウ”を可視化して開示することが求められます。
たとえば、
・特殊下地剤の採用理由
・層構造ごとのスペックや通気性データ
・量産試験時のクレームフィードバック事例
などを積極的に共有できる現場力が、信頼に直結します。
バイヤーもまた、“ただ外観やコストだけを追求”するのではなく、本質的な価値判断軸(着心地、機能、安全性)を持ち、サプライヤーとの技術的ディスカッションができる姿勢が求められます。
未来への提言:変わるべき製造業のマインドセット
クールマックスTシャツ印刷は、まさに“素材と加工技術のせめぎ合い”です。
昭和から続く“現場の慣習”や“勘の勝負”に頼るのではなく、層構造設計という新しい地平に、一歩踏み出すことが産業界全体の底上げにつながります。
現場で生まれた知識をデータとして蓄積し、バイヤー・サプライヤー・現場が三位一体で「より良いものづくり」を語り合える時代が、もうすぐそこまで来ています。
最後に、
“見た目”と“機能”の両立は、現場の細かい工夫と、業界全体の価値観の進化によって実現できます。
この記事が、異なる立場の皆さまが一歩先を目指すヒントになれば幸いです。
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