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鉛フリーはんだ良否判定と不良発生防止コスト改善を実現する量産現場管理

目次
はじめに:鉛フリーはんだの現場導入と課題
鉛フリーはんだは、環境負荷低減やRoHS指令への適合などを背景に、2000年代初頭から多くの製造現場で導入が進んでいます。
しかしその一方で、昭和時代から根強く残るアナログな現場感覚や、「良否判定はベテランの目視頼み」という属人的な体制が完全には抜けきっていません。
バイヤーや調達担当も、サプライヤー側も、鉛フリーはんだの量産現場での管理手法や、不良防止コストの改善努力について本質的な知識を持つ必要が高まっています。
この記事では、20年以上の生産現場経験に基づき、鉛フリーはんだの判定基準、典型的な不良原因、そのコスト構造、そしてデジタル化が遅れるアナログ製造業でも即活用できる実践的な量産現場管理の工夫を、ラテラルシンキングで深掘りします。
鉛フリーはんだの良否判定:基本と現場の実際
公的ガイドラインと現場基準のギャップ
鉛フリーはんだの良否判定は「JIS C 61191」などの公的な基準が存在します。
しかし、現実の生産現場では部品実装、基板の種類、最終製品の使用環境によって「許容できる」合格基準は千差万別です。
また、目視検査では経験に頼るため、ライン作業者や検査員ごとに判定基準が微妙にズレるリスクも残ります。
良否判定の具体的観点
量産現場での鉛フリーはんだの判定基準は、以下の観点から細かく検討します。
– 濡れ広がり(ウエット性):ランド全体に均一にはんだが広がっているか
– はんだの盛り上がり(フィレット):十分高さがあり、滑らかな山形になっているか
– ピンホール・ボイド:気泡や空洞が生じていないか
– 機械的強度:リード・ランド間で物理的な剥離が起こりやすい箇所の確実な接合
– 表面光沢や色調:鉛フリー特有の鈍い銀色を理解した上での判定
現場では不良判定の根拠となる画像やサンプルによる教育の徹底が不可欠です。
自働化検査の意義と限界
近年はAOI(自動光学検査装置)やX線検査などでデジタル化も進みました。
とはいえ、現場には「AI判定=完全自動化=理想」と受け取る風潮がありますが、本質的には「AIを現場技能者の目や経験と組み合わせる」ことが王道です。
AOIやX線は「ヒント」として使い、最終判定は複数人の異なる目(四眼・六眼判定)を通すフローを導入すると、属人化のリスクも低減できます。
鉛フリーはんだ特有の不良発生要因
鉛入りはんだと鉛フリーの根本的な違い
従来の鉛入りはんだ(Sn-Pb)から鉛フリーはんだ(Sn-Ag-Cuなど)への置き換えで、最大の変化は「融点」と「濡れ性」です。
鉛フリーはんだは融点が20℃ほど高く、十分な濡れ広がりを得ようとすると「加熱時間=タクトタイム」の最適化が極めて重要になります。
この制約が、量産ラインの生産性・不良率の両立に大きな影響をおよぼします。
鉛フリーはんだの典型的な不良現象
実務上、鉛フリーはんだの工程で多く発生しやすい不良は以下の通りです。
– 未はんだ(ぬれ不良)…ピンやランドに全くはんだが乗らない/部分的に空白がある
– ブリッジ…近接リード間のはんだショート
– ピンホール・ボイド…内部空洞・気泡の閉じ込め
– クラック(割れ)…リフロー後の熱衝撃や衝撃によるマイクロクラック
– 均一性不良…盛り上がり高さやランド回りの形状ムラ
特に鉛フリー特有の「ぬれムラ」と「クリープクラック」は目視ではなかなか発見しづらい課題です。
不良発生防止と「隠れコスト」の本質
現場に横たわるコストの正体を見抜く
はんだ不良は、単なる部品交換や手直し費用に留まりません。
「後工程での発見 → 製品分解 → 再組立」となると、
– 余計な段取り替え
– 工数の増加
– 信頼性評価のやり直し
など、“見えない隠れコスト”が大量に発生します。
現場の「見える化」が不十分な状態では、不良一つで数万円〜数十万円の追加コストが発生している実態を把握できません。
鉛フリーはんだの不良防止に効く3つの視点
現場マネジメントで効果的なのは、以下3つの視点です。
1. 標準作業・工程設計の再徹底
ライン作業の手順と「なぜこの温度・時間設定なのか」の根拠を現場にしっかりと説明し、作業者を教育する仕組みが重要です。
2. 変化点管理による事前通知
基板の材質、はんだメーカーのロット番号、フラックス仕様など、些細な変更点を常に管理し、異常があった瞬間に現場全員で共有できる運用がコスト発生を最小化します。
3. 失敗事例の横展開
単一ライン・工場だけにとどまらず、グループ工場間での「ヒヤリ・ハット事例」や「不良からの教訓」を確実に全社展開する。
特に3番目の事例横展開は、アナログ製造業に根強く残る「情報サイロ化」を打破するために極めて有効です。ここを強化し続けるだけで、再発防止のスピードが数倍向上します。
コスト改善を実現する現場マネジメント術
デジタル化が遅れる現場に今できること
「自働化や見える化システムは高くて導入できない」「IT人材がいない」と嘆く工場でも、現場主義でコスト改善を進めることは可能です。
– シンプルな不良・作業記録ノートの全員運用
– 1時間ごとに良否判定サンプルを現場で共有
– 管理者・リーダーが1日1回、不良現物を実際に触れる
など、手書き・口頭共有であっても「徹底して現物現場にこだわる姿勢」を貫くことが、不良発生削減にも直結します。
サプライヤー・バイヤー間の信頼構築でコスト低減
バイヤーの立場で最も重視すべきは「価格交渉力の強化」ではなく「現場力を理解し、事前アプローチを徹底すること」です。
サプライヤー側も「不良発生=ペナルティ」と短絡的に捉えるのではなく、「仕組みで失敗をなくし、現場力を高める姿勢」を一緒に育てるべき時代です。
具体的には、
– サプライヤー現場への“巻き込み型監査”
– 新規材料・仕様変更時の「Wチェック承認」
– 月次でのQCD(品質・コスト・納期)レビュー会議で現場目線の意見交換
このような地道な対話が、将来的な信頼関係とコスト低減の最大の近道になります。
まとめ:昭和的な“勘と経験”から科学的・オープンな量産現場へ
製造現場に根強く残る「職人の経験第一主義」や「現場の暗黙知」が、鉛フリーはんだの量産現場でコスト・不良削減を阻む壁になっています。
だからこそ今こそ
– 不良の発生現場・隠れコストの“見える化”
– 教育・現場教育の徹底
– サプライヤー・バイヤーの壁を越えたオープンな現場対話
を推進することが、鉛フリーはんだ時代の「現場力」に直結します。
バイヤー・調達担当者にも、サプライヤー担当者にも、そして現場管理者にも、今日から実践できる一歩として、自社・自工程だけではなく、生産現場全体の「知の横展開」と「現物主義」を強くお勧めします。
現場と一体化した「科学的かつ開かれた現場管理」を積み重ねることが、競争力あるものづくりと持続的なコスト改善への何よりの近道です。
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