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鉛フリーはんだ実装信頼性確保温度プロファイル最適化トラブル対策

目次
はじめに:製造業における鉛フリーはんだと信頼性問題
鉛フリーはんだの導入は、2006年のRoHS指令施行を契機に、国内外の製造業に一気に広がりました。
従来のSn-Pbはんだに比べ、鉛フリーはんだは環境負荷が小さくSDGs時代の要請にも合致していますが、実装現場に新たな課題ももたらしました。
特に、はんだ接合部の信頼性や温度プロファイルの最適化、そして様々なトラブルへの対応は多くの現場で深刻な問題となっています。
この記事では、鉛フリーはんだならではの特性を理解し、温度プロファイルを最適化して信頼性を高めるための実践的な対応策と、現場で直面しやすい典型的なトラブルとその解決策について、20年以上現場で培った知見を踏まえて解説します。
昭和時代からアナログ文化が色濃く残る工場現場においても役立つ変革のヒントを盛り込みながら、バイヤーやサプライヤーの双方に実践的な学びを提供します。
鉛フリーはんだの特徴と従来はんだとの違い
主要合金と溶融温度の違い
従来使用されていたSn-Pb(スズ・鉛)はんだの融点は183℃ですが、鉛フリーはんだ(Sn-3.0Ag-0.5Cuなど)の融点はおよそ217~221℃と高くなっています。
この温度差が、実装工程における温度プロファイル管理や部品への熱ダメージ、基板反りなどの新たな課題をもたらします。
はんだ濡れ性・ぬれ広がり性
鉛フリーはんだは一般的に濡れ性が悪く、表面張力が高いため、従来よりも「玉になりやすい」「はんだブリッジが起きやすい」といった実装不良が発生するリスクが上がります。
微小クラック・内部ボイドの発生リスク
鉛フリーはんだは硬く脆い性質があり、繰り返しの熱サイクルや応力によって微細なクラックや内部ボイドが発生しやすいのも大きな特徴です。
信頼性を確保するためには、設備・材料・プロセスパラメータの「最適なバランス」が不可欠です。
温度プロファイル最適化の重要性
なぜ温度プロファイルに注目すべきか
鉛フリーはんだで信頼性を確保する最大のカギが「適切な温度プロファイル」です。
融点が高まった分、リフローや手はんだ付け作業で「温度が高すぎる・急激すぎる」プロセスになれば、部品・基板への熱ダメージが多発します。
逆に「温度が十分に上がらない・ヒートタイムが短い」とはんだの濡れ不良や未溶融、ボイド、クラックの発生などにつながります。
基本サンプル:リフロー実装プロファイル
鉛フリーはんだのリフロープロファイルの一例は以下のようになります。
プレヒート 150~180℃(60~120秒)
ソーク 180~200℃(60~120秒)
ピーク 235~245℃(30~60秒)
クールダウン 200℃以下へ30~90秒で冷却
現場でよくある失敗として、
・過度の温度上昇で部品脱落や内蔵ICダメージを招く
・プレヒート不足や急加熱で「はんだ玉」「ボイド」「板の反り」などが発生
・ピーク時間が短すぎて濡れ不良や未溶融
などが挙げられます。
計測とフィードバックの現場文化
昭和的なベテラン職人の「勘と経験」も重要ですが、温度プロファイルは必ず実際の基板・部品に温度センサーや専用データロガーを取り付けて計測しましょう。
社内・協力工場の垣根を越えてプロファイル測定・工程の見える化を実施することで、ノウハウの属人化を打破できます。
鉛フリーはんだ実装でよくあるトラブルと対策
代表的なトラブル事例
鉛フリーはんだ実装の現場でよく見かけるトラブルは次の通りです。
– はんだぬれ不良、はんだボール・ブリッジの発生
– クラック(熱サイクル、機械的応力による)
– ボイド、未溶融、混入物
– 基板反り、部品脱落、ICチップ破損
– フラクス残渣、不良導通
現場でできる具体的な対策例
- はんだ・フラックス・クリームの見直し
鉛フリー用クリームやフラックスは従来品よりも活性度や組成が異なります。現場の温湿度・基板・部品実装密度によく合った材料選びが肝心です。調達購買担当者・現場エンジニアの連携を密にしましょう。 - 予備加熱プレヒートの最適化
従来の「60℃くらいまで20秒」では不十分になることが多いです。基板や部品サイズごとに細かなヒートアップを設け、温度むらが出ないよう工程を再設計します。 - 温度ロガーによる全数or抜き取り測定の徹底
ロットNo.ごとに基板と部品を取り付け、実際のリフローライン温度プロファイルをこまめに測定する運用を習慣化します。 - セットアップ・調合作業の標準化と教育
部材投入~セットアップ、はんだ付け作業、検査までの作業フローを明文化。新人・派遣社員へのOJTや標準作業書の整備も重要です。 - 検査装置(X線、AOI等)の有効活用
従来は目視検査主流でしたが、BGAや大型部品では不良が「見えない」時代です。X線透過検査やAOI(自動外観検査装置)の積極導入がトラブル早期発見につながります。
温度プロファイル最適化のPDCA実践事例
たとえば、ある協力工場で鉛フリー実装の歩留まり低下が発生した事例です。
【背景】
– 鉛フリー化直後、リフロー炉の設定温度が旧来のままだった
– 大型BGA部品で「はんだボイド率大幅増加」→不良解析で内部クラックも判明
【取組み】
– 実際の製品を使い、複数点で温度プロファイル測定
– プレヒート部:従来から10℃程度アップ、ゆっくり加熱(最大斜度3℃/秒以下に)
– ピーク温度を235~240℃に再設定、ウェットタイムを十分に確保
– クリームはんだ、フラックスの見直しと最適条件選定
– X線検査の工程内導入
【成果】
– ボイド発生率が70%→15%に低減(社内基準クリア)
– クラック検出件数も1/10以下に
– 作業員の標準化教育を行うことで工程バラツキも大きく低減
このように、プロファイルの見える化・標準化・科学的アプローチを地道に重ねることで、技術トラブルは大きく減らせます。
バイヤー目線・サプライヤー目線で考える品質保証と業界トレンド
バイヤー目線で押さえるべきポイント
バイヤーは「カタログ値」や「スペック上の適合」だけで安心しがちですが、鉛フリーはんだはラインごとのクセや材料ロットばらつきが大きいことを理解しましょう。
できれば購買段階で、
– 材料サンプルを現場試験にかけたデータ
– 信頼性試験(はんだ接合部の熱サイクル、湿度サイクル試験結果)
– 工程標準やQCサークル活動の様子
など、現場の実装プロセスの見える化まで深く関与するのが理想です。
サプライヤーが理解しておきたいバイヤーの心理
バイヤーは「不具合ゼロ」「コスト低減」「納期・供給安定」「将来規格への適合性」の全てを求めます。
サプライヤーとしては、製造現場の声や微細な不良も含めてリアルタイムに情報連携し、「見せる品質改善活動」を積極的にアピールしましょう。
また、鉛フリーはんだの信頼性課題は世界中で未解決のテーマです。
「他社や標準化団体の最新動向(IPC規格やJEITA指針など)」も日頃からウォッチし、提案力・説明責任を磨いていくことが長期的な取引関係強化につながります。
アナログ志向の強い現場を変える一歩:小さなデジタル化・共有化のすすめ
鉛フリーはんだ実装の信頼性確保プロセスは、アナログ業界体質を問い直すチャンスでもあります。
例えば、
– データロガーや廉価な測定装置を導入し、温度プロファイルや不良率を「数値」で見せる
– 定例のQC会議やLINEグループ、Teamsチャットでリアルな現場データを即時共有する
– 微小なトラブルでも「工程・材料・ヒューマン要因」をPDCAで記録し、蓄積知見として活用する
こうした「現場小回りデジタル化」と「人と人の対話」が両輪で進むことで、旧来の勘や経験に頼りきった体質から少しずつ脱却できます。
まとめ:鉛フリーはんだ実装の本質と未来を見据えて
鉛フリーはんだ実装の信頼性確保とトラブル対策の本質は、一言でいえば「現場起点の見える化と改善サイクル」です。
温度プロファイル最適化を軸に、サプライヤー・バイヤー双方が工程・材料・教育・データのすべてを連携させ、変化に柔軟に対応し続ける力こそが競争力そのものです。
SDGsやカーボンニュートラルが叫ばれる時代、アナログ志向に固執するのではなく、現場目線の実践知を生かした価値創造がますます重要になります。
デジタルとアナログの「良いとこ取り」で、不良ゼロ・安定生産の新しい常識をともにつくりあげましょう。
鉛フリーはんだ実装の進化は、製造業全体の進化の一歩なのです。
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