投稿日:2025年6月26日

鉛フリーはんだトラブル対策と最新はんだ材料技術開発動向

はじめに—鉛フリーはんだの普及が製造業にもたらした変化

鉛フリーはんだからくるトラブルや対策についてお悩みの方は多いのではないでしょうか。
私は製造現場で20年以上、調達・生産管理・品質保証の分野に従事してきましたが、鉛フリーはんだの導入以降、製造現場の課題が増えたのは事実です。

鉛が環境負荷物質として注目を浴び、ROHS指令などの世界的な規制が始まった2000年代前半、電子部品実装などを行う工場現場では「鉛フリー化」が急務となりました。
それは企業の社会的責任を果たす側面が大きく、調達バイヤーや生産エンジニアには、従来の鉛はんだに比べ技術的に難易度の高い新たな知識と管理能力が求められるようになりました。

本記事では、鉛フリーはんだの現場で発生しやすいトラブル事例・対策と最新の材料技術動向について、現場目線で解説します。
サプライヤー、バイヤー双方にとって、実践的なヒントとなれば幸いです。

鉛フリーはんだへの切り替えで生じやすいトラブルとその本質

鉛フリーはんだはなぜトラブルが多いのか?

従来のSn-Pb(すず・鉛)はんだは、低融点・濡れ性良好・作業性の高さなどが長所でした。
しかし、鉛フリーはんだ(主にSn-Ag-Cu合金=SAC)は、融点が従来より高く、濡れ性やぬれ広がりが悪化しやすいです。

この結果として、以下のようなトラブルが増加しました。

・はんだ濡れ不良(部品や基板のリード、パッドへのなじみが悪い)
・ダレ、ボイド、ブリッジなどの不良
・はんだクラックやマイクロクラック
・フィレットリフトなどの機械的強度不良
・フラックス残渣やイオン性物質による絶縁抵抗不良

現場では、テストボードでは正常でも、本番基板で急に不良が多発したり、極めて微小な温度プロファイルの違いで品質不良が出たりします。

代表的な鉛フリーはんだトラブル事例

特に発生しやすいのは以下のパターンです。

・小型化した表面実装部品のランドや部品リードにはんだがまともにつかない(濡れ不良)
・鉛フリーの高融点ゆえ、リフローやはんだごて作業の熱ストレスで部品が損傷する
・急速冷却で内部応力が発生し、マイクロクラック(微小な亀裂)が成長する
・無洗浄フラックスの導入で、残渣による絶縁不良や樹脂パッケージクラック

これらのトラブルは、調達バイヤーにとっては「品質リスク」「歩留り低下」「コスト増」につながりますし、サプライヤー側には「納期遅延」「責任の所在があいまい」などの痛手になります。

昭和の発想から抜け出せない“現場任せ”がトラブルの温床に

日本の製造業は現場力が強みとよく言われますが、鉛フリーはんだ導入を境に「現場まかせで何とかなる」時代は終焉しました。
材料・プロセス・部品仕様まで含めて、調達・技術・生産部門が一体となり“仕組みで”対応する必要が出てきたのです。
それでも昭和型の属人的アナログ文化が根強い工場や、サプライヤー任せ・現場頼りの体質が残る現場では、お決まりの「再発」「原因不明」トラブルがたびたび起こりがちです。

鉛フリーはんだトラブルを未然に防ぐための現場実践策

1. 部品・材料選定の見直し

まずサプライヤーの目線を取り入れて、基板材質、部品リードの表面処理(Sn、Ni/Pd/Auメッキなど)、フラックスやはんだペーストの選択に注意する必要があります。
鉛フリー化対応済みをうたっていても、メッキの種類や厚さ、素地の管理が甘いと、鉛フリーはんだと相性が悪くなり、濡れにムラが出ます。

調達バイヤーは、はんだ材料や部品ベンダーとの仕様確認を綿密に行い、安易な“従来通りの流用”を避けるべきです。

2. プロセス条件の最適化・定量管理

鉛フリーはんだは従来より20℃以上高温です。
リフロー、手はんだ、ウェーブソルダリング等、各はんだ付け工程でプロファイル(加熱・冷却)条件の最適化・定量化が不可欠です。

現場ではつい「カンコツ」で温度管理やはんだ付け時間を設定しがちです。
しかし“再現性のある条件”を明文化し、各工程に展開・標準化することが肝要です。

最新のリフロー炉・はんだ付け機器の導入も有効です。

3. 不良事例のデータベース化と工程フィードバック

鉛フリー不良のパターンを記録・共有し、どの工程、どの部品で、どのような不具合が起きやすいのか—ナレッジデータベース化を行いましょう。

調達・開発・生産が分断されがちな組織では、同じトラブルが定期的に繰り返されてしまいます。
バイヤーが不良情報を現場から吸い上げ、上流工程にフィードバックする体制づくりが必須です。

4. サプライヤーとの連携とコミュニケーション強化

鉛フリーはんだ対応の成否は、「材料サプライヤー×部品ベンダー×基板メーカ×自社現場」のつながりにかかっているともいえます。
サプライヤーは、「どんな環境でも自己責任で使え」というより、具体的な管理項目・技術支援・共同評価の仕組みを強化しましょう。

バイヤーは「カタログスペック」ではなく、「現場テスト結果」「実際の不具合事例」をもとにサプライヤーと腹を割った議論をすることを心がけてください。

最新鉛フリーはんだ材料の開発動向と将来展望

1. 新合金・高信頼性はんだ開発

近年、鉛フリーはんだのうち、低銀タイプ(低AgSnCu)や微量元素添加(Bi、Ni、Sb添加)の材料が普及しています。
これらはコスト削減やはんだクラック防止(耐熱サイクル性向上)、濡れ広がり改善などを目的としています。

特に自動車、産業用電子機器では高信頼性要求が強く、以下のような技術が進展しています。

・低銀SAC305系+Ni添加=接合信頼性アップ
・Bi添加Sn系合金=低融点で熱ストレス低減とクラック抑制に寄与
・新規フラックス配合=高絶縁、低残渣、低腐食を実現

この領域は今後も材料サプライヤー主導で進化が続くでしょう。

2. マイクロ部品対応と微細実装技術

IoT化により、0603、0402、さらにはチップサイズパッケージ(CSP)など超小型デバイスが増加しています。
鉛フリーはんだでは濡れ性や流動性の制御がより難しくなっており、「微細用はんだペースト」や「微粒径パウダー」は市場のトレンドです。

また、無電解Ni/Au、厚金メッキなど高付加価値表面処理や、低温リフロー技術の採用も着目されています。

3. 環境・安全対応とグローバル規制への波及

鉛フリー化はRoHSやREACHの適合だけでなく、「フルハロゲンフリー」や「サステナビリティ基準」への拡大も見られます。
欧米・中国市場では材料の安全データ、ライフサイクル管理情報の開示がより強く求められています。

バイヤーには、将来の規制強化を見据えたサプライヤー評価・選定力が不可欠になります。

製造現場・バイヤーが今求められる“未来志向”の視点

現場主導から組織横断型へ——サイロ化打破の重要性

鉛フリーはんだは材料だけで全てが解決する問題ではありません。
設計・調達・生産・品質保証まで、すべての工程が密接につながった“情報の共有と横断”こそ真のトラブル対策です。

アナログな日本の製造業現場では、いまだ「勘と経験」に頼る体質が残っていますが、今こそDX化(デジタルトランスフォーメーション)によるナレッジ・不良情報の全社共有を推進してください。

サプライヤー目線を持つバイヤーの時代へ

バイヤーは単なるコストカット要員ではなく、「はんだ材料や基板部品の製造原理・特性・最新技術動向」を誰よりも知る“技術購買”としてのスキルが期待されています。

サプライヤーに厳しい要求だけでなく、「現場の課題」を共有し「組み合わせ」で品質最適化を仕掛けるパートナーを目指しましょう。

グローバルサプライチェーン“全体最適”の思考へ

鉛フリーはんだトラブルは単なる現場個別課題にあらず、サプライチェーン全体に影響を及ぼします。
サプライヤー→自社現場→エンドユーザーまで「品質を運ぶ」意識が不可欠です。

調達購買・バイヤー・品質管理担当は、“トラブルが起きてから慌てる”ではなく、“未然に防ぐ構造”の構築こそがバリューです。

まとめ—鉛フリーはんだで新たな製造現場力を育てるために

・鉛フリーはんだの普及は製造業の現場/購買に大きな変革をもたらしました。
・トラブル対策は材料選定、プロセス管理、サプライヤーとの情報連携・組織間の壁を越えた現場知識の共有がカギです。
・新材料や微細対応・グローバル環境規制に着目した先進的取り組みが、これからの競争力の差を生みます。

時代は「昭和の現場力」から「令和の現場コラボ」「知識共有による強靭なものづくり」へ。
鉛フリーはんだで悩む現場・バイヤー・サプライヤーこそ、新たな現場思考と組織最適を武器にイノベーションを推進していきましょう。

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