投稿日:2025年8月7日

在庫日数分析と発注点自動更新で過剰在庫を防いだリーン調達オペレーション

はじめに:昭和の在庫管理から脱却するために

日本の製造業は、長年にわたり“現場力”を武器に世界的な競争を勝ち抜いてきました。
しかし、いまだに紙ベースの伝票管理や属人的な発注判断が残っている工場も少なくありません。
過剰在庫による棚卸資産圧迫、部品の欠品リスク、そしてバイヤーの精神的負荷。
これらの課題は、昭和から続くアナログ体質が根深く影響しています。
私自身、現場で何度も頭を悩ませてきた問題です。

近年では、デジタル技術や自動化によって大きく環境が変わり始めています。
この記事では、現場実践の知見から「在庫日数分析」と「発注点自動更新」を活用したリーン調達オペレーションの具体的な方法、それによって生まれるメリットと課題、そしてバイヤーやサプライヤー双方の立場から見る現場のリアルをご紹介します。

在庫日数分析とは何か? 可視化がもたらす効果

在庫日数が示す“動き”の見える化

在庫日数とは、現在の在庫量を1日の平均消費量で割った値で、今の在庫が何日持つかを表す指標です。
この在庫日数を部品単位で継続的に把握することで、以下のような現場の“動き”がリアルタイムで見えるようになります。

・不要に積み上がっている在庫の早期発見
・想定より消費が速い部品の欠品リスクの把握
・季節変動や販売トレンドが在庫に与える影響の測定

この数値は“現場感覚”に頼り切った従来の在庫管理と違い、明確なエビデンスとして活用できるため、会議資料、報告、現場改善への説得材料としても強みを発揮します。

属人的な“だいたい発注”が危ない理由

ノウハウは経験と勘に宿るとよく言われます。
確かにベテランバイヤーの勘は無視できません。
しかし、現場が多忙になると「忙しいから多めに頼んでおこう」「去年もこのくらいだったはず」といった曖昧な判断が増えがちです。
その結果、気が付けば数か月分の在庫が山積みになっていた、という事態も珍しくありません。

在庫日数を常に把握し、可視化していくことで“どの部品が実際にどのくらい消費されているか”を常時客観的に判断できます。
この仕組みは“属人リスク”“過剰在庫リスク”を大幅に軽減します。

発注点自動更新とは? 現場の自動化がもたらす進化

発注点自動更新の基本構造

発注点とは「これ以下になったら発注する」在庫数であり、工場や調達部門では欠品防止のための基準値となります。
従来はシーズンごと、年単位で発注点を手動見直ししていませんでしたか?
それを実態に応じて“自動で更新”するのが、発注点自動更新のアプローチです。

まずは過去数か月~1年の生産実績と消費データをIT化し、各部品ごとに平均消費量・最大消費量・リードタイムを算出します。
そこからSafety Stockの理論に基づいて発注点を計算し、システム上で自動更新できるようにします。
こうすることで、以下のようなイノベーションが生まれます。

・急激な需要変動にもすばやく追従できる
・担当者の異動や退職時でも知見・ノウハウの引継ぎが容易
・現実的な在庫最適化が進み、現場負荷が減る

難しいのは“動かす”ことではなく“信じる”こと

実際にシステムを導入しても「本当に自動で大丈夫か?」という現場の疑念は根強いです。
紙と電卓の文化が色濃く残る職場では特にそうです。
私も導入初期は現場メンバーの“目視確認”との両立期間を設け、段階的に自動化へと移行しました。

大事なのは“システムは信じるに足る再現性と根拠がある”ことを現場へ説明し、トラブルがあればデータを振り返って調整できる体制を用意することです。
これにより、人とシステムの“合わせ技”で徐々に効率化へと導かれます。

過剰在庫防止の核心:在庫日数分析×発注点自動更新の効果

劇的改善例:実データから見る効果

私の実務経験から、実際に在庫日数分析と発注点自動更新を組み合わせた結果、以下のような改善が生まれました。

・主要部品20点に対して平均在庫日数を60日→30日へ短縮
・月末の棚卸資産圧縮効果は平均35%(年間1億円規模のキャッシュフロー改善)
・担当者1人あたりの発注作業半減(残業削減・属人化リスク低減)

さらに“何が多い、何が少ない”を説明可能な状態になるため、経営層・現場の共通認識も強まります。
定量的・定性的両面で圧倒的なメリットです。

バイヤー・サプライヤー両者にとってのメリット

【バイヤー側】
・調達依頼の精度・効率が上がり、購買先との適正在庫水準での交渉がしやすい
・急な生産変化にも迅速対応できるため、QCD(品質・コスト・納期)のバランス改善

【サプライヤー側】
・バイヤーからの急な“ドカ買い”や前倒し発注が減るため、安定的な需要見通しが立つ
・繰り返しの発注・調整作業が明確化され、納入計画や生産リソースの配分がしやすい

単なる現場効率だけでなく、サプライチェーン全体の最適化が実現します。

アナログな現場での“壁”とその乗り越え方

データ化・標準化の難しさ

在庫日数分析や発注点自動更新の大前提は、“正確なデータ”の準備と“現場共通のルール化”です。
しかし、古いシステムや紙帳票、人による伝達ミスなどから、“思った通りの数値が取れない”ケースが多々あります。

はじめは“拾える範囲で、できるだけきれいなデータ”からスタートすれば十分です。
無理に全数を一気にそろえようとせず、重点部品や重点工程から段階的に広げることが現実的です。
当初はトライアル、慣れたら徐々に仕組みを浸透させていくのが理想的です。

“昭和の名残”に根ざす現場の思考法

「そんなの昔からやってる」「数字を重視しすぎてリスクを見落とさないか?」
こうした昭和的な現場力や、不安を感じる気持ちもよく理解できます。

ですが、ここにラテラルシンキング的視点を持ち込みましょう。
“モノ”の位置、“ヒト”の動き、“データ”の流れを組み合わせ、従来の“職人技+客観的指標”という日本流の知恵のハイブリッドが、新たな製造現場の武器となります。

今こそリーン調達オペレーションに転換を

日本の製造現場は、人・モノ・金を最小限で最大の価値を生み出す“リーン”思想(無駄を省く=Lean)に本気で転換する時を迎えています。
在庫日数分析と発注点自動更新の組み合わせは、デジタルと現場ノウハウ(暗黙知)の両輪で、クオリティの高い運用を実現します。

まずは在庫データの見える化から。
次に発注点の自動化へ着手し、小さなPDCAサイクルを現場でまわしましょう。
繰り返す中で現場の“当たり前”が変わる瞬間が必ずやってきます。

まとめ:進化の先に広がる新たな地平線へ

在庫日数分析と発注点自動更新は、シンプルでありながら長期的かつ本質的な改善をもたらすリーン調達オペレーションの土台となります。
昭和から続く“なんとなく”“念のため”を脱却し、現代にふさわしいQCDバランスと安定供給体制を築く突破口です。

経験に基づいた判断とデータドリブンな仕組み、その両者のハイブリッドが“現場目線の進化”の真髄です。
ぜひ、皆さんの職場でも小さな一歩からチャレンジしてみてください。
あなた自身、そして会社全体の新しい可能性がきっと開けていくはずです。

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