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顧客による仕様変更を記録に残さないことが生む法的リスク

目次
はじめに:顧客仕様変更と記録管理の重要性
製造業の現場において、顧客(バイヤー)による仕様変更は日常茶飯事です。
プロジェクトの途中で設計図が差し替わった。
発注後に細かな材質指定や寸法変更を求められた。
こうした「現場サイドでは大したことない」として口頭やメールのみで済ませる文化が依然として残っているのが、特に昭和気質の強いアナログ業界での実態です。
しかし、仕様変更の記録を十分に残さない行為は、想像以上の法的リスクやトラブルの可能性を内包しています。
本記事では、現場経験者かつ経営者・管理職の視点も交え、このリスクとリアルな実務、抜け出すべき“昭和的慣習”について深掘りしていきます。
顧客仕様変更の現場実態:なぜ記録が甘くなるのか
口頭・メール依存が染みつく理由
多くの現場では、顧客からの要望に迅速に対応することが最優先です。
「図面がまだないけど、ここはちょっとだけ直しておいて」「納期を短縮できれば助かる」「数量が当初より増えました」など、些細な変更は電話・FAX・メールのやりとりで進められるケースが非常に多いです。
特に長年取引きのある顧客とは、阿吽の呼吸で進みがちで「信頼関係があるから」「後で考える、形にしてから書類を作る」と記録が後回しになり、ついには何も証拠として残っていない、ということが珍しくありません。
現場目線で発生する“黙認リスク”
現場担当者の思考としては、「大きな事故や逸脱がなければ問題にならない」と考えがちです。
結果として、各担当者が個人のメールやノートにメモを残す程度。
最悪の場合は、口頭だけで「あの時こう言われた」だけを根拠に作業を進めてしまうパターンもあります。
これが問題なのは、後になって仕様の解釈に食い違いが発生した時、誰がどんな判断で何を了承したのか、客観的な証拠が残らない点です。
法的観点から見たリスクと事例
契約不履行と賠償リスク
仕様変更が記録に残らない最大のリスクは、後日トラブルが発生した際に“誰が何を発注・変更したのか証明できない”ことです。
もし顧客が「自分はそんな変更を依頼していない」と主張した場合、メーカー(サプライヤー)側の責任になるケースが圧倒的に多いです。
納期遅延、設計ミス、不適合製品の納入による損害賠償請求など、深刻な問題に発展する恐れがあります。
実際にあったトラブル事例
ある精密部品メーカーでは、顧客が途中で穴の位置を数ミリずらすよう依頼したにもかかわらず、記録がなく口頭で現場に伝わっただけのため、納品後に「図面通りでない」と大クレームになりました。
結果として全数再生産となり、工場側は数百万の損失を被りました。
顧客の言い分だけが証拠とされ、泣き寝入りした例です。
また、別の自動車部品の現場では品質基準について細かな追加要件を口頭承認されていましたが、トラブル発生時に顧客から「そんな基準は伝えていない」と否認。
合意書や電子記録もなく負け筋となり、取引自体が打ち切られた会社もあります。
昭和的慣習からの脱却:なぜ今、記録管理が求められるのか
コンプライアンス強化の時代背景
グローバル化、多様化が進む製造業界では、社内外から「なぜそれができたのか、誰が決めたのか」の説明責任が厳しく問われる時代です。
従来の“現場の信頼・職人技”頼みから、“誰が見ても追跡可能な証拠”ベースの業務運営へとパラダイムシフトしています。
これは決して煩雑な負担を増やすことが目的ではなく、リスクヘッジと企業防衛、そして信用力強化のための必須条件です。
業界の「失われた30年」とデジタル化
特に日本の大手製造業では、1990年代以降の“失われた30年”において品質不正、情報漏洩、発注ミスなど様々な問題が内在化してきました。
これを受けて近年は、電子署名やワークフローシステム、チャットツールを活用した仕様変更管理など、デジタル技術による記録の自動化体制が徐々に普及してきています。
しかし、未だにアナログ管理が残る現場も多く、変革のスピードが問われています。
現場目線で考える記録管理:導入のハードルと突破策
人・組織・文化的なハードル
現場では「手間が増える」「管理コストがかさむ」「慣れ親しんだやり方を変えたくない」などの声が上がります。
また、情報を記録すること=現場の裁量や機動力を失う、という誤解も根強いのが現実です。
一方で、きちんと記録を残すことで「責任の所在が明確になり、不当な損害を回避できる」「作業標準や教育にも活用できる」「工程ミスの再発防止に有効」など、積極的なメリットがあることも現場に伝える必要があります。
実践的な記録管理の進め方
まずはルールを統一し、絶対に残すべき「仕様変更の証拠」の定義を明確化することが肝心です。
担当者個人のメールや口頭承認は原則NG。
顧客の仕様書・注文書・図面などは改訂履歴ごとに整理し、必ず合意書や承認サイン、デジタル記録(PDFやメール、ERP・グループウェアでのワークフロー)として保存します。
さらに、社内の標準手順書(SOP)としてフロー化し、現場トレーニングやチェックリストを設けて遵守徹底を図ります。
小さな現場では、シンプルなエクセルシートや無料のクラウドサービスを上手に活用するのがおすすめです。
サプライヤー・バイヤーそれぞれの立場で考える記録管理の価値
バイヤーの思惑と調達購買部門の視点
バイヤー(顧客)側の調達購買部門にとっても、仕様変更の記録管理は極めて重要です。
なぜなら、記録が曖昧でも「発注ミスはサプライヤー責任に…」という社内圧力が働くため、いざという時の証拠がバイヤー担当者自身の保身材料にもなります。
また、組織的なPDCAやサプライチェーン全体のトレーサビリティ確保にも直結し、不適合品や納期遅延時の原因究明・再発防止策にも役立ちます。
サプライヤーの立場でのメリット
サプライヤー側にとっても、逐次記録を残すことで「自分たちの正当性を証明できる」だけでなく、「顧客要望の変遷を後で振り返りやすい」「過去案件をナレッジとして活用できる」といった積極的な副産物があります。
また、イレギュラーな仕様変更の積み重ねを社内で分析すれば、自社の“強み”や“弱み”、今後の営業戦略のヒントにもつながります。
まとめ:記録を残すことは、将来のリスク回避と競争力強化につながる
顧客仕様変更の記録を残さないことは、たった一度の油断が企業の命運を左右するほどの法的リスクを孕んでいます。
従来型の“現場力”や“人情”に頼りきった昭和的なやり方から一歩抜け出し、記録管理を徹底していくことで、サプライヤーもバイヤーも「守り」と「攻め」の両面で大きなメリットを享受できます。
今こそ、現場・管理職・経営層それぞれの目線で「なぜ記録が必要か」「どうすれば現場負担を最小限にしつつ記録を強化できるか」を議論し、実践に移すべき時代です。
製造業の現場で働く皆さん、バイヤーを志す方、サプライヤーとして真摯に向き合う方。
あなたの“実務の一手間”が、将来の自分や会社を守る大きな防波堤になるのです。
時代を見据え、新たな地平線をともに開拓していきましょう。
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