投稿日:2025年11月15日

陶磁器カップへのスクリーン印刷で色あせを防ぐ耐光性インク選定

はじめに ─ 現場で起きている「色あせ」問題と背景

陶磁器カップへのスクリーン印刷は、リビングウェアや業務用品として日常的に幅広く活用されています。

ところが納入先から「プリントされたロゴやデザインの色がすぐに薄くなる」「販促用マグが1年保たない」など、色あせに関するクレームは依然として後を絶ちません。

昭和から連綿と続く製造現場では、使用インクや印刷工程を見直さず、「これが業界のスタンダード」と考えがちです。

しかし、消費者の品質要求は年々高まり、加えてSDGsやEC市場の拡大にともなう多様な要望により、耐久性や高付加価値化はますます重要になっています。

本記事では調達購買・生産管理・品質管理など、実務現場を渡り歩いてきた筆者が、
今こそ見直すべき「陶磁器カップへのスクリーン印刷耐光性インクの選定」を現場目線で掘り下げていきます。

耐光性インクとは何か

耐光性インクの基本的な定義

耐光性インクとは、太陽光や蛍光灯光などの「光」に含まれる紫外線による色あせ(褪色)に抵抗性を持つインクのことです。

この耐性は印刷物の美観だけでなく、企業イメージの維持や製品のロングライフ化に大きく寄与します。

屋外で使われる製品だけでなく、陶磁器カップのように屋内使用主体でも、長期間クリアなデザインを保つには耐光性インクが不可欠です。

なぜ色あせるのか?科学的メカニズム

色のもととなる顔料や染料は、光に含まれる紫外線などの影響で分解・変質します。

特に耐光性の低い染料系インクは、短期間で急速に色があせる傾向があります。

一方、体質顔料や特殊樹脂を用いた耐光性インクは、分子構造や被膜に工夫がこらされており、紫外線や熱にも強いことが特長です。

昭和アナログ現場の「現実」とインク見直しの必要性

なぜ旧来インクが使い続けられるのか

長く続いてきた現場では「今使っているインクが問題ない」「コストが安いから変えたくない」という守旧派の声が未だに根強いです。

また、インク選定を発注元主導でなく、下請企業が判断するケースも多く、コストと供給安定性を優先しがちです。

しかし、クレーム発生や製品ブランド低下によるダメージのコストを考えれば、耐光性グレードへの切り替えは将来的投資そのものです。

ユーザーが錯覚する「現場の品質感覚ギャップ」

調達バイヤーとサプライヤー間には品質に対する期待値にギャップがあります。

バイヤーは「最低1年間はロゴがしっかり残るはず」と考えていますが、現場は「半年以上持てば上出来」と目線に差が生まれがちです。

このギャップは、購買段階からすり合わせを行わない限り、最終製品で不満やクレームとして表面化します。

耐光性を高めるインク選定のポイント

顔料系と染料系、まずはここを理解

染料系インクは色が鮮やかでコストも安いですが、耐光性は低く褪色しやすいです。

一方、顔料系インクは分子が大きく複雑なため、光による分解が起きにくいです。

陶磁器カップへは原則「顔料系」インクを選定し、さらに耐候性グレード品を選ぶべきです。

スクリーン印刷特有の耐光性課題と解決策

スクリーン印刷では適度な粘度と乾燥性が求められ、インクの定着性=耐久性にも直結します。

ろ過性や網点詰まりへの考慮も大切です。

最近では微粒子化顔料を使用した「超耐光性スクリーンインク」や、UV硬化樹脂とのハイブリッド製品も登場しています。

耐光性=耐候性テスト結果がデータシートにあるインクを選ぶことがプロの調達・購買の鉄則です。

陶磁器素地×インクの相性にも要注意

本焼き、上絵、転写など陶磁器の種類や用途(電子レンジ可否など)によって、適合インクは異なります。

特に第三者機関による耐候性及び耐薬品性テスト(食器洗浄機、煮沸試験など)の合格品インクであることを必ず確認しましょう。

調達・購買の現場が押さえておきたい最新インク動向

グローバルベンダーの最新トレンド

欧州・日本の主要インクメーカーでは、「耐候評価(JIS, ISO準拠)済み」「環境負荷低減」「ユーザー要求を吸い上げたカスタム対応」といった新しい商品開発が進んでいます。

中国やアジア諸国生産品でも品質が向上しつつあり、用途・予算・供給安定性を総合的に判断する時代になっています。

「環境対応」も今や外せないチェックポイント

SDGsやRoHS・REACH規制対応も重用視されています。

溶剤フリー・水性耐光インクや、鉛・カドミウムフリー顔料であるかなど、バイヤーとしては複眼的視点が不可欠です。

耐光性インク選定・指定で「現場が動く」書き方のコツ

仕様書・図面・発注書への明記例

調達購買担当者は、曖昧な表現はNGです。

例えば、「耐光性顔料系インク指定」「JIS K5600準拠耐候性グレード使用」「紫外線連続1000時間で色差ΔE3以内」など、測定条件と評価基準をはっきり記載しましょう。

発注前の必須コミュニケーション

サプライヤーには「なぜ耐光性が必要なのか」を背景まで説明しましょう。

また、過去に起きたクレームや、エンドユーザーの要求・SDGs文脈も共有することで、「単なるコストダウン」からの脱却、人間中心のパートナーシップが築けます。

バイヤーの視点、サプライヤーの立場、それぞれに伝えたい

バイヤー(調達・購買)の心得

コスト圧縮も大切ですが、「製品でお客様に何年満足してもらいたいか」を逆算し、インクコストの数%よりも長期的な信頼・ブランド価値を優先しましょう。

仕様書の明確化、サンプルテストの徹底、サプライヤーとの率直な対話――。
人も技術もアップデートしていく意識が、アナログ業界脱出の鍵を握ります。

サプライヤー(生産・品質管理)の心得

安易に「いつものインク」「似ているインク」で済まさず、ユーザー要求・調達意図をしっかり聞くことが第一歩です。

品質トラブルの原因は「記載不足・伝達不足」が8割を占めます。
「見えない部分」を可視化できる資料や、耐光性テストデータを積極的に開示し、信頼を積み上げましょう。

まとめ ─ 今日から始める“製造現場の色あせ対策”

陶磁器カップへのスクリーン印刷において「耐光性インク選定」は、単なるコスト比較の話ではありません。

顧客からの信頼や長期的なブランド価値、現場とバイヤー間の共存共栄に直結するテーマです。

現場感覚から踏み込めば、“ちょっとの工夫” “仕様書の一文” “対話の一言”で、みなさんの製品は間違いなく長持ちし、市場で際立った存在になれます。

昭和のアナログから、未来志向の製造現場へ――今日からできる一歩を、ぜひ踏み出していきましょう。

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