投稿日:2025年9月22日

令和の顧客ニーズに対応できない昭和的営業手法の限界

はじめに:製造業を取り巻く環境の激変と営業手法の課題

かつて製造業界は、「作れば売れる」という時代でした。
大量生産・大量消費が主流だった昭和の時代には、とにかく最新機械や高品質の製品を揃え、既存顧客に足繁く通う営業こそが王道と考えられてきました。

しかし、デジタル技術の進化やグローバル化、多品種少量生産といった潮流が加速した令和の今、顧客ニーズは多層的かつ変化のスピードが格段に増しています。
戦後高度成長期の営業手法が限界を迎えているにもかかわらず、現場の多くでは未だ「昭和流営業」が根強く残っているのが実情です。

本記事では、現場で20年以上にわたり調達購買、生産管理、品質管理、工場自動化まで広く関わってきた経験をもとに、「昭和的営業手法」がどのような限界に直面し、なぜアップデートが不可欠なのか、また令和時代の顧客ニーズに応えるためのヒントをわかりやすく解説します。

昭和的営業手法とは?今なお根付く「御用聞き」と「義理人情」

昭和型営業:顧客との「つきあい」を最重視した時代背景

昭和の時代において、営業マンは「御用聞き」と呼ばれるように、とにかくお客様のところへ足を運ぶことが最大の武器でした。
訪問頻度が信頼を生み、商品のカタログやサンプルを持ち歩き、ご要望に合わせて提案するスタイルです。

また、会社の宴会やゴルフ、冠婚葬祭といった「つきあい」も営業活動の一部として非常に重視されてきました。
そこには義理人情やお互い様の精神が色濃く、形式的な「長いものに巻かれろ」的な商習慣も根付いていました。

商談スタイルの典型例

– 得意先の購買担当者と定期的に訪問・面談
– 上司・役員のコネクションでの受注獲得
– コンペではなく「顔の見える関係」で案件獲得
– 横並び発注、暗黙の価格カルテル
– 見積依頼に対し形だけの価格交渉
– 電話・FAXでのやりとり

こうした構造の中で、「訪問回数=信頼」「根回し=最強」といった暗黙のルールが存在していました。

令和の顧客は何を求めているのか?市場の本質的な変化

デジタル化とバリューチェーンの多様化

今、製造業の現場ではIoTやAI、クラウドといったデジタルトランスフォーメーションが急速に進行しています。
顧客は製品のカスタマイズ性・短納期・適正価格に加えて、持続可能性やトレーサビリティ、情報開示、公平なサプライチェーン管理といった多面的な価値を重視するようになりました。

そのため購買担当者は、「良い商品かどうか」だけでなく、「どれだけスムーズに情報が得られるか」「自社の業務や戦略にどんな貢献があるか」を重視します。
複数部門が関与する意思決定プロセスも増え、かつてのような単純な義理人情による発注は現実的ではありません。

顧客の行動パターンの変化

– インターネットで予備調査・比較検討が当たり前
– サプライヤーとの初期接点はウェブやオンライン会議
– 複数部署・多人数参加型の合議制による決定
– ESG・SDGsを意識した調達ポリシーの強化
– サービスや技術サポートまで視野に入れた評価

このように購買の意思決定プロセス自体が大きく様変わりしています。
「なんとなく付き合いが長いから」「昔から取引しているから」といった理由だけでは受注しにくいのが現実です。

昭和的営業が限界を迎える理由

属人的・主観的な営業が陥る“情報弱者”の落とし穴

昭和流営業の多くは、「誰が営業するか・誰と付き合いがあるか」という属人性に強く依存しています。
しかし、こうしたやり方は担当者が異動や退職で抜けると関係が一気に途切れてしまったり、業務が個人のノウハウに閉じてしまいがちです。

また、FAXや電話によるやり取りが中心の場合、受発注ミスや納期トラブル、価格改定の伝達ミスなどが頻発しやすくなります。
その結果、最新情報や顧客の本質的なニーズを正しく捉えられず「指示待ち」になり、機会損失となることが多く見受けられます。

“御用聞き”では対応できない多様化・個別化

今や、多くの顧客は業務効率化や原価低減、環境配慮、働き方改革などの課題解決パートナーを求めています。
昭和的な「ものさし」だけで提案しても、細部までカスタマイズされた課題や新たな規制・基準への対応までは行き届きません。

付加価値提案やプロジェクト型営業、新しい物流提案、データ分析による最適化など、従来の枠組みを飛び越えた「提案力」が必要とされます。

現場目線で考える“アップデートすべき3つのポイント”

1. 情報力・DXリテラシーの強化が命綱

現代の購買担当者は、発注案件について常時比較検討を行い、最適な条件やリスクヘッジを図ります。
営業担当も顧客業界の課題、市場トレンド、他社の動向、為替や法規制に関する最新情報を押さえることが不可欠です。

そのためには、ITツールを使った情報収集や提案資料作成、チャットやオンライン会議ツールによるコミュニケーションに積極的に取り組む必要があります。
社内のSFA/CRMやERPなどのシステム活用を避けては通れません。

2. 顧客双方の価値“共創”の視点へシフト

これからの営業担当は「顧客の事情を聴くだけ」ではなく、課題を深く掘り下げ、一緒に解決策を組み立てるパートナーシップ型のスタンスが求められます。
単なる納入業者ではなく、「先進的な生産技術や物流ノウハウを提案し、生産性向上・品質安定化に貢献できる存在」を目指すべきです。

また、打ち合わせや商談でも複数部門(設計・生産管理・品質保証など)の情報を統合し、中長期での全体最適を設計できる“ラテラルシンキング”が大きな武器となります。

3. 「個の力+組織力」への転換

これからの営業活動は、個人技や属人的なネットワークだけでは限界があります。
組織として顧客情報やナレッジを共有し、見積・受注・生産・納品・アフターフォローまでを一貫してマネジメントできる「バリューチェーン営業」の確立が欠かせません。

これにより、突然の担当者交代や業務拡大にも柔軟に対応でき、組織としての発信力・交渉力も強化されます。
こうした仕組み化・標準化には、DX推進や教育・研修も連動して進める必要があります。

バイヤー視点で変化に気づく:調達購買の現場からのメッセージ

長年バイヤーを務めてきた立場からすれば、“昭和的営業”に対して次のような課題意識を持っています。

– 商談や提案資料が画一的で、自社現場の課題に紐づくソリューションが乏しい
– IT化やサステナビリティ対応など新しい流れへのキャッチアップが弱い
– 問い合わせや見積依頼に対するレスポンスが遅く、比較検討で不利になる
– 価格交渉や納期調整の主導権を委ねすぎて、“提案価値”が見えにくい

これらは全て、「受動的な御用聞き」から「積極的な課題解決型パートナー」への転換で改善できます。

バイヤーが重視するのは「言われたものを納入してくれること」以上に、「自社の変化に伴走し、先回りで提案・行動できること」なのです。

サプライヤーとして昭和的営業から脱却するためのアクションプラン

全社一丸で“提案型営業”へ

– 社内横断で顧客理解を深める勉強会や情報共有会を定期開催
– 技術部門・開発部門・物流部門を巻き込んだ共同提案チームの編成
– ウェブ会議・オンライン商談の定着化
– DX/ITリテラシー研修の義務化

営業の仕組み化・データドリブン化

– SFA・CRMツールによる活動履歴・進捗の可視化
– 見積・納期調整・顧客Q&Aのデータベース化
– 売上だけでなく「顧客満足度」「提案実施件数」など間接的な指標の導入

外部の変化を常に先読み

– 業界紙・展示会・競合企業発表の定期チェック
– ターゲット顧客の「3年後・5年後」の戦略や社会的責任へのアンテナを高める
– 次世代の営業ツールやSNSの活用(LinkedIn, X, Noteなど)

まとめ:時代の風を一歩先取りし、ものづくりの現場力を最大化しよう

昭和から令和へ、日本のものづくり現場は目まぐるしく変化しています。
かつて成功体験だった「御用聞き」「義理人情」「根回し」といった昭和型営業が、今や「顧客本位」「提案主導」「組織的連携」へと問われ方を大きく変えています。

これまでのやり方に固執せず、組織や現場全体でアクションを起こすことで、製造業界の価値創造力はさらに高まります。
令和の顧客ニーズにしっかりと応える営業へ、一歩ずつ進化を続けていきましょう。

本記事が、製造業界で働く皆さま—バイヤーを目指す方、現職バイヤー、そしてサプライヤーの皆さまの気づきとアップデートのきっかけとなれば幸いです。

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