投稿日:2025年9月30日

令和の若手社員に通用しない昭和的根性論の限界

はじめに

製造業の現場では、長年にわたり「根性論」や「精神論」が現場のモチベーションや作業姿勢の基礎として語られてきました。
しかし、令和という時代を迎え、入社してくる若手社員たちには、昭和世代が信じてきた根性論がもはや通用しなくなってきています。
私自身、製造現場で長く管理職を務め、様々な世代と共に仕事をしてきた中で、そのギャップに何度も直面してきました。
今回は、その原因や影響、今後の現場マネジメントのあり方について深掘りしながら、昭和的根性論の限界と新たな製造業の可能性について考察していきます。

昭和的根性論とは何か

定義と現場への浸透

昭和の時代、多くの日本企業、とりわけ製造業界では「やればできる」「辛抱すれば道が開ける」「失敗は努力が足りないから」といった価値観が根付いていました。
このような根性論は、工場の現場でも日々の標語として掲げられ、上司の叱咤激励や残業を厭わない姿勢によって体現されてきました。

一例として、納期直前のトラブルの際には「徹夜で終わらせるぞ」「気合で乗り切るしかない」という指示が常套句でした。
この姿勢が高度経済成長を牽引し、日本のモノづくりの礎を築いたのは事実です。

根性論の功罪

根性論は、困難な状況下でも諦めない気持ちや、限界を突破する働き方として一定の効果を発揮してきました。
しかし、その一方で「精神力」で乗り切ることが前提になってしまい、組織としての効率化や、業務プロセスの最適化の遅れ、そして過重労働・パワハラの温床になってしまうという弊害も生まれました。

なぜ根性論が今の若手社員に通用しなくなったのか

価値観の多様化

平成・令和を生きる若手社員は、バブル崩壊以降の不況、就職氷河期、働き方改革、そしてデジタルネイティブとしての環境に育ちました。
モノ・情報が溢れる時代に生まれ、学校教育や生活のなかで「自分らしく生きる」「ワークライフバランス」「合理的な判断」を重視してきた世代です。

かつてのように「会社や上司のため、すべてを犠牲にして尽くす」発想が希薄になり、「無駄・非効率・不合理」に敏感です。
がむしゃらに残業をすることや、精神論だけで困難に立ち向かうことを評価しないばかりか、「根拠がない」「理不尽」と捉える傾向が強くなっています。

情報化社会がもたらした透明性

SNSの普及やネット社会の発展によって、「他社ではこうだ」「正しい労働環境とは何か」「ブラック企業の実態」などの情報を簡単に手に入れられる時代です。
昭和的な「隠された現場の当たり前」は、もはや通用しません。
若手社員は常に「なぜこのやり方なのか?」「もっとよいやり方はないのか?」と疑問を持ち、自ら調べて行動する力を磨いてきています。

多様なキャリアパスと流動化

人材の流動化が加速し、終身雇用が絶対ではなくなっています。
ひとつの場所で耐え忍ぶのではなく「自分を大事にしたい」「スキルの合わない職場には縛られたくない」「転職して成長したい」と考える若手が増えました。
会社と社員の間で「無条件な忠誠心」が成立しない今、理にかなわない努力や過剰な根性の強要は、見限られるどころか、ブラック企業として悪評が立つリスクさえあります。

製造現場のアナログ文化と昭和的根性論の根強さ

変わらない現場の実態

日本の多くの製造現場では、2024年になっても「紙・ハンコ・対面」での運用や、「昔からこうやってきたから」式運用が当たり前です。
現場のベテランや中堅社員が粘り強く支えているため、生産現場の混乱は避けられてきましたが、根性論との親和性も高く、「仕組みより努力」で課題解決を図ろうとする傾向が根強く残っています。

管理職に求められてきたリーダーシップ

かつては、現場の厳しさを「背中で見せる」「部下を奮い立たせる」タイプの管理職が高く評価されてきました。
私が工場長を務めていた頃も、トラブル対応では「率先して現場に立つ」「誰よりも長く働く」ことで部下の信頼を得ようとしたものです。
ただし、これは裏を返せば「仕組みで解決できていない」「個人の根性に依存してリスク管理できていない」とも言えます。

根性論に頼れない時代に求められる現場マネジメントとは

仕組みと標準化による課題解決

根性論が通用しない今、現場で最優先されるべきは「仕組みの改善」と「標準化」です。
根性だけで乗り切れる負荷をかけるのではなく、誰もが無理なく、安定して高品質を出せる業務プロセスを作ることが肝心です。

例えば、生産管理の現場ならシステム化を進めて属人性を排し、
購買・調達の分野でも紙伝票やFAX文化からデジタルシステムへの転換を推進します。
品質管理でも「ヒヤリハット・なぜなぜ分析」を形式的なものにしない。
若手が納得できる「明快な勝ち筋」を作る必要があります。

現場で根性論が出がちな局面と、知恵で突破するコツ

繁忙期や突発トラブル、クレーム対応など、まだまだ「頑張り」で乗り切ろうとしがちな現場。
ここで大切なのは「なぜ頑張らなければならなかったのか」「この頑張りをどう仕組み化できるのか」をロジカルにフィードバックすることです。
不測のイレギュラーを単なる武勇伝で終わらせず、次に同じ事が起きないよう、工夫と知恵で現場を進化させることが求められます。

若手とベテランの協働が未来を切り拓く

根性論への拒否反応が大きい若手と、経験と勘を武器としてきたベテラン。
両者の間に壁ができがちですが、意識的に「若手の理屈・デジタル思考」と「ベテランの現場最適化力・経験知見」を組み合わせる場を増やしましょう。

たとえば、ベテランの暗黙知を可視化してエクセルやタブレットで誰でも再現可能にしたり、若手が提案したITツール導入をベテランが現場にフィットする形でアレンジしたりといった、
「双方の強み活用」が組織の強靭さにつながります。

バイヤーの立場からみた根性論の限界

サプライヤーでも求められる合理性と信頼の時代

購買・調達部門を経験してきた立場からも、従来型の「根性営業」は通用しなくなってきています。
顧客側のバイヤーにとっても、サプライヤーに求めているのは「熱意」ではなく、「約束した納期を守るスキーム」「トラブル時の迅速かつ論理的な情報開示」「業務基盤がしっかりしている」ことです。

取引先選定においても、情熱や根性に頼った対応では選ばれません。
見積もりのスピード感や業務の見える化、過去トラブルの再発防止策など、「信頼の見える化」が強く求められています。

データドリブンな判断基準に変わる

サプライヤーの立場からバイヤーとのコミュニケーションを考えると、「情熱と根性で何とかします」という一言よりも、
「こういうデータが出ていて、この部分は仕組みと人員補強でカバーできます」という説明が求められます。
根性の有無ではなく「合理的根拠」が評価される時代です。

おわりに~昭和の遺産と令和の地平線~

長年にわたって日本の製造業を支えてきた昭和的根性論。
これまでの経済成長や混乱期を乗り越える源泉にはなりましたが、社会や技術が大きく変わるいま、「人間の根性」に依存したマネジメントは限界を迎えています。
大切なのは、根性論が生んだ「困難への挑戦心」や「チームの団結力」という精神的遺産を活かしつつ、
現場では仕組み化と標準化、合理的な課題解決による本質的な改革を進めることです。
ベテランも若手も、バイヤーもサプライヤーも、互いの常識をすり合わせ、新たな時代のモノづくりに挑戦していきましょう。

「がむしゃらに頑張る」から「知恵で勝ち抜く」時代へ――。
製造業の現場で培った根性論を、一歩先の地平線へと進化させるときが、今まさに訪れています。

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