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システムを活用する人材が限られブラックボックス化する課題

目次
はじめに:昭和的なアナログ文化が残る現場で起こる“システムのブラックボックス化”とは
現代の製造業では、調達購買、生産管理、品質管理、工場の自動化といった多くの分野でITシステムの導入が進んでいます。
経営層や本社企画部門からは「効率化」「見える化」をキーワードに高度な仕組みが次々と導入され、デジタル変革が叫ばれています。
しかし、現場のリアルに目を向けると、システムを使いこなせる人材はほんの一部。
結果として「A係長しかシステムの全貌が分からない」「システム担当に聞かなければ何も進まない」といった、いわゆる“ブラックボックス化”が深刻な課題となっています。
本記事では、四半世紀に渡り製造現場に携わってきた経験をふまえ、この課題の実態と真のリスク、解決への道筋を現場の目線から深く掘り下げてご紹介します。
1. システムはなぜ「特定人材」しか使えないのか
現場でよくあるケース
多くの企業でシステム導入が進む一方、その現場運用には課題が山積しています。
実際によくあるのが、以下のような状況です。
– システム導入初期から携わったベテランが全体構造や細かな設定値を把握している
– 新人や他部署の社員は、操作マニュアルすら十分整備されていないため実践的な運用ができない
– 一部機能のみ伝言ゲームのように限定的に伝承され、応用的な使い回しや改善が全体でできない
私自身も、「サプライヤー管理のシステムはAさんにしか分からない」「生産計画シートの更新はB主任しか編集できない」といった“属人化された知識”に多く直面してきました。
ブラックボックス化が生まれる原因
なぜこのような状況になるのでしょうか。
主な要因を挙げてみます。
– システム導入時の教育研修が中途半端で、知識やノウハウの伝達が十分でない
– マニュアルや運用手順書が整備されていない、または常に最新版が維持されていない
– 現場ごとの“その場しのぎ”“自己流運用”で複雑化し、標準化されずにローカルルール化してしまう
– 「システムのことは詳しい人に任せる」という意識が現場に根強く、みんなが自分事と認識しない
これは、“アナログな現場感”が色濃く残る日本の製造業では特に顕著な現象です。
新人教育体系が「背中を見て覚えろ」スタイルである、という風土も根強く、システムもまた「使い方のカンやコツ」を現場リーダーしか把握していない格好になります。
2. ブラックボックス化がもたらす“見えないリスク”
業務停止・混乱の温床となる
特定人材しかシステムを活用できない状態は、一見すると「頼れるベテランがいて安心」と映るかもしれません。
しかし、その裏には重大なリスクが潜んでいます。
たとえば、キーマンが突然転勤・退職・休職などで不在となった場合、現場はたちまち混乱に見舞われます。
「Aさんが居ないので月次締めができない」「B係長が休んでいても発注処理が遅れる」といった形で、業務が止まってしまうのです。
私自身も工場長時代、「担当不可時の運用が全く整理されていない」という理由で本社監査から指摘を受け、小一時間説教された苦い経験があります。
継続的な改善が止まり、“昭和的文化”が温存される
ブラックボックス化は、システム導入の目的そのものである「業務の効率化」「現場の見える化」とは真逆の現象を生み出します。
– システムへの改善要望や機能拡張も、結局は担当者本人の頭の中でのみ議論される
– 非効率な手作業(紙帳票への手書き、FAXに転記、エクセルでの二度打ち)がシステムの隙間で温存される
– 外部ベンダーからのメンテ提案も活用できず、時代遅れとなっても現状維持にしがみつく
これでは業界全体の“昭和的アナログ文化”から脱却できません。
サプライチェーン全体でのスピードや品質向上も望めず、グローバル競争から取り残されるリスクさえあります。
3. バイヤー・購買担当にとっての本質的な課題
サプライヤー評価・調達力の低下
購買担当・バイヤー視点でも、システムのブラックボックス化は由々しき課題です。
– 細かな発注ルールや支払い条件の変更が“システム担当者しか知らない”まま属人化
– サプライヤー側も事務処理の度に現場特定メンバーの指示を仰ぐ必要があり対応が遅れる
– 緊急時の代替調達やトラブル対応が臨機応変にできなくなり、QCD(品質・コスト・納期)の最適化が困難に
本来、バイヤーがもつべき調達力や「現場情報の見える化」という大きな付加価値が、ブラックボックス化によって大きく損なわれてしまいます。
サプライヤー側から見たブラックボックスの壁
逆にサプライヤーの立場からみても、「取引バイヤーの現場がどれだけブラックボックス化しているか?」は、安定受注や長期取引を左右する隠れリスクです。
– 依頼内容や納品基準、基幹システムへの登録ルールなど、逐一“社内担当”に聞かないと分からない
– システム上できること・できないことを把握しづらく、品質や納期改善提案もしにくい
– 一人の担当者依存が続くと、その人物の退職や転勤で受注自体がストップしかねない
顧客企業のブラックボックス化は、サプライヤーが安定供給やコスト改善協力をする際にも大きな障害となるのです。
4. 現場目線で実践できる解決策:本質は“属人化”の脱却にあり
1. 「見える化」深化のための標準化・運用手順の整備
まず着手したいのは、システム操作や設定、データの意味について徹底的な「見える化」と「標準化」を進めることです。
– システム操作マニュアルや取扱い手順書を分かりやすく文書化する
– 定期的に内容の見直しを行い、現場メンバーが自分の言葉で補足説明できるようにする
– 「正常運転だけ」でなく「異常事態時(例:特定担当が不在)」の業務フローも必ず整備する
マニュアル整備は、決して“紙に書いただけ”で終わらせてはいけません。
「あるべき理想」を現場で実際に試行し、属人化・暗黙知が残っていないか、定期的に棚卸をすることが重要です。
2. “システム活用”の裾野を広げる人材育成
属人化の脱却のためには、現場メンバー全員のスキル底上げが不可欠です。
– 新人教育カリキュラムにシステム操作や現場運用を必ず組み込み、「見て覚えろ」から「共に改善する」へとシフトする
– 社内OJTやWeb教材の活用で、システムの背景にある“なぜその業務が必要か”まで理解できる教育を行う
– 定期的なスキルチェックやローテーションで、特定人材依存の現象を意図的に排除する仕組みをつくる
現場全体のITリテラシー向上は、例え小さな積み重ねでも長期的な競争力に直結します。
3. アナログとデジタルの融合的改善
昭和から続く“現場の勘と経験”、いわゆるアナログ資産そのものを否定する必要はありません。
むしろ、「現場の知恵」をうまくシステムに落とし込み、データ活用へつなげていくことこそが現代的な改善活動です。
– 紙帳票や手書きメモも、うまくスキャンやOCRでシステムに連携する
– 一度に大改革を狙わず、小さな自動化・省力化から段階的に「仕組み化」を進める
– システム担当と現場リーダーが“車の両輪”となって、課題発見・改善提案を推進する文化を育成する
この「融合型改善」こそ、現場感覚を持つ工場長や管理職が本気で取り組むべき真の“ものづくりDX”と思います。
5. バイヤー・サプライヤーが知っておくべき“これから”の調達現場
今後、製造業を取り巻く環境はさらに激しく変化していきます。
– 海外展開や多拠点集約化で、調達や現場業務のブラックボックス化リスクは増大
– ESGやサプライチェーン全体のトレーサビリティ確保の視点が必須に
– 人材不足や高齢化が進む中、属人化や運用の“つぎはぎ”では生き残れない時代へ
バイヤーもサプライヤーも、“現場のブラックボックス”を可視化・標準化する意識改革が不可欠です。
「どんな担当者でも、すぐ現場運用にキャッチアップできる・改善提案できる」体制作りが、これからは企業価値とサプライヤー価値の“両方”を左右します。
まとめ:IT化は「人」が活用してこそ意味がある
「システムを使っているから安心」ではなく、「システムをみんなで“使いこなせているか”」を見直すこと。
現場のリアルな課題として“ブラックボックス化”を放置しない仕組み・人づくりの両輪が、これからの製造業・サプライチェーンの分水嶺となります。
ベテランも若手も、バイヤーもサプライヤーも、“知恵とシステムの融合”で一歩先へ進んでいきましょう。
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