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リチウムイオン電池の劣化診断と解析・評価手法およびその事例

目次
はじめに:リチウムイオン電池の重要性と劣化診断の潮流
リチウムイオン電池は、EV(電気自動車)やスマートフォン、エネルギーストレージなど広範な分野で利用されています。
その優れたエネルギー密度と長寿命性能はデジタル時代のインフラとも言えますが、一方で「どれだけ使えるか」「劣化は進んでいないか」を見極める劣化診断・評価の重要性が年々増しています。
資源循環の観点や、コスト競争力の強化、トレーサビリティの要求に応えるためにも、リチウムイオン電池の劣化解析技術は今後ますます業界のスタンダードになっていくでしょう。
リチウムイオン電池の劣化とは何か?現場目線で解説
リチウムイオン電池の「劣化」とは、充放電を繰り返すことで性能が低下する現象です。
現場では以下の観点で捉えられることが多いです。
容量劣化
設計容量に対して実際に使える容量が減少する。
これはEVでは航続距離の短縮、携帯機器では稼働時間の短縮など、ユーザビリティに直結します。
内部抵抗の上昇
充電効率や出力性能が低下し、発熱の増加や緊急シャットダウンの原因にもなります。
工場での全数検査や異常検知がここに直結します。
自己放電の増大
長期間放置した際の電圧降下が大きくなり、在庫管理や物流でも重要な指標です。
劣化診断が求められる時代背景と業界の現状
EV市場の拡大や再生可能エネルギーの基幹化、そしてSDGs文脈における資源循環要求の高まり。
これらは劣化診断技術への注目を必然的に高めています。
バイヤー、サプライヤーの立場別ニーズ
バイヤー(調達担当)は「品質保障・保証期間内の安定運用」「返品・トラブル低減」に費用対効果を求めています。
一方サプライヤー側は「出荷検査の効率化」「品質不良の未然防止」「追跡可能な検査データ」の仕組みに求められる技術革新の圧力を強く感じています。
また、リユース・リサイクル市場の本格化により、「見た目が新品でも中身は劣化品」というリスクが顕在化し、中古市場でも高精度な診断要求が急伸しています。
こうした時代背景の中、古き良きアナログ現場でも最新のデジタル解析手法をどう融合させていくかが、新たな地平線となっています。
主な劣化診断・解析評価手法:現実解と先端事例
電気的な評価手法(実測ベース)
現場で最も導入しやすい手法が「電気特性測定」です。
・定電流充放電テストによる容量評価
・インピーダンス測定(EIS:電気化学インピーダンス測定)による内部抵抗推定
・自己放電測定による漏れ電流監視
これらは比較的シンプルで再現性も高く、ロット間比較や工程判定で頻繁に活用されています。
短所は「繰り返し試験に時間がかかる」「外観異常の検知が難しい」点です。
非破壊・物理的解析手法
より高度な現場では下記手法が使われています。
・X線CTスキャンによる封入異常、膨張・層間剥離の検査
・超音波探傷による内部構造異常の発見
・ラマン分光やFTIRによる化学劣化の可視化
これらは製品を壊さずに内部状態を観察可能ですが、「専用装置コスト」「データ解析の専門性」がハードルです。
大手では工程監査や原因究明に活用され、異常検知AIとの連携も進みつつあります。
データドリブン型(AI・IoT活用)の新潮流
近年は工場のスマート化と連動し、「状態量のデジタルツイン化」に注目が集まっています。
充放電曲線のパターンや、稼働中に常時計測される温度・電圧・電流などからAIモデルを構築し、リアルタイムに劣化診断を行うアプローチが先進工場で増加中です。
こうしたデータドリブン手法は「量産現場での全数判定」や「見えない顧客利用環境下での保守サポート」に強みを発揮します。
昭和型のアナログ管理に慣れた現場でも、「定型レポートへの自動反映」「異常検知の自動通報」など、デジタル導入のファーストステップとしても有効です。
劣化診断・評価手法の実例紹介:現場でいかに活用されているか
ここでは代表的な活用事例を紹介します。
自動車メーカー事例:量産ラインでの全数セル検査
大手自動車メーカーのEV用電池生産ラインでは、EISを使ったラインインスペクションを導入。
各セルのインピーダンススペクトルを記録し、AI判定で「初期不良・微小劣化」を99.9%レベルで排除。
判定NG品は自動的にリワークへ回送され、歩留まりと信頼性向上を両立しました。
保守サービス事例:IoT連携によるリモート劣化診断
産業用バッテリーでは、導入先のシステムにIoTセンサーを設置し、現地に赴かずに遠隔から劣化進行度合いを定期監視。
トレンドデータから緊急メンテナンスや交換タイミングをユーザーへ自動提案するサービスが実現しています。
これにより予防保全型の運用が普及し、顧客満足度の大幅向上につながっています。
リユース・リサイクル現場:中古電池の実力見極め
中古リチウムイオン電池の評価では、専用の診断装置で短時間かつ非破壊の「容量推定」「内部抵抗測定」を行い、ランク分けして流通。
JIS規格外のセルも混在するなか、「数値」と「可視化データ」を組み合わせた独自レーティング手法で、取引トラブルを減らしています。
これまで職人技や勘頼みだった選別作業が、データ志向の新しいビジネスモデルへと進化しています。
現場で劣化診断を進めるための課題と成功のポイント
アナログ思考からの脱却とマインドセット転換
歴史ある製造現場では「従来通り」「数字化は面倒」という空気が根強いものです。
しかし電池の場合「見た目」や「過去の経験」だけでは危険リスクやリコールを完全に防ぎきれません。
データ収集・解析の仕組みを現場管理者自らがわかりやすく説明し、小規模ラインや一部工程から段階的に導入していくことが肝要です。
人材教育と部門連携
劣化診断は調達・生産・品質管理・保守サービス・リサイクルと横断的なスキルが求められます。
現場の多能工化と評価技術者の計画的育成、解析結果と現場ナレッジの社内共有、案件ベースでの関係部門連携が導入成功の分かれ道となります。
装置投資と費用対効果の試算
CTスキャンや大型AI装置などの導入にはコストが付きものです。
ですが、「不良流出によるブランド・信頼損失コスト」「歩留まり改善による利益増」「業界内でのPR効果」など広い視点で費用対効果(ROI)を試算することが重要です。
また廉価なIoTセンサや中古市場向け簡易診断デバイスなど、投入規模に応じた装置選定も“現場ならではの目利き力”が発揮されます。
今後の展望:産業界が目指す次世代の電池マネジメント
リチウムイオン電池の劣化診断は、単なる品質管理ツールから「新しいサービス創出」「製品寿命戦略の一部」「循環型社会モデル」の中核技術へと進化しています。
今後は「デジタルツイン化された工場」「個々の電池セルの一生涯トレース」「フィールドから得られるビッグデータの解析」といった仕掛けが、バイヤー・サプライヤーの双方で競争力の源泉となるでしょう。
昭和型管理からの脱却を恐れず、「新時代にふさわしい評価・解析技術」を現場から発信し、日本のものづくりがこれからも強く、誇り高く発展し続けるための礎を共に築いていきましょう。
まとめ:現場感覚×新技術で切り開く、リチウムイオン電池の未来
本記事ではリチウムイオン電池の劣化診断技術の現状と事例、そして導入ノウハウについて、現場感覚に根差して解説しました。
業務に直接関わる方、これから調達・品質の現場に挑む方、あるいはサプライヤー側の皆様にとって、この記事が一歩先の実践と新たな視座を得る一助になれば幸いです。
製造業の未来は「現場発の創意工夫」と「新技術による現場革新」の掛け合わせの中にあります。
これからの時代にふさわしい“考え抜く力”を武器に、持続可能な産業発展を私たち自身の手で切り拓いていきましょう。
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