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ロードセル部材の設置位置で変わる測定精度

目次
ロードセルとは何か?—製造現場の見えざる名脇役
ロードセルは現代の製造業にとって、なくてはならない計測装置の一つです。
荷重や重量を高精度に測定し、その結果をさまざまな自動制御や品質管理へフィードバックすることができます。
ロードセルの最大の強みは、目に見えない「力」を数値化して可視化する点にあります。
加工工程、組立工程、物流、検品工程など、あらゆる現場で活躍しています。
しかし、ロードセルは単純に装置にセットすれば機能するわけではありません。
特に「設置位置」の選定が、測定精度を大きく左右します。
このポイントを疎かにしたために、せっかくの高性能ロードセルが宝の持ち腐れになってしまう現場も少なくありません。
昭和時代から続くアナログ思考が根強い一方で、現場目線で合理性に気づいて一歩踏み出す人が増えています。
この記事では、ロードセルの設置位置の違いがどのように測定精度に影響し、現場でどう考えていけばよいか、実践的な観点で解説していきます。
ロードセルの基本原理と種類
ロードセルとは、加えられた力—たとえば荷重や圧力—を電気的信号へ変換するセンサです。
実際の現場では「ひずみゲージ式ロードセル」が多用されています。
これは金属部材の微小な変形を「ひずみゲージ」と呼ばれる部品が電気抵抗の変化として捉え、その変化量から力や重さを高精度に算出します。
ロードセルには大きく分けて以下4種があります。
- ビーム型(片持ち梁型、両端支持梁型):比較的小型・低荷重用
- プレート型:薄板状で受圧面が広い、混載・分散荷重時に有利
- シアビーム型:横方向の力にも強い、機械的耐久性に優れる
- 圧縮型・引張型:直線上で力を受けるシンプル構造で大荷重用途に強い
多種多様な構造の中から、用途に合わせた最適なものを選定するのが現場力の見せどころです。
一方で、この選定以上に失敗しやすい—そして見落とされやすい—のが、設置位置とその取り付け方法なのです。
設置位置が測定精度に与える大きな影響
理想は「測定対象の力をすべて、ロスなくロードセルに伝える」
ロードセルで正しい荷重を測定するためには、測定したい力が全てロードセルにストレートに伝わることが前提です。
極端な例として、グラグラした台座や傾いた棚にロードセルを設置した場合、重心が片寄ったり、一部が空中に浮いてしまったりして、本来の荷重値が正しく伝わらない現象がしばしば発生します。
また、複数のロードセルを並列に配する場合でも、設置位置や荷重分担に偏りが出れば、全体の重さが正確に計測できなくなります。
これは特に大型品・長尺品・複雑形状ワークの計測で顕著に問題化しやすいポイントです。
「剛性」と「振動」の罠
製造現場では、ロードセルの台座や周辺部材の「剛性(固さ)」が測定精度にダイレクトに影響します。
例えば、厚みが薄いフレームや大きな振動が常時発生する装置のフロアに取り付けると、受けた荷重に応じて台座そのものがしなる・揺れるといった不具合が生じます。
これにより、本来伝わるべき荷重が分散し、数値に大きなバラツキや遅れが発生します。
設置する部材(床やベースプレート、架台など)が本当に「押されてもたわまない」設計になっているかは、現場経験者ならではの着眼点といえます。
力の「逃げ道」を作らない
ロードセルへの荷重を伝える部材(架台、フレーム、台座)は、完全にロードセルを通してしか応力が流れないように設計しなければなりません。
ところが、実際には取り付けねじや補強材、配線ダクトが床と接していて、思わぬ力の「逃げ道」になっていることが珍しくありません。
このような状態では、一部の荷重がロードセル本体をスルーして別経路で逃げてしまい、正しい測定ができません。
現場では「ちょっとした隙間」「わずかな接触」でも大きな測定誤差につながる危険性を、常に意識して設計・点検することが重要です。
なぜ昭和的な現場では設置ミスや測定誤差が多発するのか?
製造業の現場に深く根付く「現場合わせ」の文化は、日本の強みである一方で、定量的な精度管理を阻害することがあります。
「今までこれで何とかなった」「先輩がこう置けと言っていた」といった慣例が優先され、設置基準や精度根拠を明文化しないまま取り付けられるケースが多発しています。
特に、ロードセルの設置は一見すると単純作業に見えるため、専任のエンジニアが設計することなく、現場作業員の経験と勘に頼り切った取り付けが多いのが実情です。
また、「ロードセルが壊れた」「誤差が大きい」といった不具合が出たとき、本当の原因が『設置位置』『据え付け状態』にあることを見抜ける人材が少なく、センサそのものの不良や最新機種への買い替えに走りがちです。
こうした現場課題を乗り越えるためには、現場目線+理論的根拠の両立が必要不可欠です。
購買・調達担当が知っておくべきポイント
部材選定や設置に詳しくなればなるほど「設置面の精度管理」は無視できないテーマになります。
購買・サプライヤーの立場で押さえておきたいコツを挙げます。
①設置要件のヒアリング漏れをなくす
「どこに、どう設置されるか」は製品仕様だけでなく導入後のランニングコスト、保守工数にも密接に関わります。
荷重範囲・設置方向・高さ制限・周辺の障害物・メンテナンススペースなど、現場仕様の詳細を事前にヒアリングし、サプライヤーと密に連携することでトラブルを未然に回避できます。
②標準治具・設置マニュアルの有無を確認
昭和時代から続くアナログな現場では、設置作業を手順書・標準治具化しておく重要性が見過ごされがちです。
購買側の立ち位置でも「標準設置治具があるか」「水平調整や荷重伝達の最適化マニュアルがあるか」を必ず確認しましょう。
これがないまま納入すると、現場側でトラブルが頻発し、無駄なコストや信用低下を招きやすくなります。
③バイヤーとサプライヤーの密な情報共有
多品種変量生産・カスタム対応が増える中で、現場の状況は千差万別です。
バイヤー・サプライヤー間で設置位置や荷重伝達経路に関する認識齟齬をなくすには、過去事例共有や現場同席確認を徹底することが有効です。
また「納品後、設置立会いや初期検証まで請け負える体制があるか?」もリスク回避の観点で重要です。
設置精度向上に向けた実践的アドバイス
いくら高精度なロードセルを用い、多機能な制御装置を導入しても、「設置の一手間」で大半の測定精度が決まります。
小さな現場改善でもこれを意識するだけで、不良や歩留まり低下、再ワークの時間的損失を大幅に減らすことが可能です。
1. 下地レベルと水平の徹底
台座下地の「水平出し」「振れ止め補強」は基本中の基本です。
図面上の机上設計は必ず現場実測とすり合わせし、ガタ取り調整機構(シムプレート等)の有効活用を徹底しましょう。
2. 余剰応力・熱変形のチェック
運転時の熱膨張や外部応力(ボルトの締めすぎ等)が不均一荷重の原因となることがあります。
定期点検時には、ボルト締め直後と稼働後の荷重値を比較し、異常差がないかモニタリングすることが重要です。
3. メンテナンス・清掃容易性を確保
ロードセルや設置部材周囲にゴミや切粉が貯まると、意図せぬ「力の逃げ道」を生み誤検出の原因となります。
清掃やメンテナンスしやすい配置を必ず検討しましょう。
設置精度の追求が生産性を劇的に変える
ロードセル部材の設置位置は、測定精度のみならず、生産効率、不良リスク、歩留まりといった現場の根本課題に直結します。
「たかが部材の取り付け位置ぐらいで…」と見過ごされがちなこの一歩を、現場目線で徹底できる組織や担当者は、確実に他社との差別化ポイントになります。
製造業のʼ昭和マインドʼから脱却し、現場の知識と理論的根拠を融合させ、「設置精度」という新たな地平線を開拓していきましょう。
サプライヤー側もバイヤーの課題感を理解し、現場現物現実のコミュニケーションを深めることで、測定精度と現場力を両立できる新たな価値提案が生まれます。
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