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輸出契約時に必要な現地法務チェックリスト

目次
はじめに——製造業における輸出契約の重要性
グローバル化が進み、製造業における輸出取引はますます日常的なものとなっています。
取引規模が大きくなる一方で、現地の法規制やリスク管理が疎かになってしまうケースも散見されます。
とりわけ、昭和的な「信用取引」や「先方にお任せ」の姿勢が根強く残るアナログ業界においては、現地法務のチェックを怠り思わぬトラブルになることも珍しくありません。
本記事では、20年以上製造現場や調達実務を担当し、複数国との交渉や契約を重ねてきた実務家の視点から「輸出契約時に必要な現地法務チェックリスト」を解説します。
現場目線の実践的な内容にこだわり、業界の伝統的な傾向や課題もふまえつつ、今の貴方の業務に今日から役立つ情報をまとめています。
この内容は、バイヤー志望の方だけでなく、サプライヤーの担当者が「バイヤーの視点」を理解するうえでもご活用いただけます。
なぜ現地法務のチェックが重要なのか
1. 想定外の法規制で商機を失わないために
輸出契約のトラブルの多くは「現地の法律・規制を把握しきれていなかった」ことに起因します。
例えば、特定の製品に関する安全基準や許認可の取得義務、ラベリング規則やリコール義務などは、国によって全く異なります。
これを見落とすと、最悪の場合は輸送済みの製品が現地港で差し止められ、巨額の損失を被る事例もあります。
2. 知的財産・営業秘密の保護
自社の製品技術・ブランドを守るためには現地での特許、商標登録の有無の確認が必須です。
現地における知財訴訟事例や、営業秘密が流出した際の補償義務なども契約で明確にしましょう。
昭和的な「暗黙の信頼」で歩み寄ろうとせず、明文化されたルール設計が現代では必須となっています。
3. 営業慣行・商習慣の違いを理解する
製造業の国際取引では、ビジネス慣行や商習慣の違いが法的トラブルの引き金ともなります。
例えば、支払サイト(Payment Terms)や不可抗力(Force Majeure)条項の捉え方、瑕疵担保期間の基準、輸送遅延時の責任分担など、細部まで取り決める必要があります。
輸出契約前に押さえるべき法務チェックリスト
ここからは実務家の経験に基づき、「これさえ押さえておけば最低限の法務リスクは回避できる」というイシューをリスト化します。
1. 現地の取引先(法人・個人)の信用調査
まずはカウンターパート(取引先)が法的に有資格な法人・個人か確認しましょう。
登記簿謄本の取得、過去の訴訟履歴、決算内容の調査を最低限実施します。
特に新興国では「カタカナ付きの有名社名」でも実態が無いケースがあるので注意しましょう。
2. 輸出対象製品の現地規制・認証取得状況
・製品毎の現地規制(例: 食品安全規制、電気用品認証、RoHS/REACHなど)
・強制認証の有無(マーク認証、現地検査)
・ラベル表示要求事項
・禁止物質の有無
日本では流通できているスペックでも、現地では流通不可・回収命令の恐れがあります。
3. 輸出禁止・制限リストの該当有無
・外為法、貿易管理令による輸出規制
・米国/EU等の制限国向け再輸出規制(いわゆる「域外規制」)
・現地政府による禁輸・抵触商品の確認
これらに抵触すれば刑事罰や補償金の支払いリスクも生まれます。
4. ターンキー契約・据付業務時の現地作業員の労働法規制
据付や現地立ち上げ支援を伴う場合、現地の労働法やビザ・就労資格確認が欠かせません。
「駐在員送り込み型」ではなく「現地雇用型」でサポートする場合は、労働保険・安全管理も要求されることがあります。
5. 知的財産・商標・営業秘密の登録確認
・現地での商標登録、特許登録の有無チェック
・共同開発・委託先と結ぶ秘密保持契約(NDA)の妥当性確認
・OEM/ODM契約時の知財リスク分担
商標は現地エージェントや第三者に「先取り登録」されていた…という事例は昭和から令和まで尽きません。
6. 現地語・現地法制に則った契約書作成
・英文(または現地語)の契約書で作成
・準拠法(Governing Law)・裁判管轄(Jurisdiction)の明記
・契約解除条件・損害賠償責任・不可抗力条項の明文化
日本語契約書の「片仮名翻訳」は紛争時無効になることが多いため、法的に効力ある形式・翻訳者(弁護士等)選定も大切です。
7. 貿易保険・取引信用保険の加入
万一の取引不能・相手国政府の規制変更・為替急変時にも備えて、貿易保険や売掛債権保険の加入も推奨します。
日本のアナログ業界では「未回収債権は勉強代」という認識が未だ強いですが、現代は保険を活用し「持続可能な事業」を目指す発想が必要です。
8. 税務・移転価格・関税制度の把握
・現地国の関税、付加価値税(VAT)適用可否
・移転価格税制の内容(グループ企業間取引等)
脱税(Unintentional Tax Risk)のリスクを排し、適切なインボイス記載や現地申告に備えます。
税理士・会計事務所との事前協議も重要です。
現場目線で実践する!チェックリストの運用術
1. 部門横断的に「ブラックボックス化」を防ぐ仕組み作り
実際の現場では、契約・輸送・技術・営業・現場作業の情報が「サイロ化」しがちです。
バイヤーの独断、営業の属人的判断だけで完結せず、必ず法務・品質管理・物流担当者も含めて情報共有する仕組みがレジリエンスを高めます。
2. 定期的な現地法改正情報のウォッチとアップデート
近年では現地法の改正ペースが短くなっています。
古い「日系先輩」達の経験談は貴重ですが、それが今も通用するかは必ず再チェックしましょう。
現地の日本商工会やJETRO、現地法律事務所から最新情報を吸い上げる仕組みを作ることが肝要です。
3. 書類管理・証拠保全もデジタル時代の必須要件
「紙文化」が残る製造業現場では、契約書の原本・共有データの管理が大きな課題となっています。
電子署名、クラウドストレージ、アクセス権管理を活用し、「誰が何をいつ承認したか」を明確に記録することが、いざ紛争となった場合の生命線となります。
4. バイヤー・サプライヤー双方の視点を理解する
バイヤーは「リスクを如何に抑え最適品質・コストに近づけるか」、サプライヤーは「納品責任・品質保証・受注の最大化」を念頭に交渉します。
現地法務をすり合わせることで、「両者にとってwin-winなルール」を探ることこそが長期的なパートナー関係の鍵です。
まとめ——リスクから競争力へ!「法務リテラシー」が現場改革につながる
製造業における輸出契約は、アナログな慣行を引きずったまま対応すると、想定もしなかったリスクが潜みます。
反面、「現地法チェックリスト」を地道に整備・更新し、部門横断で情報を共有することができれば、それ自体が自社の競争力となります。
昭和的「気合いと根性」だけに頼らない、現代的「法務リテラシー」を持った調達・購買部門や現場リーダーの存在が、輸出事業の安定成長を支え、持続可能なモノづくりの基盤となるのです。
難解な法律文書に怯むことなく、小さなチェックリストから一歩ずつ始めてみてください。
現場で磨かれたバイヤー・サプライヤーたちの知恵や工夫は、きっとこれからのグローバル製造業を牽引していくはずです。
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